台湾-フランス協力の懸け橋
2008年、台北医学大学はビュルヌフ教授を訪問学者として招いた。研究が好きな教授は血漿分画の臨床研究ができ、医学界とも交流できるというので喜んでこれを受けた。
教授は台湾での研究を国際協力へと展開した。台北医学大学に国際生物医学工学の博士課程を設けて主任になり、彼が仲立ちをして台北医学大学神経医学研究センターと仏リール大学との協力による「神経科学共同実験室」を設立した。また、両校は学制面でも協力し、修士‧博士課程の学生の交換留学や交流を可能にした。現在までに5人の学生が、台湾の学費を納めるだけで両校の学位を取得、あるいは現在履修中である。
2019年、ビュルヌフ教授は、その血漿分画技術などの分野における貢献を高く評価され、国際血液製剤協会から賞を受けた。台湾からこの賞の受賞者が出たのは初めてのことだ。ビュルヌフ教授は血漿や血小板の生物学的製剤を用いて脳の損傷や眼の疾病などの再生医学を研究するだけではない。国家衛生研究院の研究費を申請し、血小板のナノ粒子を抗がん剤のキャリヤーとすることで抗がん剤の副作用を低減させる研究も開始した。また、学生たちには幹細胞の研究を指導し、「血液」を最大限に利用する道を探っている。
研究面の貢献だけではない。ビュルヌフ教授は公認の良い先生でもある。台北医学大学創設以来初めての外国人大学院院長として、学校から師鐸賞も受けている。その「フランス式でも台湾式でもある指導スタイル」は、学生たちに尊敬され、畏れられ、信頼されている。
教授は、学生が提出した英語のレポートの出来が悪いと「血を吐きたくなりますよ」と華語で話す。それでも忍耐強く修正を加え、多い時には学生に7回も再提出を求めて、そのたびに丁寧に修正する。学生のリソースを増やすために、産学協力の機会も積極的に求めている。幹細胞の研究でブルキナファソから来た学生のためには、大学の幹細胞専門家である黄彦華氏にも指導を求めるほか、スウェーデンのウプサラ大学のFolke Knutson教授の協力も仰いだ。
教授は学生たちとも打ち解けていて、フランス語訛りの華語を披露するのが好きだと言う。それが皆に通じない時は「ちょっと傷ついた」という表情でフランス式のユーモアも見せる。
華語の「白台瑞」という名前の由来は、台湾の友人がフランス語名のThierry(ティエリー)の発音からつけてくれたそうだ。この名前の中に台湾の「台」と、「瑞」という縁起の良い文字が入っているのが気に入っている。台湾は、キャリアを豊富にする機会をあたえてくれただけでなく、専門の血液研究から生物工学や神経科学、がん治療にまで研究範囲も広げてくれたと言う。
ただ、台湾に来たばかりの頃は、車の多さに閉口したそうだ。初めて自転車に乗って台北市の基隆路を走った時などは、大量の車の流れに飲み込まれそうな感じだったという。しかし今では、平日は自転車で運動し、景美渓の河川敷から淡水まで自由に行くこともできる。ビュルヌフ教授にとって、台湾は人生における最も美しい景色となったのである。
ビュルヌフ教授の実験室が、血小板の細胞外小胞(EV)を用いて行なう脳神経再生実験の概要。
丁寧に学生を指導するビュルヌフ教授は、大学院生の師であり友でもある。
ビュルヌフ教授にとって、台湾は人生で最も美しい景色だという。(林旻萱撮影)