店内にコーヒーの香りがただよい、書と文化の香りがあふれる。優雅な空間を持つ小さな書店が台北市のあちこちに点在している。
天下文化出版社がオフィスの近くに書店「人文空間」をオープンして以来、30年の歴史を持つ聯経出版社も自社の書店を忠孝東路四段の聯合報ビルの1階、スターバックスの隣に開き、新たな「人文空間」を生み出した。時報文化出版社も龍山寺駅近くのオフィスビル1階に新しい書店を開き、ウインドーに村上春樹の新刊を展示している。
もともと出版社と書店は共存共栄の関係にあるが、ここ2年、不況のために書店の経営不振も伝えられている。そこで出版社は自ら書店を開いて従来の書店への依存度を下げると共に、読書クラブを運営して本好きの人々を集めようとしている。
本好きが集まる
読書クラブは決して新しいものではない。5年前に遠流出版社が推理小説ファンを募集し、会員は新刊を割引で買えるようにした。城邦出版グループにも「本の虫クラブ」がある。これらが以前の読書クラブと異なるのは、会員が現金で先払いして一定期間内に一定数の本を購入するという方法を採用している点だ。
「当社発行人の高希均教授は、長年読書運動を推進しており、私たちはネットでの販売やアフターサービスの原価、それに書籍の種類が充分かどうかを検討してきました」と話すのは天下文化読書クラブの劉菽琪さんだ。2年前の7月に出版点数が1000を超えた時、同社は読書クラブを設立し、編集長が選ぶ一冊や専門家の指導の下での読書会などをアピールした。会員は年に2800台湾ドルを支払えば単価500台湾ドル以下の本を10冊購入できる。この読書クラブは多くの人を惹きつけ、1万5000人が入会した。その後さらに年に2万8000元支払えば本を120冊購入できるカードを発行したところ、企業からの申し込みが集まり、華信銀行は500枚のカードを社会福祉基金会に寄付し、国泰生命は350枚を社員に配布した。
昨年10月には時報文化社も年会費2300台湾ドルで10冊購入できるという4〜5割引の優待を打ち出して「時報悦読クラブ」を設立し、6000名余りの会員を集めた。
書店が多くて本を手に入れやすい台湾で、このような読書クラブを設立するには、各種優待の他に、さまざまなイベントを打ち出す必要がある。読書会や講演会、読書情報誌の提供などによって、付加価値を高めなければならない。
読書クラブを設立するには一定の条件が要り、出版物の豊富さと人気のある作家も不可欠だ。時報文化社は5000点以上の出版物があり、村上春樹や大江健三郎、吉本ばなな、大前研一のほか、世界に知られるネイスビッツ、ドラッカー、サロー、スペンスらの著書も揃っている。
中規模以上の出版社が資源と人脈を活かして読書クラブを運営しているのを見て、小規模出版社も連盟方式を採り始め、昨年末5社が集まって「啓動閲読出版連盟」を結成した。女書店、心霊工坊、玉山社、高談文化、智慧事業などの出版社が、博客来ネット書店や誠品書店とともにブックフェアを開き、ジェンダーや心の成長、伝記、アートなどの本を紹介したのである。
読書クラブからベストセラーに
統計によると、台湾には2600余りの民間の読書会があり、各社はこれらとの提携を願っているが、民間の読書会がどれだけ書籍購買の効果を上げているかは明らかではない。
遠流博識ネットの林皎宏顧問は、読書会が書籍購買の効果を上げるには、中心となる人物が必要だと考えている。アメリカの著名なテレビ司会者であるオプラ・ウィンフリーの読書会では、彼女が推薦すると本の売上が数万冊増えるという。
96年、オプラは「アメリカに再び読書を」と、自分の番組に読書クラブのコーナーを設け、毎月1冊紹介して、著者を招いて読者と交流するようにした。テレビの影響力と彼女自身の魅力で、彼女が紹介する本は例外なく一夜のうちに全米のベストセラーになった。作家にとっても、この番組に招かれることが名誉なこととされ、書店やコーヒーショップでもオプラが勧める本が平積みされるようになったのである。
昨年4月、オプラの読書クラブの打ち切りが伝わると、出版業界からはこれを惜しむ声が一斉に上った。そしてオプラの読書クラブが打ち切られた後、他のテレビ局や全国的なメディアが次々と独自の読書クラブを設立するようになった。
欧米では出版社が運営する読書クラブや民間の読書会に長い歴史がある。世界で最もよく知られ、最も長い歴史を持つドイツのベルテルスマン社傘下のブッククラブは、設立して半世紀になる。
制度が成熟しているため、欧米では読書クラブが本の売上に大きく貢献している。南華大学出版学研究所の呉嘉馨副教授によると、デンマークでは読書クラブによる売上が出版市場全体の25%、スエーデンでは3分の1、イギリスでは20%に達するという。
無限の空間
欧米の読書クラブ制度が出版市場に果たしている役割の大きさを見ると、台湾の読書クラブにはまだまだ成長の余地があるようだ。
「台湾の出版社は、まだ書店ルートへの依存度が高いと言えます」林皎宏氏の推計では、書店での売上が出版社の売上全体の6〜8割を占めており、読書クラブや直販、ネットなどでの売上が2〜4割だ。しかし読者の購買習慣も変化しつつあり、書店以外の売上が伸び続けている。
中でも成長が最も顕著なのはネットだ。一昨年の台風による水害で数千万台湾ドルの損害を負った博客来ネット書店でも、整理後の昨年は素晴らしい業績を上げた。
ネット書店は商品のための無限の空間を持ち、ネット人口も増え続けている。「仮にネット人口が100万人しかいないとしても、その100万人のニーズにうまく応えていくだけで充分です」と話すのは博客来ネット書店の張天立総経理だ。ネット書店運営上の最大の困難はソフトが複雑な点で、さもなければアマゾンも1000名ものコンピュータエンジニアを雇用する必要はない。
昨年末、博客来は技術上の大きな問題を克服し、今では書店にいるのと同様に、棚に何冊在庫があるか見られるようになった。さらに、注文した本を、全国数千軒のコンビニで受け取れるようにしている。
「私たちは書店の市場を食うわけではなく、新たな市場を創出しているのです」と張天立さんは言う。台湾には書店が多く、本を手に入れやすいが、ネットは書店に足を運ぶ時間のない人に便利な手段を提供しているのである。
台湾では、読書クラブもネット書店も読者と接触する新しい方法だ。新しい忠実な読者を持った出版社は、もう孤独な園丁ではない。