水越デザインの色彩プロジェクト
水越デザインを創設したAguaは、フランス留学から帰国後、多数の商業デザインを手がけ、国際的な賞も受賞してきた。だが「デザインは顧客だけにサービスするものなのか。より多くの人と社会に貢献すべきではないか」と考え、仲間とともに都市問題を解決するためのさまざまなアイディアを打ち出してきた。そして2006年に誰もが好きになる都市を目指して「都市酵母」プロジェクトを立ち上げた。一人一人が都市のために役に立つ酵母菌になれる、という考えである。自ら参加することによってのみ、本当にこの都市を好きになれるとAguaは言う。
都市酵母プロジェクトにおいてさまざまな創意を蓄積する中で「都市の色彩」は常に重要なテーマであった。そこで2011年、都市酵母チームと台北市都市更新処が共同で「台北都市色彩プロジェクト」を立ち上げ、都市の色彩の研究を始めた。台北市のランドマークや政府機関の標識、橋、タクシー、街路樹、チェーン店、街頭の設置物などの色彩の統計を取り、台北市の色彩を統計的に分析するというものだ。そして興味のある市民を募り、市内を歩きながら地域や通りごとの色彩を観察していく。さらに都市の色彩を表現した作品1368点を募集して電子書籍『台北都市色彩巨集』にまとめた。
さらに都市酵母プロジェクトでは、バス停で待っている人が東西南北が分かるように色を設けた。台北では東側は山に囲まれているので緑、北には紅樹林(マングローブの林)があるので赤、西は川に面しているので青、南には土城があるので茶褐色という具合だ。地理的特色による色分けが分かりやすい。
看板も都市景観の一部を為す。都市酵母では図書館の書架を町並みに見立て、そこにさまざまな看板を設置して、台北市の看板の混乱を考えるきっかけにしている。
引き算の美学で変電箱を美しく
2016年、ワールド・デザイン・キャピタル(世界デザイン首都)の活動に合わせ、都市酵母の色彩研究が実践の機会を得た。台北市には歩道などに9000以上の変電箱(変圧器)があり、それが市街の景観に影響を及ぼしている。今の変電箱は一般の緑色のほかに山水画や花鳥画などが描かれたものもあり、美化の意図は良いのだが、デザイン的な考慮が欠けているため、かえって景観を混乱させている。
「都市の主役は人であるべき」と考えるAguaは、環境の快適さと調和のために、変電箱も違和感のあるものであってはならないと考える。
そこで都市酵母は昨年12月からワークショップを開始し、市民から希望者を集めてさまざまな通りの特色と色彩を観察し、色見本カードを使って変電箱にふさわしい色を探した。今年2月には色を変更する変電箱を白く塗って市民の議論を促し、3月には市政府広場に試験作品を展示して市民の意見を求め、4月から実際に施工を開始した。基本的には低彩度で汚れが目立ちにくく、環境に融合して目立たない色合いである。
例えば、台北の金融街である松江路一帯の色彩を市民とともに観察すると多くの建物がグレーを基調としていることがわかり、この通りの変電箱にはグレーのグラデーションを採用することにした。台湾大学付近の新生南路は文化的雰囲気にふさわしい茶色となる。
濃い色は引き締まって見える。二つの変電箱が並んでいる場合は、向き合った面に補色を塗り、視覚的に奥行きを出す。もともと変電箱に書いてあったさまざまな情報は、車道側と歩道側の面に分けて視覚上の負担を減らした。さらに、変電箱の台や変圧器、中間色や警戒色が見えるようになっており、市民が色彩への認識を深められるように工夫されている。
東は緑、西は青、南は茶褐色、北は赤。地域の特色を色彩化し、バス停で東西南北の方向を分かりやすくする。