SXSWの観客に時空を超えた台湾を
——Taiwan Beats Showcaseと台湾語ロックバンド「拍謝少年」
文・謝宜婷 写真・Young Team Productions 翻訳・山口 雪菜
6月 2022
2022年、Taiwan Beats Showcaseでは拍謝少年(Sorry Youth)が古跡の霧峰林家花園で演奏を披露した。
世界的なミュージック‧フェスティバル、アメリカのSXSW(サウス‧バイ‧サウスウエスト)は、昨年(2021年)はコロナ禍のためにオンラインで開催され、台湾のアーティストはTaiwan Beats Showcaseとして参加した。彼らはスタジオを抜け出し、それぞれ台湾らしい空間——高山や廟、エビ釣り場、伝統的な工場などで作品を披露して配信した。これは世界中のオーディエンスに新たな音楽体験をもたらし、SXSWが強く推薦するプログラムの一つとなった。
台湾人アーティストのSXSWオンライン出演を手がけたYoung Team Productionは、今年もレベルの高い演出を行なった。世界中の聴衆に、音楽とともに台湾の歴史や文化にも触れてもらおうと、国定古跡の霧峰林家花園や、移動中の電子花車(祭りのパレードなどに出る電飾の山車)、高雄港の埠頭などでの演奏を配信したのである。
DJ QuestionMarkは動く山車の中でターンテーブルを操作し、フルートを演奏した。
最も台湾らしいステージを
Taiwan Beats Showcaseの今年の演出は「穿越時空(時空を超える)」をテーマとし、台湾語ロックバンドの「拍謝少年(Sorry Youth)」の演奏から始まった。場所は19世紀の名家の邸宅、霧峰林家花園だ。邸宅内で客を観劇でもてなす「大花庁」の舞台で「出巡」を演奏した。この作品は台湾の一大宗教行事である媽祖の巡行を描いたもので、台湾の精神を守るという歌詞は、霧峰林家が19世紀中頃に混乱を平定し、中仏戦争に参加した歴史と呼応している。
続いて映像は深夜の台北の町並みに移る。眩い光を放つ電子花車が通りを走っている。その幻のような雰囲気は、DJ QuestionMarkの音楽スタイルと通じるものがあり、SXSW音楽ディレクターのJames Minorは、このような演奏スタイルを称賛する。Young Team Productionを率いる茶茶によると、画面上では電子花車の上にいるのはDJ QuestionMarkだけのように見えるが、実は照明や録音のスタッフも中にいたそうだ。揺れる狭い空間でDJ QuestionMarkはいつも通りターンテーブルを操作し、フルートを演奏した。
Taiwan Beats Showcaseの舞台となった場所は、すべて綿密に計算されている。パフォーマーと場所の特性がマッチしていること、世界の聴衆に台湾の多様性を見せられることなどが考慮された。例えば、台湾語シンガーの曹雅雯(Olivia Tsao)が歌った全美戯院(映画館)があるのは彼女の出身地‧台南で、この映画館は台湾showcase音楽祭「貴人散歩」の会場でもある。また、この映画館は世界的な映画監督アン‧リーが若い頃によく映画を見た場所で、映画館の外にかけられた手描きの映画ポスターは、アン‧リーの高校時代の思い出でもある。
今回のオンライン配信を通して、台湾の電子音楽ライブハウスPawnshopは初めて映像として紹介された。これまで幾度も音楽関連のイベントが開催されてきた場所だが、屋内での撮影を禁止してきたため、神秘的なイメージがあった。ここをステージに、台湾の宗教をモチーフにしたバンド「夢東(Mong Tong)」が演奏したというのもよくマッチしている。ロックバンドの「眠脳(Sleeping Brain)」は、台北市中山区の日本のような風情が感じられる路地(条通)にある「湿地」で演奏した。芸術文化の展覧会場としての機能を持つ複合実験エリアである。
