心に山があれば、山の魂を感じる
同じく高山型の国家公園である雪覇国家公園は直線距離では玉山から105キロしか離れていないが、玉山とはまったく異なる風景と歴史遺跡を持つ。雪覇国家公園の地勢は変化に富む。玉山国家公園より2万ヘクタール余り狭いが、3000メートル級の山が51もあり、圏谷や断崖、鍾乳石なども見られる。植物は標高の低い地域の広葉樹林から高山ツンドラまであり、タイワンマスなど氷河期からの動植物も見られるほか、ニイタカナズナや十数種の鳥の固有種、フトオアゲハやサンショウウオなど希少な保護対象動物も生息する。
雪覇の巡視員は全員が付近に暮らすタイヤルの人々だ。彼らは山に生まれて山に暮らし、山に畏敬の念を抱いている。雪覇一帯の複雑な地形にも詳しく、方向感覚にも優れている。「タイヤル族は雪覇との間に神秘的で親密な関係を持っているように感じます」と話すのは雪覇国家公園管理処遊憩課の胡景程‧技士だ。「彼らは一種の直感を備えていて、まるで山の一部のように感じます」
タイヤルの人々にとって、山は神聖な祖霊がいる場所なので、入山前には必ずタイヤル語で祈りを捧げる。「これから山に入ることを祖霊に報告し、お守りくださるようお願いするのです」と巡視員の陳中華は言う。
1992年に設立された雪覇国家公園では、特色あるレジャーエリアを3ヶ所開放している。西北の観霧エリアと東北の武陵エリア、そして西の雪見エリアだ。それ以外の大部分は生態保護区に指定され、高い峰が密集しており、容易に到達することはできない。そのため、特定の登山ルートを除いて、ほとんど人の手が入っていないため、巡視員も助け合えるよう2人1組で行動する。
タイヤル族は雪覇周辺の標高1000~1500メートルの山麓や河岸段丘に住んでいる。これらの地域出身のイサ‧バウネイ、陳中華、武芢頡らは山への回帰の道を選び、Gaga(タイヤルの社会規範)を通して己を見つめている。
彼らは自らの経験と原住民族の知恵を力へと変え、雪覇国立公園の第一線の守護者となった。希少な樹木を盗伐から守り、獣道に赤外線カメラを設置し、野生動物の健康状態を観察し、動植物に関するデータを収集して研究のために提供する。さらに違法な狩猟者による仕掛けを撤去し、希少な魚類の稚魚を放流し、また渓流や川床を巡視し、遭難者の救助にも当たる。国家公園管理処と協力するこれら巡視員は、タイヤルの若い世代にも影響を及ぼし、集落や山林へと回帰する若者も増えてきた。
26年にわたって生態解説員を務めてから巡視員になった蕭玉山は、玉山の地形だけでなく動植物も熟知しており、巡視中には道端の生態の変化にも注意する。