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旭東の製造する生簀網配管部品は、最北端ではアイスランドで使われている。(旭東環保科技股份有限公司提供)
農林水産業や牧畜業は、文明史上古くから存在する仕事だ。そのうち海洋資源に依存する漁業はとりわけ予測不可能で危険をも伴う。しかも成功を収めるには、イノベーションや生き残りの道を探らなくてはならない。
国連食糧農業機関の統計によれば、人類が消費する魚介類のうち養殖が占める割合は1980年頃にはわずか9%だったが、1990年代には20%、2010年には44%と増加を続けており、養殖は2030年には水産業で主導的地位を占めると見られている。地球が海洋資源枯渇に直面する中、台湾企業が将来性を見込んだのは網生簀養殖だ。海洋資源の持続可能性のためにも力を注いでいる。
いずれも屏東にある金洲海洋科技股份有限公司(King Chou Marine Technology、以下「金洲」)と旭東環保科技股份有限公司(Sun Rise E&T、以下「旭東」)は互いによく知る間柄で、いずれも漁網関連業のそれぞれ異なる専門分野を持ち、国際市場で活躍する。海は彼らの腕を磨く練習場であり、その過酷な環境で競争力のある製品の開発を進めている。
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アメリカ式大型巻き網の製造現場。機械で編み上げた後の組み立ては人の手が必要だ。巨大なのでクレーン車で吊り上げる。
世界の最前線に
高速鉄道の左営駅で下車、さらに車で40分ほど行ってやっと屏東県新園郷にある金洲の工場に着く。漁網メーカーとしてスタートした金州は、中国昆山、ベトナム、インドネシアなどに生産拠点を広げ、輸出先は80カ国以上に及ぶ。
やはり駅から遠い屏東工業出口加工区にある旭東では、高密度ポリエチレン(HDPE)を原料として射出成形された生簀網基部がエントランスホールに展示されている。製品は55カ国で販売されており、近年はジャンルを拡大してフローティングソーラーシステムの開発も進める。
台湾最南端にあるとはいえ、この2社の見据えるのは世界市場だ。金洲は世界第2の漁網メーカーで、ノルウェーのNOOMASS認証を受けた台湾唯一の企業でもある。一方、旭東は環境に優しいHDPEパイプの開発に取り組み、網生簀システムを製造する。すでに直径70メートル、円周約22メートルの網生簀養殖設備の製造を実現しており、これはアジア最大、世界では第2(ノルウェーに次ぐ)の大きさを誇る。
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網の広い用途と、ツールとしての代替不可能性を陳加仁さんは見込み、開発と製造に取り組んでいる。
産業の将来性
金洲の陳加仁・董事長によれば、台湾の漁網産業の世界進出は1950年代のベトナム戦争に端を発する。アメリカが南ベトナムの産業支援として台湾から漁網を大量に購入したのが、台湾にとって国際市場開拓の契機になったという。漁網の素材も初期は綿や麻などの天然繊維だったが、後には日本から導入されたナイロンになった。
1978年、陳家仁さんの父親は友人とともに「金洲製網」を設立、2002年には社名を「金洲海洋技術」に変更してブランド「King Net」を打ち出した。当初は刺し網や小型のナイロン網を主に製造していたが、1986年に国連が公海での刺し網使用を禁止すると、陳家仁さんは事業の転換を考え、1990年にアメリカのCasamar社と技術提携し、大型のアメリカ式巻き網の製造を始めた。陳さんは「当初この市場の将来を予測できていたわけではありません。でもこれは一種のツールであり、しかも他に代わるもののないツールであることはわかっていました」と言う。ツールとして網の応用範囲は広い。漁業だけでなく、建設、スポーツ、軍事、農業など、金洲の製品はさまざまな分野に進出している。
一方、旭東の董基旭・董事長は販売業から製造業に転じた経歴を持つ。39歳で引退もできたがまだ事業への野心が残っていたと笑う。友人から高密度ポリエチレン(HDPE)を紹介され、この素材に将来性を感じた。「一つは環境に優しいと国際的に認められていること。ヨーロッパの水道・ガス管のほとんどはHDPE製です。もう一つは、台湾で使われる塩ビ(PVC)パイプは漏水率が高く、HDPEが台湾でもっと使われるようになればと考えました」と言う。
