産官学の協力
政府はテクノロジー人材の育成に力を注いでおり、ソフト、ハード面の協力も得て台湾のVR市場は大きく発展してきた。
台北芸術大学は最も早くからテクノロジーアートの教育を開始し、台湾師範大学もデジタルテクノロジーアートのカリキュラムを設けて、アニメ、VR、マルチメディアの3分野の学生を募集している。清華大学芸術学部もテクノロジーアートの発展に重点を置いている。台湾師範大学デザイン学科の特任教授も務める黄心健は、基礎デザインからデッサン、色彩、模型製作、商業撮影、コンピューターグラフィックなどの視覚伝達の表現方法まで、すべてがニューメディアアートの入口になると語る。
政府による推進も発展を大きく促している。「現在、私たちが使っているウェアラブルVRデバイスの多くは国内で生産されたものです」と張文杰は言う。経済部工業局は「IoTチップ化サービス統合プロジェクト(IisC)」において、工業研究院と資訊工業策進会の「IoTサービスハブ」に依頼し、メーカーによるグローブ型VRデバイスの開発に協力したが、これは張文杰の発想をもとにした製品だ。
「これは応用範囲が非常に広いデバイスです」と張文杰は言う。「VRヘッドセットとグローブをつけてインタラクティブな操作が可能になると、リハビリも楽しいものになります」と言う。改良を経てきた第三世代のVRグローブは、精密機器や大型機械設備の操作といった職業訓練に活用することもできる。特に危険性の高い作業については訓練でのリスクを大幅に低下させられる。
メタバース
「ニューメディアアートの行き着く先はまだ見えていません」と語る黄心健は遠くを見つめる。仮想現実の世界が日増しに拡大していく現在、アートのデジタル化は将来の明確な流れと言える。消費者がブロックチェーンを通してNFT(非代替性トークン/仮想通貨の一種)を購入するのと同じように、利用者は「We Are What We Eat」プロジェクトの3人のアーティストとともに創作する五感料理のデジタルな記憶を、仮想空間において永久に持つことができる。これもまったく新しい芸術価値と言えるだろう。
「ART TAIPEI 2021」では、初めてNFTの形でリアルな芸術作品を販売するだけでなく、売り手はNFT×VRオンラインギャラリーとつながる。2021年11月にオープンした香港の「視覚文化博物館M+」では、M+は将来の不可逆的な趨勢で、仮想博物館がリアルなものになるとしている。芸術品の展示やコレクションも、これまでにない新しい境地に入っていく。
「誰もがメタバース(インターネット上の三次元の仮想空間)に関心を注いでいます」と、VRアートの道を追求してきた黄心健は語る。国際的な大企業が次々とハード面を充実させてきたことで、メタバース時代の到来が現実のものとなってきた。VRヘッドセットとスマートグラス、グローブ、パソコン、ゲーム機などのデバイスを利用することで、リアル空間とサーバー空間を自由に行き来できるようになる。
「台北方舟」からスタートし「当初壮遊」の実現まで、台湾のニューメディアアーティストは絶えずマイルストーンを越えてきた。リアルからバーチャルへと広がる空間は、エンターテイメントだけのものではなく、日々の生活や仕事の方法においても避けることのできない大きな流れとなっている。テクノロジーとアートの結合は、相互に刺激をあたえつつ、スタート地点もゴールもない無限のメタバースを形成していく。光のような速度で発展するニューメディアアートは、すでに静かに私たちの暮らしに浸透しつつある。
『失身記(Bodyless)』は、黄心健が幼い頃の記憶をもとに台湾の戒厳令時代の雰囲気を表現した作品。
『輪廻』の中で、黄心健は人々をSFの世界へといざない、転生と解脱を体験させる。
8つの空間から成る『沙中房間(La Camera Insabbiata)』では、観客は巨大な仮想現実の空間を自由に飛び回ることができる。
郭雪湖の3つの古典的絵画「赤崁楼暮色」「淡江泊舟」「南街殷賑」から時間と空間、体験の3つのVRインタラクション空間が生まれた。
「メタバース」をテーマとする第2回クリエイティブコンテンツ大会では多くの人がニューメディアアートを体験した。
台北の松山文創パークで開かれた第2回クリエイティブコンテンツ大会で、多くの人がニューメディアアートの無限の空間を体験した。