三つの大洋に潜り、台湾の記憶を探す
日本統治時代、台湾南部の海域は捕鯨場として栄え、1930~40年には大量のクジラが捕獲されたが、今はとっくに禁止されている。
台湾がかつてザトウクジラが回遊する地域であった頃の様子を再現するために、柯金源とそのチームは南太平洋のトンガにその姿を追った。「到着したその日、20年以上にわたって夢見てきた映像をすべて撮ることができ、本当に感動しました。これは現実なのか、夢ではないのか、と自問したほどです。もっとじっくり観察したかったのですが、これは仕事なんだと自分に言い聞かせ、すぐにカメラで撮影しました。またいなくなってしまったら大変ですから」と言う。
ドキュメンタリーフィルムのカメラマンは自分の感情を抑えなければならないが、柯監督の感動は、映像を観る者にも伝わってくる。ザトウクジラの撮影に同行した于立平は、柯監督が撮影を終えて船に上って来た後もずっとカメラを握りしめたまま全身を震わせているのを見た。疲労のためか、感動のためかは分からないが、于立平も同じような感動を覚えたという。「私たちは毎日12時間以上、海の上で待ち、クジラが現われた後もこちらを受け入れてくれるかどうか何時間も待たなければなりません。クジラが逃げてしまわないという確信が持ててはじめてゆっくりと海に入り撮影を始めるのです。その後、クジラが声を上げ、海面に跳ねる姿を見ました。そのシーンは本当に感動的です」と言う。
さまざまな人為的要因で、多くの貴重な生物種が台湾海域から姿を消してしまったため、柯金源は海外での撮影を選んだ。彼は影像を通して、これらの生物と正しく向き合い、永遠に残さなければならないというメッセージを伝えている。
ザトウクジラの姿をとらえるために、柯金源は苦労を重ねた。台湾の東海岸から西海岸、そして澎湖の南海域までザトウクジラを探して回ったが、最終的に撮影できたのは、漁民が仕掛けた定置網に誤ってかかった姿と、海洋大学の研究チームが追跡調査の対象を海に放つ様子だけだった。ザトウクジラが台湾海域を回遊するリアルな感じが出ないため、フィリピンへ撮影に行くほかなかったのである。
このほかにも、海底のサンゴが一斉に産卵する様子や、百万尾ものカマスの大群、ホンダワラの森の中を泳ぐテンジクダイ、卵を抱えたカニが道路を渡って海で産卵する姿、生きた化石——カブトガニが潮間帯で岸辺に押しやられて産卵する様、蘭嶼のタオ族の人々が祖先と同じ方法で捕えるトビウオ、台湾東北角の海女が素手でテングサを採る姿など…、これらの映像を撮影するために柯金源は一年間で200本のボンベを使い切った。そのために各地の漁業者と連絡を取り続け、貴重な生物を撮影するために、いかなる魚の回遊経路も逃すまいと、三つの大洋を行き来した。
オーストラリアのクリスマス島のクリスマスアカガニは陸地を大移動して海で産卵する。台湾の陸ガニはホテル開発のために生息地を奪われようとしている。