ウガンダの僻地にある農村Lulaqueでは、住民はバナナやキャッサバなど澱粉質の多い作物を育てて自給自足している。幹線道路から離れているため、コーヒーなどの経済作物を育てても買い手はほとんどおらず、貨幣はあまり流通していない。現金があったとしても、大半は学費や医療費のために残すため、村では通貨による取引はほとんど行われていない。

このように、世界から忘れ去られたような閉鎖された農村だが、台湾の「愛女孩国際関懐協会（Love Binti International, LBI）」が来てからは大きく変化した。

台湾の社会的企業は海外でも活動しており、ウガンダでは農村の経済を活性化している。（胡哲生提供）

社会的企業は社会問題から生まれる

長年にわたってアフリカ僻地の女性たちに関心を寄せてきたLBIは、現地の衛生条件やインフラを改善するほか、マイクロエコノミーを推進して家庭の貧困を解消したいと考えていた。そこで輔仁大学の社会企業研究所（大学院）と経営学科の胡哲生教授に、社会的企業としての発展の可能性について教えを請うた。

台湾社会的企業創新学会の常務理事でもある胡哲生は次のように説明する。社会的企業とは「社会的価値と利益創出の能力を兼ね備えた組織」であり、現地の問題とニーズを理解し、実行可能な解決方法を見出さなければならない。Lulaqueでのフィールドワークを通して、住民は石を積んだ簡単なかまどを使っていて、燃焼効率が低く煙が出るため、環境と身体にも悪いことがわかった。そこでLBIは現地の素材を用い、粘土とアリの巣の粘液を使って炭素排出量の少ないかまどを開発した。この技術を住民たちに教え、この技術をもって収入を得られるようにした。

胡哲生によると、現地では通貨の流通が容易でないため、サービス提供はトウモロコシと交換するといった物々交換を提唱した。さらにLBIは飼料を製造して養鶏を指導し、経済価値の高い野菜の栽培も指導して互いの交流を促し、現地の商業の基礎を築いていった。LBIはまた社会的企業「房角石（Cornerstone）」と協力し、現地の女性たちに新型の養蜂箱を提供して養蜂を教え、非現金型のマイクロファイナンスで融資を行なっている。収穫後に蜂蜜をLBIに納入することで融資を返済するというもので、これを房角石が台湾で販売し、その利益をLBIの運営に充てる。胡哲生によると、このようなモデルは現地の就労や技術育成などの問題を大幅に改善している。

田畑や工場、キャンプ場など、陽光伏特家は建物の屋上を市民発電所に変え、市民の力で台湾のエネルギー転換を加速させている。

屋上を発電所に――陽光伏特家

胡哲生は、社会的企業とイノベーション起業は、社会を変える大きな力になっていると考える。中小企業をメインとする台湾では、その革新や起業の精神が高く評価されており、こうした優位性が台湾の社会的企業を発展させている。若い世代は、問題を解決したいという強い野心を持ち、しかもビジネスモデルの思考にも長けている。陽光伏特家（Sunnyfounder）の共同創設者の一人、陳惠萍は、エネルギー転換における台湾のネックを目にし、社会的企業を創設した。

社会学を専攻した陳惠萍は、博士課程在学中に台湾には優れた太陽光発電技術があることを知った。だが、多くは資金力のある大企業が大型案件で太陽光パネルを設置するにとどまり、一般市民の参加が少ないことに気づいた。市民とエネルギーとの隔たりを見て、自らこれを解決したいと考えたのだという。

その後、機械工学や情報工学を専門とする仲間と出会い、2016年に一緒に陽光伏特家を設立した。クラウドファンディングの概念をもって屋上の貸し出しを募集し、集めた資金で太陽光パネルを購入して一つずつ小型の市民発電所を設けていった。今では台湾全土に450以上の市民発電所があり、年間約1600万kWhのクリーンエネルギーを発電している。

陽光伏特家の共同創設者の一人である陳惠萍は、SDGsははるか遠い概念ではなく、皆がともに実践すべきアクションだと考える。

すべてに有益な再生可能エネルギー

台湾ではサステナビリティの意識が高まり、政策もしだいに整ってきた。例えば、電業法の改正によって再生可能エネルギーの自由取引市場が形成され、2050年のネットゼロへのロードマップが発表されてエネルギー転換が明確な方向となった。そうした中、陽光伏特家は台湾のエネルギー転換を見守り、台湾で初めて民間企業として再生可能エネルギーの販売権を取得し、国際市場の温室効果ガス削減に対する要求に直面する中小企業にも協力するようになった。

昨年、陽光伏特家は「グリーンエネルギー公益100＋」行動を起こし、社会福祉機構の屋上に太陽光パネルを設置するための資金を企業や市民から募った。発電による収益は社会福祉機構の運営費となり、企業はESG（環境、社会、ガバナンス）を実践でき、もちろん環境保全にも役立つという全面的に有益な手段となった。

「社会問題は常にありますが、問題解決の方法にはさまざまなイノベーションが可能です」と陳惠萍は言う。例えば、陽光伏特家は企業が社会福祉機構の照明を交換するマッチングも進めている。照明設備が変われば、10年で130万元の電気代を節約できる。さらに陽光伏特家は国際認可を得て、社会福祉機構に代わって二酸化炭素排出権取引を申請し、これをカーボンニュートラルを目指す企業に販売できるようにした。