最後の一組「大象体操(Elephant Gym)」はベースをメインとする実験的なロックバンドで、彼らは高雄港を背景に演奏した。台湾でも長い歴史を持つロックフェスティバル「大港開唱」は高雄で開催されており、港の付近には近年竣工した高雄流行音楽センターもある。このバンドにとって、高雄は自分たちが成長した場所であり、ここを舞台としたことには特別な意義がある。
専門性とクリエイティビティ
昨年のSXSWオンラインコンサートでは、台湾とノルウェーだけがスタジオではなく、ロケを採用した。ノルウェーは小さな町を背景とし、台湾は地域を代表する4ヶ所を舞台とした。茶茶は、自身も宗教や文化に興味があり、海外へ行けば教会や神社や祭りを訪れ、国内では媽祖の祭りや東港の迎王の祭典にも参加したことがあると言う。そうしたことから、昨年は万華の青山宮をロケ地に選んだのである。同じように好評を博したロケ地の「エビ釣り場」も、海外のオーディエンスに注目された。茶茶は「SXSWのリアル開催が復活したら、会場にエビ釣り場を設置して体験させてほしいという声も上がりました」と笑う。
今年の撮影クルーには、経験豊富な仲間が結集した。火気音楽、Good Show Lab、順天堂影像工作室などのスタッフで、いずれも国内の著名アーティストのプロモーションビデオを撮影した経験がある。霧峰林家での撮影時、時空を超えたファンタジックな感覚を演出するため、彼らは夕暮れ時まで待って撮影を開始した。昨年、このチームの映像はミキシングの効果が大好評だったため、今年はオンラインプラットフォームSoundCloudで期間限定のTaiwan Beats Showcase特集を打ち出した。
Taiwan Beats Showcaseの素晴らしい作品は、海外の他の音楽祭からも注目され、出演したバンドには海外公演のオファーも来ている。裏方の専門的な分業体制に興味を持つファンも多く、昨年は「スタッフがオンラインで質問に答える」というライブ番組も配信し、ファンの疑問に答えた。茶茶によると、今年はTaiwan Beats ShowcaseのオンラインステージをYouTubeで公開し、その後に制作エピソードなども公開して人々にライブ‧セッション(現場での同時録音)のプロセスを紹介した。
台湾語シンガーの曹雅雯(Olivia Tsao)は全美映画館で歌った。「若是明仔載」はサックス、ギター、エレクトロニックビートを合わせた作品で、友人の自死をきっかけに、友を大切にしようと呼びかける歌である。
台湾語ロックバンド
今年のTaiwan Beats Showcaseの出演者の中では、「拍謝少年」が海外公演の経験が比較的豊富で、これまでに日本、韓国、香港などの音楽フェスに参加したことがある。最近はカナダで開かれた台湾文化フェスティバルに出演し、アルバムは日本と韓国でもリリースされている。今年は本来ならリアルのコンサートを開くはずだった彼らは、コロナ禍の影響でオンラインコンサート「夢夢夢」を開催した。彼らにとってライブ‧セッションは馴染みのないものではない。
この台湾語で歌うオルターナティブ‧ロックバンドのメンバーは、ギターの維尼(ウェニー)、ベースの薑薑(ジャンジャン)、ドラムの宗翰(ゾンハン)の3人で、結成して十年以上になり、すでにアルバムを3枚リリースしている。最新アルバムの『歹勢好勢(Bad Times, Good Times)』のクラウドファンディングでは、台湾のバンドが集めた金額の過去最高額を記録した。彼らの作品やアルバムのデザインには、四方を海に囲まれた台湾の島としてのイメージと、台湾本土の問題への思いが貫かれている。3人は学生時代から社会に出た後も、働きながら創作を続けるという強い精神を持ち続け、兄弟のような感情で結ばれており、それがバンドのイメージとして定着している。
