新人監督にチャンスをあたえる環境
興行成績が伸びる一方で、映画の芸術的価値が軽視されることを危ぶむ声もあるが、台湾映画の状況を香港の業界は羨ましく見ている。
「台湾映画は十数年の低迷を乗り越えましたが、今は香港映画が最悪の状況で、何とかそれを乗り越えて台湾に追い付きたいと願っています」と、2011年に『桃姐(桃さんのしあわせ)』で最優秀主演男優賞を受賞した劉徳華(アンディ・ラウ)は語った。
聞天祥は、米国育ちで『一頁台北(台北の朝、僕は恋をする)』を製作した陳駿霖(アーヴィン・チェン)に、米国で映画を学んだのに、なぜ台湾に機会を求めたのか、と訊ねたことがある。
これに陳駿霖は、台湾では新人監督に他の国より多くの機会が与えられるからだと答えた。良い脚本と企画さえあれば、数百万元の映画助成金が得られ、国の保証があるというので投資家も安心して資金を出す。さらに地方政府に申請すれば撮影補助が得られ、多くの人が新人監督の夢の実現に協力してくれるのである。一つ一つ段階を踏んで進行するので、映画の質や露出度も確保できる。
「台湾の新人監督は大きな理想を抱いています。自宅を売って映画を撮る人もいますし、『作らずにいられない』という不思議な雰囲気があります」と聞天祥は言う。魏徳聖も林書宇(トム・リン)も、楊雅喆(ヤン・ヤーチェ)も、台湾映画の冬の時代に映画の世界に入り、ようやく訪れたチャンスをしっかりとつかんだ。低迷の中を耐え抜くことが映画人の精神なのだという。
多くの新人監督と仕事をした経験を持つ葉如芬は、台湾で次々と新人監督が生まれるのは監督になるハードルが低すぎるからだとも考える。少なからぬ新人には盲点があるため、まず映画製作のスタッフから始めて経験を積むことを勧める。
キャスティング、スケール、ストーリーなどが映画のヒットを決める要素となる。黒社会に入ってしまう若者たちを描いた『艋舺(モンガに散る)』、学園青春映画『那些年,我們一起追的女孩(あの頃、君を追いかけた)』、アクションの『痞子英雄(ブラック&ホワイト)』、そして原住民族の抗日の戦いを描いた『賽徳克・巴莱(セデック・バレ)』と、台湾映画の興行成功が続いている。