緊急地震速報
地震は人を精神的に緊張させるが、予知は可能なのだろうか。陳国昌によると、現在のところ地震予測技術はまだ成熟していないが、地震発生から数秒以内の警報は可能になっている。地震波から地震の範囲や揺れの程度などを自動計算し、破壊的な揺れが到達する前に警報を出すことで、生命や財産の安全を確保するのが目的だ。
2016年の美濃大地震で、台南の維冠ビルが倒壊したことをきっかけに、学界と気象局が共同で地震自動定位技術を開発した。これによって地震の規模や各地の震度分布などのデータを算出し、緊急速報を出す。現在のところ、マグニチュード5.0以上で、震度4以上が予想される場合、地震発生から10秒以内に通信業者のプラットフォームを通してスマホに「国家レベル警報」が送られる形になっている。陳国昌によると、自動定位システムの確度は6割以上である。2023年末にはアラート送信までの時間が10秒から7秒まで短縮できる見込みで、その後は5秒に挑戦していく。「5秒までの短縮に成功すれば、日本を超え、緊急地震速報が最も速く出せる国になるかも知れません」と言う。
昨年、学界では地震予知技術において大きな進展があった。中央大学地球科学科教授の顔宏元が率いる研究チームが、2013年から2018年のマグニチュード6以上の地震発生前の地電や地磁気、電離層などのデータを統合し、ビッグデータ分析を行なったところ、対応する異常信号が出ていることがわかり、地震の前兆分析に役立つと見られている。気象局では2024年に計画を提出し、さらに研究を深めていく予定だ。
台湾の地震は、東部沖と東海岸の宜蘭から花蓮にかけての一帯を震源地とするものが最も多く、全体の7割を占める。陳国昌によると、このエリアはユーラシアプレートの沈み込み帯に位置し、地形は複雑で破砕帯も非常に多い。一方、枋山からフィリピンにかけてはマニラ海溝があり、ここでも大地震と津波が発生する可能性がある。そこで、台湾の宜蘭県頭城から屏東県枋山まで、そして枋山から台湾南海域のマニラ海溝の東側に海底ケーブルを設置し、海底観測ステーションを設けている。海底地震のパラメータ試算にかかる時間は35秒から20秒まで短縮され、津波警報も提供できるようになった。現在、海底観測網を有しているのは、世界でも台湾と日本とアメリカだけである。
天災の脅威を前に、防災は永遠に進歩し続けなければならない。東華大学環境・海洋学部の学部長で中央研究院地球科学研究所の特別研究員である張文彦は、余震から得られる地質構造や密度、深度の変化などのデータ収集を強化して専門家が地下の活動を分析し、将来的により大規模な地震が起きないかどうか評価すべきだと語る。
台湾大地震の後、内政部は新たな建築物や橋梁の耐震基準を高めた。今年2月にトルコとシリアで発生したマグニチュード7.8の地震では万単位の建物が倒壊し、死者は5万人を超え、住宅建築の耐震性が大きく注目された。
張文彦は、地震災害の深刻さは古い建築物の耐震性にかかっていると指摘する。近年、政府は市街地の再開発や古い住宅の耐震補強などを推進している。それが完全に実施できないとしても、建物の検査を進め、耐震家具の普及などを進めれば災害を減らすことができるだろう。
「ブラジルでの蝶の羽ばたきが、テキサスで竜巻を引き起こすか?」というのはアメリカの気象学者エドワード・ローレンツが打ち出したバタフライ効果(カオス理論)である。ほんの小さな一つの現象がその後の系の状態を大きく変える可能性があることを意味する。ここからも分かる通り、大自然の複雑さは科学の限界を超えた計り知れないものであり、防災においても、人類は絶えずレジリエンスを強化しなければ、天災と共存することはできないのである。
気象局の「八角屋」には、伝統的な地震計と最先端の地震計が設置されている。
1999年9月21日の台湾大地震の強震で倒壊した台北市の東星ビル。(外交部資料)
2016年の高雄市美濃の地震で、台南市永康にある維冠金龍ビルが倒壊した。(林格立撮影)
2012年の台風14号が台湾を襲った時、中央気象局気象予報センターの黄椿喜副主任は、予報センターに8泊9日も寝泊まりしたという。