最も台湾らしいステージを
Taiwan Beats Showcaseの今年の演出は「穿越時空(時空を超える)」をテーマとし、台湾語ロックバンドの「拍謝少年(Sorry Youth)」の演奏から始まった。場所は19世紀の名家の邸宅、霧峰林家花園だ。邸宅内で客を観劇でもてなす「大花庁」の舞台で「出巡」を演奏した。この作品は台湾の一大宗教行事である媽祖の巡行を描いたもので、台湾の精神を守るという歌詞は、霧峰林家が19世紀中頃に混乱を平定し、中仏戦争に参加した歴史と呼応している。
続いて映像は深夜の台北の町並みに移る。眩い光を放つ電子花車が通りを走っている。その幻のような雰囲気は、DJ QuestionMarkの音楽スタイルと通じるものがあり、SXSW音楽ディレクターのJames Minorは、このような演奏スタイルを称賛する。Young Team Productionを率いる茶茶によると、画面上では電子花車の上にいるのはDJ QuestionMarkだけのように見えるが、実は照明や録音のスタッフも中にいたそうだ。揺れる狭い空間でDJ QuestionMarkはいつも通りターンテーブルを操作し、フルートを演奏した。
Taiwan Beats Showcaseの舞台となった場所は、すべて綿密に計算されている。パフォーマーと場所の特性がマッチしていること、世界の聴衆に台湾の多様性を見せられることなどが考慮された。例えば、台湾語シンガーの曹雅雯(Olivia Tsao)が歌った全美戯院(映画館)があるのは彼女の出身地‧台南で、この映画館は台湾showcase音楽祭「貴人散歩」の会場でもある。また、この映画館は世界的な映画監督アン‧リーが若い頃によく映画を見た場所で、映画館の外にかけられた手描きの映画ポスターは、アン‧リーの高校時代の思い出でもある。
今回のオンライン配信を通して、台湾の電子音楽ライブハウスPawnshopは初めて映像として紹介された。これまで幾度も音楽関連のイベントが開催されてきた場所だが、屋内での撮影を禁止してきたため、神秘的なイメージがあった。ここをステージに、台湾の宗教をモチーフにしたバンド「夢東(Mong Tong)」が演奏したというのもよくマッチしている。ロックバンドの「眠脳(Sleeping Brain)」は、台北市中山区の日本のような風情が感じられる路地(条通)にある「湿地」で演奏した。芸術文化の展覧会場としての機能を持つ複合実験エリアである。
最後の一組「大象体操(Elephant Gym)」はベースをメインとする実験的なロックバンドで、彼らは高雄港を背景に演奏した。台湾でも長い歴史を持つロックフェスティバル「大港開唱」は高雄で開催されており、港の付近には近年竣工した高雄流行音楽センターもある。このバンドにとって、高雄は自分たちが成長した場所であり、ここを舞台としたことには特別な意義がある。