董基旭さんは1995年に「旭東環保科技股份有限公司」を設立、オーストリアを視察した際に「世界にパイプメーカーは多いが、配管部品を作る会社は少ない」と気づいた。配管部品製造には金型の開発も必要で、技術的にハードルが高い。董さんは自ら開発に取り組んだ。実験結果を待って72時間不眠不休のこともあったという。
最初は注文がまったく来ず、海外でのチャンスを探った。「当時、国際的に網生簀養殖が登場し始めたのを知り、1999年に取り組んで2000年に成功、こうして網生簀産業に進出しました」と言う。
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金洲は、ノルウェーNOOMASの認証を受けて生簀網を製造する台湾唯一の企業だ。写真は金洲の引張試験の様子。(金洲海洋提供)
金洲 世界への入場券
金洲の陳加仁さんは漁獲と養殖の比率の変化に注目し、2003年にノルウェーの生簀網業者と戦略的提携を結んで製造技術を導入、さらにノルウェーのNOOMAS認証を取得して、金洲は網生簀養殖用具製造の国際資格を持つ工場となった。
ノルウェーの網生簀養殖は大規模で高額資本が投入されており、養殖業者は損害保険に入るが、保険契約には網生簀システムに対する厳格なチェックが設けられている。そのため、いわば安全テストレポートと言える認証が重要となるのだ。「ノルウェーで売るには彼らの国の認証が必要です。そして台湾では我が社だけが認証を得ています」と陳さんは説明する。ノルウェーの養殖業は世界をリードしており、その認証は世界進出への鍵となる。現在、金洲の生簀網はノルウェー、オーストラリア、チリ、カナダなどに販売されており、「生簀網は現在我が社の収益の15%を占めていますす」と言う。
品質保証だけでなく「我々は顧客のニーズに合わせ、各種タイプの網を作っています」と言う。最近ノルウェーのメーカーと協力してテストを行った製品は、特別な上昇通路が設計された生簀網だ。円周約200メートル、深さ20〜30メートルもあるような生簀網の中には何万匹に及ぶ魚がいる。それらすべての魚の管理はできないため、水中に監視カメラと魚の顔認識システムを設置し、一定間隔で水面に浮上する魚の特性を利用して、上昇通路を浮上してきた魚の皮膚に異常がないかを監視し、あれば隔離する仕組みだ。「こうした生簀網は巨大で製造も難しく、実際に水中でテストしないと使えるかどうかわかりません。試行錯誤で費用もかかりますが、できるだけ顧客のニーズに合わせたいです」と陳さんは語る。
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生簀網製造工程の最後は手作業で縫い合わされる。(金洲海洋提供)
旭東 隠れたチャンピオン
一方、旭東の董基旭さんは、かつて事業が危機に瀕した時の話をしてくれた。2004年、中国製のコピー品が出回り、1年で受注ゼロとなったのだ。幸い、本物の品質が認められて翌年には注文も次々と戻ってきた。「うちの強みは、システム設計のノウハウです」と言う。システムとは、生簀網が海中でどの部分も問題なくしっかりと固定され、いかなる状況でも海流や風浪に耐えるものを指す。「海域ごとに環境は違います。台湾海峡でも北から南まで各海域で海象は異なります。だから多くの海域での経験が必要です」
デンマークの企業のために生簀網を設計した際には、零下20度を超える悪天候で海に出る必要があり、当時は若くて体力もあり怖いもの知らずだったと董さんは笑う。だが、最悪の天候を知らなければ対策も立てられない。最近ではオーストラリアのタスマニア島からの依頼があり、息子を島に1か月在住させて状況を把握させている。タスマニアには小さなサイクロンが来て、海流が8ノットに達する日がある。「その1日のために備えなければ失敗します」「うちの製品はノルウェーで秒速53.1メートルの風と7.3メートルの波に耐え、日本の宮古島では毎年の台風にも被害はありません」と董さんは胸を張る。旭東の生簀網配管部品は、最北ではアイスランド、最南ではニュージーランドで使われ、しかも50年の耐久性を保証する。
近海での網生簀養殖がヨーロッパでも話題になる中、董さんは「湾内での養殖は飼料によって水質の富栄養化が起こり、環境団体からも抗議を受けるので、外海の水深60~90メートルでの網設置を検討すべき」と指摘する。デンマーク企業との提携では、「外界で海流は1.5ノット以上あり、飼料による汚染の心配はありません。ただ外海は波が高く、海流の速さも考慮に入れています」現在、旭東で最大の生簀網は直径70メートル、円周約220メートルあり、ノルウェーの直径100メートル、円周310メートルに次いで世界第2の広さだ。「構造は同じです。うちでもより大きく作れますが、まだそういう注文が来ていないだけです」と董さんは言う。
