正しい選択で光り輝く
2017年にこの仕事を始めて以来、「色白、やせている、きれい」という美的感覚に人々が惑わされているのを、頼庭荷はよく見てきた。「顔が長すぎる、目が小さすぎる」といった依頼者の不満は、頼にとってはその人の個性で、似合う服さえ見つければ、もっと輝ける。そこで彼女は今まで手掛けた数百件のケースを分析し、世界の人種や服装の特色、材質などを研究した結果、顔や体の形によって「キャラクター3原形」という考えを生み出した。目鼻立ち、顔の形、体形、まなざしやふるまいが発する特徴などから、人を「ヘルパー」「リーダー」「ドリーマー」の3タイプに分けて、似合う衣類を選び出すのだ。例えば「リーダー」がスーツやコートを着ればさっそうとして見えるが、「ドリーマー」が着ると子供が大人の服を着たようで違和感がある。
色見本テストや質問の後は、ワードローブ内のすべての衣類を取り出し、「好き」「まあまあ」「好きじゃない」「部屋着」「記念品」の五つに分類する。分類が進むにつれ、客は衣類にぐるりと取り囲まれる。頼庭荷の言う「整理の魔法陣」だ。そのうち衣類をどこに分類すべきか次第に明確になってくる。例えば、それほど好きではないのに捨てられない服を、「好き」の所に置こうとすると、心の中で警告音が鳴り、本当に好きなのか自問することになる。頼は客の表情を観察し、とりわけ「まあまあ」の衣類については幾度も確認する。「贈り物だった」「思い出がある」など、ほかの理由で迷っており、本当に自分が好きかどうかで判断できていないからだ。客からは「魂の拷問のようだ」と苦笑が返ってくる。
衣類だけでなく、靴やバッグ、化粧品、ヘアスタイル、眼鏡など、スタイリングと関係するものはすべて頼庭荷の守備範囲だ。こうしてワードローブの中の整理が終わると、頼はいくつかの服の組み合わせを作ってみせ、ヘアスタイルのアドバイスもする。頼の手にかかれば、無地のワンピースの下に衣類を重ねて襟を見せることでアクセントにしたり、トップスの前後を反対に着ることで顔が大きく見えるのをカバーしたりと、自由自在だ。たとえモデルのような美しい顔でなくても、服装の工夫によって人は輝ける。「服装を変えたら周りから褒められたとか、結婚相手が見つかったと言う人もいるんですよ」と頼庭荷は笑顔で話してくれた。
「ワードローブ‧ドクター」の看板を掲げた当初からエコロジーは彼女の目標だ。ワードローブからその人の持つ美を掘り起こし、自己を改めて認識してもらう。そうすることで、むやみに服を買い足す習慣をなくし、ちまたにあふれるファストファッションの煩悩から解脱してもらう。何安蒔もこう語っていた。「『整(ととのえる)』のは表面的な空間であり、『理(おさめる)』のは家主の混乱した思いや疲弊した心です」と。整理師とは、人々が自らの問題を掘り起こし、自己の本質を見極められるよう導き、より幸福な生活に出会えるよう手を貸す仕事なのだろう。

四季の色彩理論では、赤、ピンク、黄、青、緑などそれぞれの色に春夏秋冬によるトーンの違いがある。

(右)頼庭荷(左)は、まず衣類をすべて取り出し、依頼者に分類させる。要るか要らないか決めていくプロセスで、しだいに自分の好みが明確になっていく。

頼庭荷は、カラーテスト、採寸、質問を通して依頼主に似合う衣服の色とスタイルを見出していく。

(右)頼庭荷は衣服を師とし、それぞれの人と衣服との関係を読み取り、その人にもっともにふさわしい美しいスタイルを考えていく。

(右)頼庭荷は衣服を師とし、それぞれの人と衣服との関係を読み取り、その人にもっともにふさわしい美しいスタイルを考えていく。

ワードローブ・ドクターの頼庭荷は、依頼主と衣服の関係を読み取り、その人に最もふさわしく美しいスタイルを提案する。