拍謝少年は、今年のSXSWオンラインコンサートで「出巡(Pilgrimage)」と「你愛咱的無仝款(Love Our Differences)」の2曲を披露した。「出巡(神様の巡行の意味)」の創作の背景を問うと、メンバーは台湾の中部‧南部の出身であるため、地域で行なわれる媽祖の練り歩きが子供の頃の記憶として残っていると語る。薑薑は大人になってからも大甲の媽祖の巡行に参加したことがあり、その時に放送される音楽が電子音楽でヘビーなリズムと明確なメロディを特色としていることに気付き、この方向で創作してみたいと考えたと言う。
「你愛咱的無仝款」の方は、ドキュメンタリーフィルム『怪胎系列』のために制作したテーマ曲だ。ドキュメンタリーのテーマは、動物保護、同性同士の結婚、外国人労働者、教育などで、社会のマイノリティの物語である。拍謝少年は、まずプロデューサーである楊力州に主人公たちの経歴や、心に残った印象を聞き、それをインスピレーションに創作した。
夢東(Mong Tong)の二人は、道士のように赤い布で目隠しし、創作における伝統宗教の要素を際立たせた。
世界にユニークな台湾を見せる
拍謝少年のデビューアルバム『海口味』は、台湾の社会的テーマへの関心が表現されている。
2019年、拍謝少年は自ら「カナダ台湾文化フェスティバル」に出演を希望すると伝え、交渉して出演が決まった。現地では、台湾の民主化に力を注いだ年配者と対談する機会を得ることができた。彼らは海外に暮らす知識人で、当時は政治的な要因で台湾に帰国することがかなわず、多様な文化を持つカナダに定住することを決めた人々だった。その物語は、台湾の民主主義の価値を表しており、彼らは帰国後に「時代看顧正義的人」を創作した。
台湾を愛する精神は国境を超える。拍謝少年のアルバム『海口味(Seafood)』は日本の音楽会社を通して現地のバーで、アルバムと同名のビール——臺虎清醸の「海口味」とともに販売された。バーで「台湾ナイト」というイベントが催された時には、拍謝少年は特別にプレーリストを作成した。日本で彼らのアルバムを扱う店の経営者は日本人だが台湾文化が好きで、店内に台湾らしい金属の窓格子やプリント生地を飾りつけ、台湾を代表するB級グルメの魯肉飯や台湾ビールも一緒に販売する。「この経営者は中国語の勉強も始めたそうです」と維尼は微笑む。
故郷に深い思いを寄せつつ世界と向き合う拍謝少年は、日本や韓国でアルバム販売のルートを確立し、最近は日本語でのツイッターも始め、台湾語ロックをより多くの人に聞いてもらおうとしている。最新アルバムの『歹勢好勢』は今までで最も完成度の高い作品と評価された。彼らの台湾語が本格的であり、また台湾の隅々まで深い思いが寄せられているからだ。
拍謝少年は、3年続けてミュージックフェスティバル「高雄蚵寮漁村小揺滾」に参加したことで現地で漁業をする人々と出会い、酒を酌み交わす仲になり、彼らの話の中からさまざまなインスピレーションを得た。花蓮では「穀稲秋声——富里山谷草地音楽祭」に参加した後、現地にUターンしてきた若者たちに招かれ、彼らが作った酒を飲みながら地域の物語に耳をかたむけた。「これが、私たちが地域のコミュニティに触れる方法です」と彼らは笑う。
拍謝少年や他の台湾人アーティストの音楽創作について、もっと話を聞いてみたいと思われただろうか。それならまず、YouTubeでTaiwan Beats Showcaseを検索し、2022年のSXSWにおける彼らの素晴らしい音楽とステージに触れてみようではないか。
台湾のロックバンド眠脳(Sleeping Brain)は、2019年にアルバム『裸浪』を出した後、Apple Musicで「注目の新人」に選ばれた。
奇数リズムを得意とする大象体操(Elephant Gym)のトリオ。結成から十年の間にさまざまなアーティストとコラボし、台湾オリジナルの音楽ジャンルを打ち立てたいと考えている。
拍謝少年は、台湾風の居酒屋や鍋料理店などでコンサートを開いてきた。2020年に開催した「山盟海誓音楽祭」ではカラオケやインディーズ出版連盟のブースなども出し、台湾独自の文化を追求したいと考えている。(林格立撮影)
拍謝少年のデビューアルバム。
(デザイン/廖小子、拍謝少年提供)
写真/簡子鑫、拍謝少年提供