奇怪な食べ物――豚の血
異国文化を取り入れてきた台湾では、新しい味も次々と生み出される。名前も奇妙な「棺材板」は、厚切り食パンを油で揚げてくりぬき、そこに鶏レバーやジャガイモ、蝦などを入れたホワイトソースをかけた料理だ。50年余り前、台南の屋台の許六一という人が、これが棺桶に似ているというので命名して有名になった。
2009年、イギリスの旅行サイトで「猪血糕;」が「世界の奇妙な料理トップ10」に選ばれた。今年9月にはアメリカ農業部門が「製造工程が不衛生」として豚血糕;の販売を禁じたと報じられ、台湾では「文化差別」だと反発の声が上がったが、誤解であることがわかった。
だが実際、台湾の夜市で内臓や血で作った料理を見て嫌がる外国人観光客は少なくない。今回観光局の夜市投票で審査員を担当した日本人の作家・青木由香は、夜市は迷路のように楽しいので日本人の友人をしばしば案内するが、多くの日本人は、鶏の爪先やレバー、豚の血や腸といった内臓などは食べようとしないと言う。
猪血糕;も米血糕;も、もち米と動物(豚やアヒルや鶏)の血を固めたものだ。アヒルの血は滋養があり、昔から農家では、アヒルを絞めると、血を捨てるのはもったいないというので取っておき、米と一緒に蒸し固めて食べたという。これが広まって、庶民の味となったのである。
アヒルの血は供給量が少なくて値が高く、鶏の血は固まりにくいため、豚の血がこれに取って代わり「猪血糕;」ができた。現在は、蒸した猪血糕;に甘辛ソースを塗り、ピーナッツ粉と香菜をまぶして食べる。
明朝の『本草綱目』によると豚の血の性質は「鹹、平、無毒」で、血を増やし、中風や腹部膨満、湿熱などに効く。
美食家の焦桐は『台湾味道』の中で、猪血湯(固めた豚の血の入ったスープ)の起源を考察している。それによると、西洋医学を学んだ孫文は猪血糕;を絶賛している。「鉄分を多く含み、この上なく栄養価が高い。病後や産後、貧血などにはかつて鉄剤を用いたが、今は猪血湯で治療する。中国人がこれを食するのは野蛮なことではなく、科学と衛生にかなっている」
焦桐は、赤く柔らかくて肌理が細かい猪血に絶妙な味付けがなされたスープは創意に満ちた庶民の味だと考える。
これら数々の「国民食」的小吃のために、グルメ作家はカロリーオーバーに苦しむこととなる。料理審査員なども務める徐天麟は、一晩に18軒の屋台を食べ歩いたこともあるそうだ。