Dharti Mata：林念慈

小紅帽のスタッフは自ら教育現場へ行って話をする。月経教育は生理的な知識を教えるだけでなく、ジェンダー教育や情動教育、国際問題とも関わってくる。

菩提樹の下で月経を語る

2013年末、林念慈はネパールで棉樂悦事工坊（Dharti Mata Sustainable Workshop）を設立し、天然の有機素材で布の生理用ナプキンの生産を開始した。彼女にとって初めての海外での起業だが、物語はネパールの菩提樹の下での生理に関する対話から始まった。

29歳の時、林念慈は7年間働いたNPOの仕事を辞めた。大学卒業後、すぐに加わった国際ボランティア組織で、彼女は世界を知ることとなる。だが「もっと深く、自分が興味を持つテーマに取り組みたいと思い始めたのです」と言う。

2009年、彼女は初めてネパールを訪れた。各地で働いている間、現地の男性やソーシャルワーカーから、地域のニーズについて話をよく聞いた。「ですが、女性の声はどこにあるのか？と考えていました」そこで、村長に紹介してもらい、地元の女子大生と話をすることにした。菩提樹の下で林念慈は「生活で困っていることはない？」と聞いた。すると皆が、生理中の体調の悪さと多くのタブーについて不満を抱いていることがわかった。「これはカルチャーショックでした。それと同時に、なぜ女性がこのような扱いを受けるのか、と怒りが湧きました」と言う。

2021年にイギリスの「ダイアナ賞」を受賞した林薇は、台湾社会が、一緒に何かを信じて皆で協力しようとするからこそ成果をあげられたと語る。（林格立撮影）

月経運動

地元の女性たちのニーズを知り、林念慈はネパールに行くたびに、女性の衛生教育を推進し、サステナブルな生理用ナプキンを広め、そのたびに大きな反響を得た。そこに市場を見出した彼女は、起業への道を歩み始める。

2013年、彼女は足踏み式の古いミシンを2台購入し、親しくなったHasera農場をベースにワークショップを開いた。そして現地の女性を募集して天然のオーガニックの布ナプキンの生産を開始した。現地の女性に雇用を提供したこともあって村に小さな経済体が形成され、ともに持続可能な生活と女性のエンパワーメントを推進することとなったのである。

林念慈はNGOやINGOと協力し、布のナプキンと月経教育を僻遠地域であるヒマラヤ周辺でも推進することにした。

このような事業をネパールで推進するのは容易ではないが、これも一つの縁であり、彼女は自分の願いを一歩ずつ実践することにした。そうした中で「修行中の女性生理教育プロジェクト」のことを話してくれた。以前、大勢で山を越えて山奥の尼寺を訪ねて話をしようとしたが、ちょうど修行期間中ということで、一切中に入れず、鉄の門を隔てて一言ずつ中に伝えてもらうしかなかった。「その時、鉄の門の中がどんなに騒がしくなったか。もっと多くのことを知りたいという渇望が伝わってきました」と言う。これは彼女にとって最も感慨深いフィールドワークとなった。

月経については、性別や年齢にかかわらずすべての人が学ばなければならない。（小紅帽提供）

身体への巡礼

2020年初、パンデミックが世界を遅い、ネパールでも予告なく半年間のロックダウンが始まった。同年9月、林念慈は台湾に戻るとネパールでの経験を『女，走往身体的朝聖（身体への巡礼）』という一冊にまとめた。

「私自身、子供の頃から生理とは折り合いが悪かったのですが、起業してから多くの時間を費やしてこの問題を考えるようになり、それまでとは違う方法で自分の身体と向き合えるようになりました」と語る。

林念慈はNGOで働いていた頃の話をする。男性がリーダーシップを取る環境だったため、女性たちは常に努力して自分にもできることを証明しなければならず、疲れるだけのプロセスだった。それがネパールへ行ったことで「執着しない」こと、臨機応変に対応することを学んだと言う。ワークショップの女性たちからは、忙しい農作業と家事と仕事の間で、節気や祭りを楽しむ方法も学んだ。「ネパールの暮らしは、大自然のリズムの中にあります」と言う。

長年にわたり、林念慈は常に人生を探求し、さまざまな国で学んだことで自身の身体と向き合い、女性の自覚と覚醒の道を歩んできた。月経は神が女性に与えた恩恵であり、月に一度の生理を通して新陳代謝を行ない、自らを見つめ、生まれ変わる循環でもあるのだ。

「女性の身体は大自然のリズムの中にあります。このような認識で為すべきことをしていれば、それは大きな力となり、しかも無理をする必要のない状態になります」と言う。2017年、彼女はイギリスのBBCによる「世界の女性100人」に選ばれた。これは彼女にとって思いがけないことだった。「私たちは、毎日布ナプキンを作り、あるいは他の場所へ行って講演したりするだけで、自ずと効果を上げているのです。活動自体がごく自然に広がり、少しずつ影響力を持つようになりました」と言う。「心の流れに従っていけば、不可能を可能にできる」と彼女が受賞への感謝の言葉に書いた通りである。

小紅帽（With Red）は、高齢の女性たちから聞いた生理の経験をまとめて展覧会「おばあちゃんの月」を開いた。林薇は、記録するという行為が、この経験を記録と議論に値するものに変えると語る。（林格立撮影）