陳惠萍は、SDGsは世界をより良い将来へと導く羅針盤のようなものだと形容する。再生可能エネルギーを起業の柱とした陽光伏特家は、SDGsの目標7であるクリーンエネルギー分野だけを実践しているように見えるが、現在ではSDGsの10項目近くを達成している。「2030年までに100の再生エネルギーアクションを終了させれば、SDGsのすべてに明りを灯せます」と陳惠萍は言う。

葉徳偉（左から4人目）と配客嘉のメンバー。彼らはリサイクル梱包材を普及させることでネットショッピングで出るごみをなくそうとしている。

ごみゼロのネットショッピング

電子商取引が盛んになり、オンラインショッピングも日常のものとなった。しかしそれに伴い、大量の梱包材がごみとして出るようになった。オンラインショッピングが経済を活性化する一方で、環境の負担を増やしているのである。配客嘉（PackAge＋）を創設した葉徳偉は、以前はデジタル製品をネットで販売していた。ある時、リサイクル木材で製作したブルートゥースのイヤホンを販売したところ、消費者からクレームがあった。環境にやさしい商品を買ったつもりなのに、大量のプラスチック梱包材を使うのは矛盾していないか、と言うのである。これをきっかけに葉徳偉はサステナビリティについて考えるようになり、リサイクル梱包材の開発を思いついた。

配客嘉はリサイクル素材で梱包袋を作り、ネット販売を行なう企業に貸出や販売をしている。企業側は通常通りに出荷し、商品を受け取った消費者は決められた場所へ梱包材を返却し、それを配客嘉が回収するという方法だ。影響力を拡大するために、葉徳偉は梱包材の洗浄や整理を社会福祉機構や心身障碍者のワークショップなどに依頼し、新たな雇用をも生み出している。

整理した梱包材は再びネット販売企業によって利用されるため、二酸化炭素の排出量を1回の使用当たり平均して1.2キロ削減でき、使い捨て梱包材300グラムの使用を減らすことができる。これを使う人が増えれば、梱包材のごみが減っていく。葉徳偉によると、リサイクル梱包材は規模の経済を追求しているため、利益が出るまでには数と時間がかかる。「時間をかけて償却すれば、梱包材のコストは使い捨てのものより低くなるのです」と言う。

配客嘉はリサイクル梱包材の返却や輸送の便を考慮してデザインを改良して折りたためるようにし、収納しやすいようにした。

ESGが社会的企業を発展させる

リサイクル梱包材のサービスは欧米や韓国にもある。葉徳偉によると、欧米は面積が広いため、通常は郵政システムと協力している。だが、郵便ポストまで長い距離を歩かなければならないのに比べると「台湾は梱包材リサイクルに最もふさわしい国だと思います」と葉徳偉は言う。人口密度が高く、コンビニも密集している台湾なら、リサイクル品返却の習慣も身に付きやすい。配客嘉は2022年にファミリーマートと提携し、全台湾に3800近い返却地点を増やした。

2019年に配客嘉を設立したばかりの頃は、企業も市民も梱包材のリサイクルという観念に馴染みがなかったが、最近は、多くの企業がサステナビリティのためにESG（環境·社会·ガバナンス）を重視するようになり、また政府も「ネットショッピング梱包材減量ガイドライン」を制定したこともあって、この方向への企業の努力が促進されている。配客嘉では現在、大手ECサイトと提携するほか、ファストファッションのユニクロも配客嘉のリサイクル梱包材を店舗への配送に使っている。また、サステビリティを重視する台湾ブランドの浄毒五郎や好日子なども、希望する消費者にはリサイクル梱包材を使って配送している。温室効果ガス排出削減とサステナビリティをマラソンに例えるなら「配客嘉はまだスタート地点に立っただけです。ウォーミングアップを済ませ、これから走り始めるのです」と言う。

利用者はQRコードを読み取るだけでリサイクル梱包材をコンビニで返却できる。梱包材は洗浄後に再利用される。（配客嘉提供）

世界とつながる

サステナビリティは世界に共通の課題であり、台湾で成功した社会的企業は世界の参考となる。例えば、配客嘉はヨーロッパのリサイクル梱包材の企業から連絡を受け、台湾での梱包材の受託生産について話し合い、さらには国を越えた輸送にも使えるよう、世界共通の梱包材規格を開発する話も出ている。日本のユニクロも、台湾の店舗がリサイクル梱包材の使用に成功しているのを見て、ほかの国の店舗での利用の可能性について研究し始めた。

また、2021年、陳惠萍はCOP26の周辺会議に招かれ、陽光伏特家による再生可能エネルギーの革新的なビジネスモデルを紹介し、クリーンエネルギーアクションを呼び掛けた。彼女は成功事案を一冊にまとめ、その理念に賛同する人の署名を求めたところ、グアテマラの環境相がサインをしてくれ、フェイスブックにもアップしてくれた。

たくさんの署名は、サステナビリティへの多くの人の期待を示している。「SDGs外交を通して台湾の実績を世界に示せば、Taiwan can helpを実現できます」と陳惠萍は嬉しそうに語る。社会的企業の世界での活躍が期待される。

配客嘉は梱包材の洗浄を社会福祉機構に依頼し、社会的企業としての影響力を広げている。（配客嘉提供）

陳惠萍はCOP26において再生エネルギーの理想をシェアし、グアテマラの環境相もこれに賛同して署名をしてくれた。（陽光伏特家提供）