「HAPPY」
連作「オリエンタル・スタイル」の一つ「久しぶり、東風」は、フランスの審査員団が2002年世界で最も美しいポスターだとしたものだ。その前に陳俊良は「HAPPY――楽しさは楽しさの間に」で第14回フランスポスター国際展で入選を果たした。このほか、香港デザイン協会の「デザイン展優秀賞」や日本の第6回世界ポスタートリエンナーレトヤマ2000でも入選している。
フランスポスター国際展の審査員がその作品に与えた評価は、この作品はこの時代にほとんど存在しなくなった善良さ、つまり争いも対立も恐れも虚偽もない善良さを表現しており、ヒューマニズムを内に秘めている、というものだ。
普通、文字と絵は2つの異なる領域に属す思考で、はっきり分かれているものと考えられがちだ。だが陳俊良は違っており、この2つの才能を合わせ持っている。1つはポスターデザイン、もう1つはコピーの才能で、どちらも優れている。第14回フランスポスター国際展で入賞した「HAPPY」がその一例で、そのほかのコピーも賞を取っている。陳俊良は言外に意味を持たせるのがうまく、その言葉使いに驚く人も多い。それは完全に詩人の域に達したものだ。
荘園貿易社のワインのためにデザインしたコピーは「豊かな収穫を蔵した冬、穏やかな世界。恵みの雪で、紅が引き立つ。沈殿した歳月は人生での出会い、杯を掲げ口に含む。独りのおだやかさ、一家団欒の記憶。今ここに甦る」というものだった。味のある文章、美しいデザインで、まさに人を魅了してやまない広告となった。
東張西望
この間、陳俊良はデザイン業界の友人3人と共著で「放4(ファンスーと発音)」という本を出した。このほか、彼は長い間暖めていた企画である、旅行中に撮った写真の展覧会「東張西望」を開催した。これらの本の題名や展覧会名は掛詞になっている。共著のほうは4人のデザイナーの作品を中心に収めているから「放4」だが、これは「放肆(「放4」と同じ発音、「大胆に」の意味)」新たな美の観点を打ち出したものだ。「東張西望」は、旅路である旅人が「東張西望(周囲を見回した)」結果の集大成でもあるが、その言葉は東洋人が西洋を旅した観点も示している。豊かな文字のイメージがその作品の最も魅力的なところとなっている。
陳俊良は、ぴったりはまるコピーを創ることは非常に難しいと言う。だが彼は納得のいくまで何度も何度も書き直していった。こうしたプロセスを経ることで、彼は次第に腕を上げ、今では言葉の楽しみのほうが絵よりも感じられるほどになった。
この才能は出版関係者が多い家庭環境によるものだ。彼の父親と兄は出版関係の仕事をしており、小さい頃から年上の人が文章を書いているのを見てきた。この自然な環境によって、彼は読書に興味を持つようになった。大学に入ってから、家族が出版した本は、すべて彼のデザインで、合わせて350冊もの本の表紙をデザインした計算になる。長い間のこのようなトレーニングで、彼はデザインもでき、コピーも書ける能力を得たのだ。
「できるだけ積み重ねていくこと」が陳俊良が、若いデザイナーたちにいつも言う言葉だ。デザインという仕事は、多く見て、多く聞き、多く行動することが唯一の成功への道なのだと言う。特に多く行動することが大切で、ただ見たり考えたりするだけでは意味がない。
デザインという仕事で大切なのは、実務そのままの経験なのである。「例えば友人と話していて、もし説明できないなら、まだその概念を理解していないということですし、それができないならまだ自分のものにしていないということになります」と彼は言う。
冷たい色、熱い心
毎月平均15冊の内外の雑誌に目を通す陳俊良は、そこから常に新しいイメージやインスピレーションを得ている。そして旅行でも各国の異なった文化を吸収している。異なる文化はデザイナーのアンテナを増やし強い刺激を受けることができ、同時に自分の感性が古くなっていないか、変化の速いこの社会と合っているか知ることができるのだ。このため、どこに行っても、彼は地元の人の生活、食習慣などをつぶさに観察し、人々の暮らしぶりを見たり、見知らぬ人と話してみたりする。こうしたことがアーティストにとっては非常に大切なことであり、実際にさまざまなアイディアを旅行中の観察から得ているのだと言う。ゆっくり観察するために、普通は一人で旅に出る。寂しさもあるが、その楽しさは計り知れない。
寒色系を偏愛する陳俊良だが、その心はとても熱い。数年後、デザインの仕事について20年を迎えたら、職場を離れ老人介護の仕事をしたいと考えている。この計画は、誰も世話をしていない一人暮らしの老人で、苦しい生活を送っている様子がよくマスコミで報道され、非常に心を痛めているためだ。彼は退職後、老人たちに暖かい手を差し伸べ、一人暮らしの老人をできるだけ手助けしていきたいと考えている。心の奥深くに秘めたこのような願いが、陳俊良の作品の色調が冷たいものであるにも関わらず、実際には温かみを感じさせてくれる理由なのかもしれない。
国際ポスター・公共アート展セビニャック賞とは
パリを本部とする国際ポスター・公共アート展のグランプリであるセビニャック賞は、世界のポスターデザインにおいて最も重要な賞だ。フランスの台湾協会の合作・文化組文化事務局の専門職員であるデュピュイさんによると、セビニャック賞は国連のユネスコが経費と会場を提供しており、その信頼性は疑う余地がないものだ。
セビニャック賞という名称は、フランスのポスターデザイン界の巨匠、レイモンド・セビニャックから取ったもの。2002年10月に享年95歳で死去したこのデザイナーは、第二次世界大戦後、牛乳石鹸の一連のポスターでヨーロッパ中にその名を響かせ、今でも多くの人に敬愛されている。1995年、フランス政府は当時87歳だった彼に、青少年を対象にしたドラッグ反対をテーマにしたポスターの制作を依頼した。彼の名を冠したセビニャック賞も、非常に重視されている。
フランスは「文化のるつぼ」であり、実に多様な文化を楽しめる。特に東洋文化は候孝賢、楊徳昌(エドワード・ヤン)、蔡明亮など台湾の映画監督の作品がよくフランスで賞を取っていることからもその状況がうかがい知れる。フランス人は台湾を含めた東洋文化に大変慣れ親しんでいるのだ。デュピュイさんは、東洋のスタイルが国際的なデザインにおいても評価されるのは理解できることだと指摘する。
国際ポスター・公共アート展のこれまでの受賞者は、1992年パー・アルモルディ(デンマーク)、1993年スタシス・エイドゥリゲヴィチウス(ポーランド)、1994年ラフォール・オルビンスキ、1995年福田繁雄(日本)、1996年ミルトン・グレイザー(アメリカ)、1997年ヨン・クォン(韓国)、1998年と1999年はケリン・ランク(スウェーデン)、2000年はジョン・アウ(香港)、2001年はブルガリア系アメリカ人のルバ・ルコヴァ、そして2002年は中華民国の陳俊良となっている。