学と官の両立は難しい?
注目したいのは、最近は学者と官僚の世界を行き来する人が少なくないことだ。中国伝統の知識階層には「学びて優なれば則ち仕う(学問がよくできれば官途に就く)」という考えがあるが、学界にこれが影響しているのだろうか。
台湾大学心理学科教授で中央研究院のアカデミー会員でもある楊国枢氏は「台湾の知識分子の困窮と超越」という文章でこう指摘している。台湾政府は人材を必要としており、在野の学者が次々と政府に「籠絡」されて、中国数千年の読書人の「学びて優なれば則ち仕う」という道を歩んでいる。中には治国の理想もないまま官僚になることだけを志す者もいて、これが台湾の知識分子が直面している苦境だという。
「学びて優なれば則ち仕う、というのは封建思想で、多元的な現代社会では取るに足りないものです。学者が政治に携わるのがいけないというのではありませんが、政務官の名簿を見るとほとんどが学者で、政権や内閣が交代すると、また別の学者が政務官になるというのは間違っています」と話すのは台湾大学城郷研究所の夏鋳九教授だ。知識人は自分の理念にしたがって大いに意見を述べ、直言するべきだが、政務官は慎重かつ円満にものごとを進めなければならず、喜怒哀楽や個人の理念を挟み込んではならない。このように両者の使命は大きく異なるため、うまく適応しなければ問題を起こしかねないと言う。
現在、台湾では野党が与党より多数を占めている状況にあり、政府は進歩的なイメージの台湾大学の学者を次々と入閣させているが、これは政策の推進に実際に有利に働くのだろうか。また学者が官僚としての経験を積むことは、その後の学術研究にどう影響するのだろうか。
林万億教授は、学界と政界の人的交流は非常によいことだと考えている。第一学府の学者であれば、上司や議会からその専門性を尊重される。林教授が在任中に決めた弱者や中途退学者のサポート、校長の選考制度などの政策は、台北県で今も受け継がれているという。
「今は授業や研究においても理論に豊富な経験が加わるようになり、台湾の事例から西洋の理論を検証できるようになりました」と語る林万億教授は、官僚としての経験を学術研究に生かせるかどうかは、個人の力にかかっているが、あまり長期間学界から離れていると研究に戻れなくなると指摘する。
「政府による学者登用で利益を得ているのは台湾大学です」と林教授は言う。学校の名声が高まり、常に権力の核心にあるという栄誉が感じられるからだ。ただ台湾大学は昔から知識人の潔癖さ重視しており、学内の学者が政府に任用されても、これを特に栄誉と見なすことはない。
1990年3月、5000名にのぼる若者たちが台北の中正記念堂に結集し、「国是会議の開催」を求めた。台湾大学の学生が発起したこの「野百合学生運動」は、台湾の民主改革に大きな影響を及ぼした。(張良綱撮影)