李欣倫——全生命のために書く
2002年に最初のエッセイ集『薬缶子』を発表してから、李欣倫は『有病』『重来』『此身』『以我為器』などの作品を書いてきた。中医師の娘だが、子供の頃はハンバーガーが好きだった。人生や老いや病に関心を注ぎ、医者と患者の関係や、病気、身体などを考える文章を書き、旅や女性をテーマとした散文も発表してきた。
ベジタリアンになったきっかけは、2003年のインド旅行だった。この混沌とした美しい国で五感に衝撃を受けた。数々の苦難の現場を目にし、肉食の背後に動物の苦しみがあることを意識し始めたという。幸いインドには菜食主義者が非常に多く、もともと肉食にこだわりのなかった彼女は、ごく自然にベジタリアンになった。
現在は中央大学中文学科で教鞭を執っている。SNSや商業主義が極めて盛んな現代社会において、彼女は可能な限り物質を追求しないようにしている。これは最近、仏教を研究していることとも関わっており、作品からも、その信仰や仏教思想が読み取れる。
菜食主義に関する文章は、6年前に出した作品『此身』に集められている。ここで言う「此身」とは自身の肉体だけでなく、「彼身」「衆身」つまり他者あるいは多くの生命の身体を指す。彼女はこの作品で、己という枠を乗り越え、身体をテーマに世界に暖かい思いを寄せている。