学際的研究
昔の海洋学者は、世間のことは構わず、純粋科学として研究できたが、現在はそうはいかない。中央研究院の李遠哲・元院長も、気候変動などの人類の存亡に関わる課題の解決は「もう待ってはいられない」と呼び掛けている。
中でも海洋学は、大気、物理、化学、生物、地球科学といった分野と関わっており、大規模な自然災害も海洋と関係している。台風は海上で発生するし、海底で起きる地震も多く、またそれは津波を引き起こす。今日、人為的な原因で、地球温暖化や海洋酸性化、海洋汚染、海洋資源の枯渇といった重大な問題が起きている。人類が生存するためのレジリエンスや共同の福祉の増進において、海洋科学の研究と応用は欠かせない存在なのである。
そこで、気候変動や環境汚染といった喫緊の課題を解決するため、多くの海洋学者が学際的研究に取り組んでいる。
「学問の貴さは自由にあり、以前は専ら純粋科学の領域での進展を追求し、応用面を考えることはあまりありませんでした」と語るのは化学海洋学者で中央研究院環境変遷研究センター研究員の何東垣だ。それが現在は、海洋サステナビリティ科学の研究へと方向転換している。「研究分野における問題が重大化している今、科学者は力を合わせて目前の課題を解決しなければなりません」と言う。
そこで彼は近年、国際的な学際研究プロジェクト「Future Earth」に積極的に参加している。これは李遠哲が推進するプロジェクトで、地球環境の変化とサステナビリティをテーマとし、異分野の研究者が力を合わせてソリューションを見出そうとするものである。
何東垣はこのプロジェクトに属する「Ocean KAN」チームの座長を務めている。Ocean KANではこの3年の間に、藻類の養殖、サステナブルな漁業、海洋保護区の設立、気候変動下のブルーカーボン(海洋生態系に貯留される炭素)などについて討論してきた。これらのテーマはいずれも国の産業発展や国民の日常生活と関わっており、実務的な影響も大きい。
時には、困難は問題自身ではないところにある。「答えはすでにそこにあっても、すべての人の信頼とコンセンサスを得なければならないことがあります」と何東垣は言う。技術面で学際的な協力が必要なだけでなく、ひとつのテーマにおける利害関係者が相手の言葉を理解してコンセンサスを求めていく過程こそ、科学の重要な基礎となるのである。「かつて私たちはfrom science to policy/managementと言ったものですが、逆も然りです。重大な政策を決める時、科学も追いつかなければなりません」と語る。
海底の実験サンプルを回収する研究スタッフ。海草床の堆積物が放出する温室効果ガスの量を測定している。(国立台湾海洋大学海洋環境および生態研究所曾筱君提供)