台南の古跡文化区である赤ｮr楼から遠からぬ民族路、短い通りに6軒の担仔麺の店がある。その中で最も新しい赤ｮr担仔麺は市内で唯一の24時間営業の店だ。

百年の歴史を持つこの建物は補修が必要な状態だったが、この1階に店を開いた曾鳳玉さんは、繁盛する店舗の拡大を考えていた。そして数ヶ月前に2階も借りて店を拡大し、営業時間を少しずつ延ばしていった。こうして開店4年目の2004年、百年の老舗「渡小月」と並んで台南ランタンフェスティバルの台湾小吃の代表に選ばれたのである。

古い建物の補修には時間と費用がかかった。2階の屋根は取り壊して巨大な原木で支え、外側に開く骨董風の彫刻の窓枠を取り付けた。小学校の古い木の机と椅子が並ぶ店内で担仔麺や肉燥飯を食べていると、懐かしい気分になる。建物の補修には400万元かかったという。

放浪の少女時代

この成功の背後には曾鳳玉さんの粘り強さがあった。

十数年前に離婚した時、彼女は夫の博打の借金を肩代わりするという覚書にサインをし、道端で一杯40元の担仔麺の屋台を始めた。4年前に店舗を構えてからは、年に1店ずつ支店をオープンし、今では台南と高雄に合計4店を持つ。彼女が雇っている女性従業員は90人、その8割が一人で子供を育てている女性だ。

小学5年までしか行ったことのない曾さんは、放浪の少女時代を送った。賭場を開いている家に生まれた彼女は寝るのも大部屋で、目を覚ますと隣に酔った博打客が寝ていることもあり、この家を出ようと決意した。家にいるより放浪した方がましだと思ったからだ。こうして幼い頃からアルバイトをしながら暮らしてきた。

21歳のときに「もう疲れた」と思った彼女は12歳年上で、実家が台南担仔麺の店をやっている男性に嫁ぎ、店を手伝い始めた。落ち着いた生活ができると思ったのだが、1986年、台湾ドルのレートが大幅に上昇する直前にホットマネーが流れ込み、台湾の資金市場は秩序を失った。多くの人が六合彩や大家楽などの博打に熱中し、彼女の姑と夫ものめり込んでいった。これでは家はつぶれてしまうと思ったが、まだ1歳の娘を残して出て行くことはできず、離婚はしたが、その後、十数年も夫の家族とともに暮らし続けた。

その頃、彼女は担仔麺の屋台を始めたが、売上はすぐに借金取りに取られてしまった。借金取りに罵られて涙が出ても、お客には笑顔で対応した。

午後5時から翌朝5時までの屋台を閉めると、彼女はすぐに台所で娘の朝食を作った。朝の2時間だけが娘との大切な時間だ。子供を学校へ送ると、今度は朝市へ行って食材を調達する。疲れすぎて駐車場の木の下で眠ったこともある。生きるために年中無休で働いてきたのである。

台南民族路の店は古い建物にレトロな装飾が施されている。家主がかつて開いていた歯科医院の看板も残され、店の外には昔の担仔麺売りの道具が置かれている。

年中無休で借金を返す

娘が20歳になった時、彼女は正式に離婚して夫の家を出た。一文無しになった彼女は娘と新しい人生を歩み出した。

人生の谷底にあっても、彼女は店を持つ夢を持ち続けていた。前夫の関係で銀行の信用を失っていたため、融資を受けることができず、危険を覚悟でヤミ金融から60万元を借り、家賃5万元で古い店舗を借りた。

2002年、その古い店舗を改装して店を開いた。商売上手な彼女は、開店初日に麺を1杯10元で売って道行く人々を引き付け、閉店後には3ヶ月先に支払う10万元の小切手を切って慈善団体に寄付をした。自分を励ますための行為だったが、この行動が好評を呼び、マスコミにも報道されて、無料で宣伝できた。

店は観光客の行き交う好立地にあって繁盛した。3ヶ月後、彼女は小切手の支払いを終え、ヤミ金融からの借金も返済した。

商売繁盛の理由は、担仔麺にかける肉そぼろのおいしさだ。曾さんは、必ず当日しめた新鮮な豚肉を使い、ミンチにした後、油で揚げたネギやニンニク、干し貝柱、氷砂糖、醤油などでじっくり煮る。火加減と時間は機械でコントロールして味と品質を保つ。麺のスープは、エビ、貝柱、豚骨を煮出したもので、アヒルの煮卵を載せる。麺のほかに十数種類の小皿料理があり、お茶と漬物とスープは無料でおかわりができる。

同じ通りの老舗と差別化し、また「担仔麺は屋台の食べ物」というイメージを払拭するために、資金を投じて快適でレトロな空間を作った。これは、デザインに興味のある娘のアイディアだ。

次々とオープンする新店舗の空間デザインはすべて娘が考え、それを職人に伝えて施工する。プロのデザイナーには依頼していないが、出来栄えは上々だ。

娘の陳怡倫さんは、4年前に文化大学観光学科に合格したが、彼女は観光には興味がなく、当時は5万元の学費の負担も大きかったので1学期で休学し、母の仕事を手伝い始めた。成人した彼女は700万の銀行ローンがあり、今は高雄支店の責任者でもある。

一般に女性経営者の野心は大きくないと言われるが、曾さんはそうではない。現状に甘んじない彼女は、年に一店舗のスピードで事業を拡張してきた。これには娘も反対しているが、曾さんは、規模が大きくなれば食材の仕入原価も下がり、経営がより軌道に乗ると考えている。

現状に甘んじない女性起業家

従業員の8割は、一人で子供を育てている女性で、これは他の企業にはできないことだ。

従業員は正社員とパートに別れており、一人で子育てをする母親たちは子供の時間に合わせて働ける。「私は一人で子供を育てる母親の辛さをよく知っています。フレキシブルに働けなければ子供のことが気がかりで安心して働けません。こうすることで逆に従業員のやる気も高まります」と言う。

曾さんは自分の学歴を考え、外国人観光客を迎えるために英語と日本語を学んでいる。2年前には近くの成功大学でマーケティング管理や人材管理なども学び、実際に応用している。業績によって報奨金を出し、店長の持ち回り制などを採用して責任感を育て、新しいメニューを考えた社員にも報奨金を出している。こうした制度は従業員の意欲をかきたてる。

10月下旬、台南の東寧路に赤崁;担仔麺の真新しい看板がかけられた。ここは本来の台南2号店から数百メートルしか離れていないが、曾さんは3階建ての300坪で家賃が安いのが気に入り、2号店をここに移そうと考えている。

これについては母娘の間で意見がぶつかった。新しい店の契約を結ぶ数日前に、店舗展開のスピードを緩め、既存の店の経営に力を注ごうと二人で決めたばかりだからだ。にも関わらず「現状に甘んじない」曾さんは、新しい店を借りてしまったのである。チャレンジすることの好きな彼女は「ますます自分はすごい、と思ってしまいます」と言う。

毎日、台南と高雄の店を見回る曾さんは、疲れると店内で少し横になり、起き上がると再び満面の笑顔でお客を迎える。彼女の頑張りは、困難を恐れない台湾の女性起業家の努力を象徴している。

昔の担仔麺は天秤棒に担いで売られ、お客はかまどの横で小さな竹の椅子に座って食べたものだ。現在の店内でも麺をゆでるかまどは当時の高さに作られている。