既存のイメージを打ち破る
「新台客:東南アジアからの移民・移住労働者」特別展は、近年の新住民や新移民をテーマとする展覧会とは異なり、時間軸を長く引き伸ばしている。これによって「新移民」や「新移住労働者」に対する集団としての既存のイメージを打破しようと考えた。「さまざまな国から来た移民や移住労働者の物語を通して、それぞれの文化や歴史、人生を見ていただきたいのです」と周宜穎は説明する。
展覧会の第二のテーマ「なぜ来たのか:彼/彼女の台湾物語」では、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどから来た移民や移住労働者14人の物語に触れられる。14人の背景はさまざまで、主婦もいれば、ラジオ番組のパーソナリティ、町づくりに取り組む人、漁船員などもいて、展覧会では彼らに「家」というテーマで過去と現在、未来を語ってもらった。
タイ出身の江容珍さんは、ご主人と出会って恋愛結婚するまで、経済的に自立したキャリアウーマンだった。大学の経済学部出身という高学歴で、英語も堪能である。だが、結婚後に、タイでビジネスをしていたご主人の異動で故郷を去ることとなり、高雄の美濃へ移住してからは、まったく異なる生活が始まった。
ご主人は長男で、家で唯一の男子であるため、江容珍さんは長男の嫁として家の一切を切り盛りしなければならず、しかも不慣れな異郷の暮らしに適応しなければならない。最初はそうした暮らしに馴染むことができず、辛い日々を送っていたが、娘が学校に通うようになって、自分も学校でボランティアをするようになり、少しずつ心を開くようになった。展示エリアではドキュメンタリーフィルムも上映されており、江容珍さんが不慣れな地で台所だけが郷愁を癒す場だった時期から、しだいにこの土地で心を開くようになるまでを語っている。
映像の中で、彼女は17年にわたる美濃の農村での伝統的な暮らしを振り返り、彼女が描いた簡単な絵を通して将来の家のイメージを語る。青空の下、片方には美濃の一軒家、もう片方にはタイの家が描かれており、彼女はその間を自由に行き来したいと考えているのである。
もう一つの物語の主人公は、カンボジア出身で南洋台湾姉妹会の初代理事長を務めた蘇科雅さんだ。クメール・ルージュの時代にカンボジアで育った蘇科雅さんは、何とかしてその恐怖政治から逃れたいと思っていた時、結婚紹介業者を通してパートナーを探していたご主人と知り合った。ご主人は蘇科雅さんが流暢に英語を話すのを見て驚き、まさに理想のパートナーだと感じて結婚を決めた。蘇科雅さんは看護師の資格を持っていたのだが、台湾にやってきてからは子育てができないのではないかと言われた。彼女は、漢字が読めるようにならなければ自分の意見は受け入れられないと考え、当時、美濃で初めて開かれた第一回外国人配偶者向け識字教室に参加し、そこから南洋台湾姉妹会の初代理事長になったのである。
異郷で奮闘している人は他にもいる。中山大学社会学科の修士課程に学ぶ新住民の阮氏貞さんだ。ベトナムで大学を出た彼女は、台湾人男性と知り合って結婚、台湾に来た当初は周囲の人からいつも学歴を聞かれ、「ベトナムのですか。台湾のですか。ベトナムなら大卒ですけど、台湾の学歴は小学校卒です」と答えるほかなかった。負けず嫌いの彼女は、今ではラジオ番組でパーソナリティを務めるほか、社会福祉の仕事に従事し、人助けをしている。
今回の展覧会の移住労働者に関する展示エリアでは、外国人労働者に対するイメージを覆される。外国人労働者の大部分はブルーカラーだと思っている人が多いが、実際には通訳・翻訳などのホワイトカラーもいる。
周宜穎によると、現在台湾で働いている60万人余りの移住労働者のうち、6万人余りはホワイトカラーなのだが、それを知る人は少ないと言う。例えば、展覧会で紹介されている主人公の一人、楊玉鶯さんは、台湾で通訳や仲介などの仕事をしている。ベトナム華僑の彼女は、台湾の暨南大学中文科を卒後して通訳の仕事をしてきた。
普段は医療機関で介護の仕事をしているリンダさんは、仕事の合間に独学で写真撮影を学び、同じくインドネシアから来た人々の写真を撮っている。また仲間とともに結婚写真のスタジオを開き、インドネシア人カップルの写真を撮っている。多忙な中、彼女は台湾に設立されたインドネシアの放送大学で学び、帰国後のために着々と準備を進めている。

カンボジア出身の蘇科雅さんは台湾人男性に嫁いでから懸命に中国語を学び、新住民のために声を上げてきた。