マリア様に祈る
私たちはリトル‧マニラの中心地、大同大学の向かいにある聖多福天主堂(セント‧クリストファー教会)へとやってきた。ここは台湾に暮らすフィリピン人の信仰の中心で、「聖多福」という名の通り、ありがたい教会である。多くの宗教は旅人の平安を守るとされており、台湾の媽祖もそう言われる。カトリックの聖人セント‧クリストファーも旅人の守護神なのである。
この教会が「聖多福」と名付けられたのは、建立の物語と無関係ではない。1957年に建てられたこの教会は、ベトナム戦争中に休暇で台湾に来ていた米軍関係者の礼拝のために建てられたのである。時代は変わって米兵は去っていったが、英語でミサを行なう伝統は残り、思いがけず英語を話すカトリック信者の多いフィリピン人が通うこととなったのである。
フィリピン人女性には「マリア」という名前の人が多いのはなぜだろう。黄琦妮さんによると、フィリピン人の9割は生まれてすぐに教会で洗礼を受け、子供に聖名をつける。キリストの母である「マリア」も聖名として当然人気がある。この名前は生まれたばかりの子供に対する人々の祝福と愛を象徴しており、「私たちにとっては、とても美しい名前なのです」と言う。
台湾各地のカトリック教会を見ても、聖多福天主堂ほど頻繁にミサを行なうところはない。日曜日は朝9時から夕方の6時まで、1時間半ごとにミサが行なわれる。教会には10名の神父がいて、フィリピンやベトナム、インドネシア出身の神父もおり、英語だけでなく、タガログ語やベトナム語でのミサも行なわれる。
そのため日曜日になると聖多福天主堂は人の行き来が絶えず、フィリピン人の他に西洋人も少なくない。聖多福天主堂の教会区秘書である黄姫瑪さんは「ミサの回数が多いので、時間がなかなか取れない労働者や観光客にも非常に便利なのです」と言う。統計によると、日曜日一日でのべ3000人が教会に出入りする。「給料日後の1~2週間は特に多くの人が集まります。労働者の多くがこの一帯で故郷に送金し、それから教会に足を運びます。カトリック教徒ではない人も、友達に付き添って一緒に来ます」と言う。
ミサに参加しない場合でも、外には24時間にわたって神像が祀られており、信者は下にある蠟燭を灯して祈ることができる。
こうした宗教面の活動の他、教会では厨房や教室を信者の利用に開放している。黄姫瑪さんによると、工場従業員、介護スタッフ、新住民(結婚で台湾に移住してきた人々)、華僑、さらにベトナム人など17の信者の団体があり、礼拝堂の2階にある個室では、それぞれのグループが講義を受けたり、誕生日パーティを開いたりしている。聖多福天主堂は、まさに「故郷を離れて暮らす人々」の心の拠り所であり、物質面でのケアも怠らないのである。
教会を後にし、中山北路を南へ向かうと東南アジアの有名なスーパーマーケット——EECとRJ Supermartがある。店内にはフィリピン人には懐かしい東南アジアの食品や雑貨、あるいは人気の土産物などが揃っており、ここも大勢の人でにぎわっている。
週末になると大変な賑わいを見せるリトル‧マニラでは、東南アジアの雰囲気が感じられる。