社会面と環境面の危機
ここ20年、現代化の波で太平洋諸国の生活形態も変わり、それに伴って環境問題も深刻化してきた。「地球環境変遷と人間の安全保障」という学際的研究チームの1998年の報告によると、この地域の環境危機は以下の3点にまとめられる。
(1) 資源の搾取
経済発展を追求するために自然資源の搾取が加速され、環境の質が悪化している。例えば、雨林面積は伐採によって急速に減少し、それにより土壌の浸食や大水や生物種の絶滅を引き起こしている。800年前に森林を伐採し尽くして滅亡したイースター島と同じ道を歩むのか、心配されるところだ。
また、先進国の利益と現地政府のニーズが結びつき(あるいは迫られて)、かえって大きな代償を払うこともある。
有名な例は、パプアニューギニアに属するブーゲンビル島の事例だ。1960年代末、当時のオーストラリア植民地政府が、国内の鉱業会社にブーゲンビル島での世界最大の銅山開発を許可した。1975年に独立したパプアニューギニア政府もこの契約を継続し、現地の環境保全には全く手を出さなかった。その結果、銅山が島の経済を完全に支配し、同国の財政収入の20%を占めるようになり、河川や海は汚染され、森林は消失して社会にも緊張をもたらした。そして1989年、島の分離独立を求める勢力の運動で銅山は閉鎖を余儀なくされ、破壊された環境と、引き裂かれた社会が残されたのである。
最大の環境破壊と言えば、20世紀の西洋強権による核実験と核廃棄物投棄であろう。列強にとって、太平洋の環礁は遠い海の果てにあり、核実験にふさわしい地域ということになる。アメリカは1946年以降、マーシャル諸島のビキニ環礁で12年にわたって核実験を行ない、現地住民は二度も移住させられて被爆した。最後の実験は1996年、フランスはフランス領モルロア環礁で188回もの核実験を行なった。
(2)深刻なゴミ問題
急速な都市化と人口増加、そして一部地域の工業化で、ゴミや廃棄物の処理が深刻な問題となり、それは小島嶼国の環境行政の欠如を浮き彫りにしている。環境への影響の監視メカニズムはなく、危険性のある化学物質の輸入や使用の管理も不十分だ。住民は缶入り飲料やプラスチック製品を好み、自動車やバイクも増えているが、環境負荷は考慮されていない。
さらに皮肉なことに、塩分を含んだ海風と年間平均80%という湿度ため、家電や自動車、機械、コンピュータなどは錆びて故障しやすい。故障すると、修理のための道具や部品や技術がないため、そのまま廃棄物となってしまうのである。近年はオーストラリアやニュージーランド、台湾などがリサイクルの概念と技術を紹介しているが、島々のいたるところに出来たゴミの山をなくすのは容易なことではない。
(3)気候変動の最前線
1990年代以降、大気科学界は気候変遷報告と海面上昇の予測を提出し、太平洋の島々は複雑な環境課題に直面していることが明らかになった。
珊瑚礁の環礁島は平均海抜が5メートルに満たず、海面が上昇すれば深刻な影響が出る。海岸の浸食、マングローブ林の消失、耕作可能な土地の減少、地下水の塩濃度上昇などだ。
「気候変動に関する政府間パネル」の2009年3月(最新)の予測では、今世紀末までに地球の海面は平均1メートル以上上昇するということで「小島嶼国の水没」は現実味を持つ深刻な課題となった。
しかし、生態資源管理を研究する開南大学観光学科の劉子銘准教授によると、学界では海面上昇に関して議論があり、その予測方法もさまざまだと言う。例えば、南極の降雪量が増加して北極の氷の融解量を「相殺」するという説もある。また、地球の引力の影響で太平洋の海面はむしろ下がりつつあるとする報告もあり、海面上昇説はあまり単純に誇大してとらえるべきではないと言う。
海面上昇に関する議論は別として、当面の急務はやはり気候変動への対応ではないだろうか。風や波の威力増加、降雨形態の変化と土壌の水分吸収力の低下、そして海水の酸化による珊瑚の白化と死滅などだ。特に島嶼の住民にとっては珊瑚礁が死んでしまえば、陸地を守る天然の障壁がなくなり、サイクロンによる巨大な波をまともに受けることとなる。また珊瑚礁の生態が崩壊すれば、珊瑚と共生する魚を食べる大型の魚類の数が激減し、島民の食料安全保障と、漁業を中心とする島の産業も脅かされる。
エメラルドグリーンの内海と、濃いブルーの外海に挟まれた細長い陸地は、美しく脆い。これはキリバス第二の環礁島で首都があるタラワ島、最も高いところでも標高わずか2メートルだ。