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網生簀養殖の様子。生簀網設備は海中にしっかりと固定され、網も深海の悪天候や捕食動物による損傷に耐える必要がある。海鳥やアシカが入らないよう上方にもネットが取り付けられている。
サステナビリティ
持続可能性も両社の関心事だ。金洲は長年にわたり、古い漁網のリサイクルを呼びかけ、巻き網漁船の使用済み漁網のリサイクルも支援している。古い網を解体して材質ごとに分別し、ナイロン網の部分はリサイクルするのだ。2022年の初め、金洲は台湾化学繊維(フォルモサ・ケミカルズ・アンド・ファイバー)との協力で「ナイロン・トータル・リサイクル」プロジェクトを進めた。台湾化学繊維の専門的なリサイクル技術によって、古いナイロンを再び溶解、分散、精製などの工程にかけてカプロラクタム(ナイロンの原料)に戻し、これを再び重合させて繊維を作り、高品質のファッショナブルな衣料品に生まれ変わらせる。これは石油化学原料の消費を減らすだけでなく、貴重な資源を高価値に再生する循環型経済モデルだと言える。
一方、旭東がこの業界に入ったのも環境に優しいHDPEに注目したのがきっかけだった。HDPEは重金属を含まず、燃やしても二酸化炭素と水蒸気しか出さない。2009年に台湾が大型台風に見舞われた翌年、当時の曹啓鴻・屏東県長が「養水種電(水を育て電力を栽培する)」構想を打ち立て、董さんに技術支援を求めた。董さんが1週間かけて作ったモジュールは、射出成型による生簀網配管部品をソーラーパネルの配管部品に作り変えたものだった。これが後に旭東のフローティングソーラーシステム開発につながっていく。その後は台湾、アメリカ、タイ、日本、フィリピンなどで特許を取得、また日本、タイ、ラオス、台湾で実用化されている。フローティングソーラーシステムを開発したのは世界でもフランスのシエル・テール社だけであり、しかも旭東は太陽光に合わせてパネルを微妙な角度に調整できる唯一のメーカーだ。太陽光発電は陸地だけでは限りがあるので、湖や遊水池での実施は将来的な方向だろう。「例えば日本には遊水池が多く、フローティングソーラーシステムの設置が望まれています」と董さんは言う。
世界各国での実績を紹介してくれた董基旭さんは、EUでも洋上太陽光発電計画があり、将来、世界のエネルギー市場の勢力図には大変動があるだろうと予言する。そこに登場する台湾の姿を、我々は期待して待つことにしよう。
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董基旭さんはエコ素材であるHDPEを用いた生簀網を開発する。システム設計のノウハウを持つだけでなく、設置現場である海洋条件も把握する必要がある。
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射出成形された生簀網部品。旭東はアジア第1、また世界第2(ノルウェーに次ぐ)の網生簀養殖設備メーカーだ。
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HDPEは斜張橋のケーブル保護管にも用いられるが、旭東はHDPE保護管を供給する世界わずか3社のうちの1社だ。写真は屏東の「鵬湾跨海大橋」。(旭東環保科技股份有限公司提供)
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金洲は長年、海洋資源の持続可能性に関心を寄せ、巻き網漁船の使用済み漁網回収を支援している。
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金洲は台湾化学繊維との協力によって、ナイロンを原料のカプロラクタムに戻してから再び重合させて繊維を作り、高品質で環境に優しいおしゃれで機能的な衣料に仕上げる。(金洲海洋提供)
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射出成形の配管部品はソーラーパネルの部品ともなり、エネルギー開発により多くの可能性を示す。写真は桃園市埤塘のフローティングソーラーシステム。(旭東環保科技股份有限公司提供)