弁当を売ってモスクを建てる
コーランには、ムスリムの女性はムスリムの男性と結婚することと定められており、少なからぬ台湾人男性がインドネシア出身のムスリムの女性と結婚して入信している。ただ、そうした台湾人男性の多くは象徴的に入信するだけで、教義に従うことはなく、また妻が豚肉を食べないことや礼拝することを受け入れず、家庭の不和を招くこともある。
黄金来も、インドネシア出身の黄麗珊と結婚したばかりの頃は教義を守らなかったが、妻が絶えず注意を促してくれたことで、イスラムの真の教えを理解するようになった。離婚経験のある彼は、以前は酒好きで博打もし、怒りっぽい性格だった。それが結婚してイスラムの教えを信じるようになって、はじめて誠と責任を理解できたという。黄金来の両親も、息子が生まれ変わったようだと喜んでいるそうだ。「私は幼い頃からムスリムです。私たちの結婚もアッラーの思し召しで、縁があって一緒になったのですから、何も怖くありませんでした」と黄麗珊は微笑む。
結婚して数年の後、黄麗珊は弁当屋を開こうと考えた。地元の桃園市大園は工場が多く、インドネシアから働きに来ている人が大勢いるが、ムスリムが安心して食事のできる店が少なかったのである。ムスリムには食の戒律があり、豚肉を食べないことは知られているが、鶏肉や家鴨、牛肉、羊肉なども、簡単に口にすることはできない。健康な動物をイスラムの正規の作法に則って処理したものでなければ食べてはいけないのである。
黄麗珊が作る本格的な故郷の味は、まさに移住労働者たちのニーズを満たすもので、商売は繁盛している。夫婦は、多くの労働者が清真寺に礼拝に行けないことも気の毒に思った。モスクのある台北までは遠く、金曜日の礼拝も仕事のために休みが取れない。「礼拝をしなければ懺悔もしないので、自分を見失い、酒や遊びに流れてしまいがちです」と黄金来は言う。そこで二人は弁当屋の2階に礼拝堂を設けることにした。
礼拝堂を訪れる人は増えていき、アッラーの御加護に応えて二人は隣りの空地を借り、大園清真寺を建てた。移住労働者や新住民は不慣れな異国でストレスをためているので、モスクがそれをいやす場になればと黄金来は言う。「礼拝中に涙を流し、笑顔で出てくる人もいます」と言う。
黄麗珊と黄金来が経営するインドネシア人向けの商店には、故郷を離れて暮らす多くの人が集まってくる。