小紅帽：林薇

林念慈は布ナプキンの生産で起業し、環境にやさしいポジティブな月経教育を推進している。

生理のタブー

まず、生理に注意を向けた理由を尋ねてみた。「13～14歳で初潮を迎えてからずっと関心を持ってきました」と林薇は当たり前のように答える。彼女が初潮を迎えた時、それまでいつも開明的で堂々としていた母親が口ごもった。先生や友人、叔母さんなどに聞いてみても「公の場で大きな声で話さないように」と言われた。「その時に、心にトゲが刺さったように感じました。その時から、このことと戦ってきたのです」

小紅帽協会（With Red）を設立してから、チームは各地で宣伝していたが、遠くから観察していたおばあさんがブースに近づいてきた。そして「大勢の前で生理の話をするべきではない」と忠告してきて、その後で自分の月経の経験をいろいろと話してくれた。この経験から小紅帽は「おばあちゃんの月」プロジェクトを開始し、台湾の高齢女性たちに月経の経験を聞きに行った。「おばあさんたちの時代にどのように生理に対処していたのか、台湾には記録がほとんどありません。これは台湾の歴史において記録のない部分で、パズルが1ピース欠けているような感じです」と言う。「話すことが記録であり、記録するという動作がこの経験を記録に値するものにし、話し合う価値のあるものにするのです」

世の中は一人で変えられるものではなく、多くの人が一緒に暮らしの中で実践していかなければならない。林薇は組織の力で取り組もうと考え、2019年に「全球小紅帽協会」を設立した。

環境にやさしい生理用ナプキンを生産するDharti Mataワークショップは、現地の女性たちに雇用を提供することで村に小さな経済体を形成している。

「生理」の名を冠する運動

小紅帽の仕事は三つに分けられる。教育と提唱と社会福祉である。

月経教育はすでに教育課程に組み込まれているが、着実に実施されているとは限らず、小紅帽はこのための教案や教材、教具を作成し、台湾各地の90の学校を訪ね歩いた。小学校から大学まで自ら足を踏み入れて教えることで、第一線の教員にも困難があることを知った。月経教育は生理面の知識を教えるだけでなく、ジェンダー教育、情動教育、国際的テーマなどにも関わっており、分野を超えた討論が必要となる。

提唱としては、生理から生じるさまざまなテーマについて討論している。例えば「生理の汚名」では、生理は直接口にしがたく、多くの場合「あれ」などと呼ばれること。また「生理の不平等」では、トイレットペーパーを提供するのと同様に生理用品も提供すべきではないかと訴える。「生理の迷信」では、生理の時は廟に参拝に行ってはいけない、冷たいものを食べてはいけない、というのはどうなのか、女性の身体や日常の行動を他人が決めてもよいのだろうか、と訴える。小紅帽は、このようなユーモラスな切り口で社会と向き合い、議論を巻き起こしたいと考えている。

もう一つは、世界的に注目されている「生理の貧困」問題である。「生理の貧困とは何か知らない人が多いですし、その存在を信じられないという人も大勢います」と林薇は言う。生理の貧困とは、経済的な事情で十分な生理用品を買えず、成長期に良くない影響を及ぼすというものだ。林薇はオランダやタンザニア、レソトで身近に「生理の貧困」を目にし、それなら台湾でも目につかないところで起きているのではないかと考えた。そこでさまざまな社会福祉団体を訪ね、ソーシャルワーカーが個別ケースを扱う時に、生理の貧困の問題がないかどうか、ひとこと尋ねてみてほしいと呼びかけた。すると、これらの団体から次々と紹介の電話が入り、現在、小紅帽では国内の18歳以下の少女550人に彼女たちがカスタマイズした生理用品を提供している。

「生理の貧困の最大の問題は、子供たちの心の不安や焦燥です」と言う。生理用品が足りないため、1枚を使うたびに心が痛むのである。そこで小紅帽がカスタマイズした生理用品を提供し、ソーシャルワーカーが追跡調査することで、生理の貧困の状況を理解できる。

林念慈は、これは身体への巡礼の道だと考えている。

「ダイアナ賞」受賞

林薇は公の場で幾度もこのように話している。「小紅帽という団体は、スタートした時から自己破滅への道を歩んでいます」と。いつか、社会が小紅帽を必要としない日が来ることを願っているのである。「これが過去の歴史、台湾の記憶となり、私たちが向き合わなければならないことでなくなればいいのです」

小紅帽はわずか3年で成果をあげ、2021年にはイギリスの「ダイアナ賞」を受賞した。台湾での活動が海外でも高く評価されたのである。

イギリスの授賞式に行くと、多くの外国人から「他の国なら10年かかることを、小紅帽は3年で成し遂げた。これは素晴らしい成功事例だ」と称賛された。林薇はさらに付け加える。「これは、私たちの社会が何かを信じ、協力して何かをしようとするからできたことです。私たちの背後には支持してくれる友が何万人もいるからこそ、推進できるのです」と。

台湾には世界に見せる価値のある行動や理念がたくさんあり、同じ理念を持つ人々は台湾を見てみよう、友人になろうと思うものだ。この2人の女性の姿に、私たちは未来を見ることができる。

小紅帽は「生理の貧困」問題を正視するよう呼びかけ、現在毎月550人の少女に生理用品を提供している。（小紅帽提供）

台湾人として初めてイギリスのダイアナ賞を受賞した林薇。（林格立撮影）

2017年にBBCの「世界の女性100人」の一人に選ばれた林念慈。（林格立撮影）