喜びを分かち合う
ナウルでは1歳、21歳、50歳の誕生日を特に重視し、親戚や友人を招いて盛大に祝う。現地の人々から家族同然に扱われている廖珮含は、台湾に留学している学生たちの誕生日にしばしば招かれ、21歳の誕生日の人に家族と一緒にオーストラリア旅行に行こうと誘われたこともある。
彼女によると「分かち合い」はナウル文化のひとつで、誕生日に招かれた友人は、その家から好きなものを持ち返っていいことになっているそうだ。誕生パーティをホテルで開く時は、ホテルの従業員のことまで考えるという。
その「分かち合い」の文化は彼女に影響をもたらし、ナウルから帰国後、彼女は2010年に「1 la 1」という団体を設立した。「一人が別の一人を誘い、一緒に有意義なことをするという意味です」と言う。自分の行動がきっかけとなり、皆が身の回りのことから変えていくことで社会が良くなればという考えであり、団体に加わるかどうかは重要ではない。
「ナウルの人々の喜びは物質的なことから来るのではなく、分かち合いを大切にすることにあるのです」と言う。
幼少期の傷を見つめる
台湾に戻ると彼女は富邦文教基金会に入り、行動図書館計画を展開した。車にたくさんの本を積み、全国各地の子供たちに届けるというものだ。写真撮影が好きな彼女は、屋外で本を読む子供たちの姿をユニークな写真にとらえた。
「最大のチャレンジは、読みたい本がないと言う生徒とどう向き合うかです」と言う。そういうときは、さらにたくさんの本を取り出して選ばせるのではなく、背後の原因を探る。その子供が文字の多い本を読む習慣がないとわかると、絵本を勧め、いろいろな動作を交えながら読み終わるまで寄り添う。
子供の頃から腕白だった彼女は、生徒たちから電話番号を求められることも多く、断ることはない。時には、夜に元気のない声で電話がかかってくることもある。「お父さんとお母さんが喧嘩してるの。どうしよう」「お母さんがまだ帰ってこなくて、ご飯を食べていないの」といった電話だ。単純なように見える子供たちも、実は周囲の環境に非常に敏感で、言葉でうまく表現できないものの、心の中に複雑な思いが渦巻いていて、その捌け口を求めているのだ。
廖珮含はこうした子供たちの話に耳を傾けて心を寄せてきた。その後、仕事で屏東県の少年指導機関に行くこととなり、緑光劇団と一緒にワークショップを開いた。劇団の先生は、高校生や大学生たちに、新聞紙で何か物を作り、自分の物語を語るよう指導した。
「私が担当したグループでは、5人の生徒のうち4人が学齢前のつらい経験を話したのです。ある生徒は棒状のものを作り、子供の頃にしばしば家庭内暴力に遭って警察に行ったこともあるという話をしながら泣き出してしまいました。しばらくすると、もう大丈夫、と言うのですが、実際にはまだ大丈夫ではないことは明らかでした」と言う。廖珮含は、すでに大学生になっていても、子供の頃に受けた傷の記憶は鮮明に残っていることに気付き、ここから「学齢前教育」研究の道に進むことを決意する。