ダイビングで台湾一周
かつて、オールトラリアでのワーキングホリデーの間に彼は一年で150万元を稼ぎ、経営者は彼に長期の就労ビザを申請すると言ってくれた。「オーストラリアは給料が良く、生活も快適です。でも実際のところ、自分は何か特別な貢献をしたわけではありません」「台湾では努力によって社会を変える機会があります。台湾の海をもっと良くするというのが自分が本当にやりたいことなのです」
2019年、肯夢AVEDA創設者である朱平の紹介で、旅とダイビングの達人であるSimon Pridmoreを台湾に招き、台湾一周のダイビングの旅をしてもらった。この旅は『Dive into Taiwan』という一冊にまとめられた。(中国語版は6月に城邦から出版予定)。この旅で一行は東北角、恒春、蘭嶼、澎湖、小琉球、緑島などを巡って海に潜った。陳琦恩は台湾の六大ダイビングスポットの特色を説明してくれる。——東北角海岸は、短期のビジネス客に向いている。台北から日帰りできるので最も行きやすいスポットだ。台湾最南端の恒春は、レジャーの要素が最も豊富で、大自然を満喫するとともに古跡を巡ることもでき、大人から子供まで飽きることなく楽しめる。「小琉球の見出しなら、90%の確率でウミガメに出会える、となるでしょう」と言う。蘭嶼は水深40メートルまで見通せ、現地の文化は豊富で、他とは違う台湾と出会うことができる。澎湖はサンゴの被度が非常に高く、沈没船が見られるダイビングスポットもあるので、ぜひ一度訪れてほしい。緑島は世界の十大ダイビングスポットの一つで、絶対に潜りたい海だ。
一方、新型コロナウイルスの感染拡大で海は休息できることとなった。この間、台湾海域でのシュモクザメ(ハンマーヘッドシャーク)やザトウクジラの目撃通報が増えており、「海外ではめったに目にしない幻の生物が台湾の海に出現したのです」と陳琦恩は興奮して語る。ダイビングスポットとしての台湾のポテンシャルの高さがうかがえる。
しかし、これまで歩んできた陳琦恩は、あらためて「マリンツーリズム」について考え直すこととなった。「世界的な視点から考えなければなりません」と言う。Simon Pridmoreを招いた時、東北角は予定に入っていなかったのだが、Simonは、台北を訪れるビジネス客は多いので、台北から日帰りできる東北角は魅力的だと提案した。また、ダイビングスポットを紹介するだけでなく、台湾の風土や文化についてもマリンツーリズムの一環として紹介するべきだと提案した。
Simonによると、現在台湾はバックパッカーにふさわしいことは伝わっているが、全体的に統合された計画が示されていない。ハイエンドのダイビングツアーなら、アクセスや宿泊、食事、ダイビング、マリンガイドなど全体に配慮する必要があるということだ。さらに陳琦恩が素晴らしいと思ったのはSimonの妻のSofie Hostynの専門性の高さだ。彼女はバリ島で働いたこともある上級ダイバーで、海の生態に非常に詳しく、海の生き字引とも言えるほどだ。海の生き物に対するお客の疑問にすぐに答えられる。これほど専門的なサービスが提供できてこそ差別化が可能になる。
こうした産業グレードアップの概念から、彼は以前に城邦グループの何飛鵬社長から「台湾のダイビング産業チェーンを構築してはどうか」と言われたことを思い出した。そこでダイビングだけでなく、より大きな「マリンツーリズム」として発展させることを決意する。
世界各地の海に潜ってきた彼はマレーシアのシパダン島で壮大な魚群に遭遇したこともある。だが今は、息子と一緒に海で遊ぶ時間が何より貴い。「台湾が世界のダイバーの選択肢のひとつとなり、多くの外国人がダイビングをきっかけに台湾を知ってくれればと思います。また、より多くの若者がここに残り、私のように安定した生活を送れるようになってほしと願っています」と言う。