「自分をウサギだと想像してみてください。鼻はひくひく動きますか?ピョンピョン跳ねならが進めますか?大きな前歯でどうやって物をかじりますか?」土曜日の早朝、中・低学年の生徒30人余りが教室に集まり、花花先生による3時間の児童演劇入門コースが始まった。
集まった子供たちは皆、新移民の子供で、初めての演劇の授業で、物おじしている子もいる。だが、先生とボランティアのユーモラスな指導に導かれて、腕を伸ばしたり、しゃがんだりしているうちに、身体も気持ちもほぐれ、教室に笑い声が響き始める。
これは伊甸基金会が主催する新移民二世のための演劇カリキュラムで、今年で3年目になる。去年初級に参加した子供たちは今年は中級コースに参加でき、中学生になれば人間関係や技能を学ぶ多元智慧コースに進むこともでき、毎年予想を超える参加申し込みがある。
伊甸基金会・新移民家庭成長センターの朱莉英主任は「多様な文化的背景を持つというのが、この子供たちの特別なところで、演劇コースを設けたのは、活発な方法で自分の背景にある文化を知ってほしいと思ったからです」と言う。自信を持てずにいた子供も演劇の練習を通して自信をつけ、積極的に自分を表現するようになり、前向きな人間関係を築けるようになる。カリキュラムも特別に設計されたものなのである。
観察から始まる芸術
このコースは子役を育成するためのものではない。「演劇を通して観察と表現の力を培うことで、自分を理解し、他者を尊重し、自信を持って自分を表現できるようにするものです。新移民の子供の多くが、なかなか自分から話すことができないので」と話すのは、児童演劇教育に携わって9年になる花花先生(本名:林佳樺)だ。
その経験によると、新移民の子供たちは、引っ込み思案でなかなか自分から話そうとしないが、演劇を通して身体を解きほぐし、大きな声を出せば自信も表現力も高まると言う。カリキュラムは身体の開発、声の開発、想像力、創造力、そしてグループ創作に分かれる。身体の開発では、観察を通してさまざまな形や動物を身体で模倣する。声の開発では自分の声の認識から始めて腹式の発声へと進めていく。
想像力と創造力の課程では演劇を生活に応用する。例えば、それぞれが身近な花を観察して身体で表現する。身の回りへ観察の目を向ければ、学習力と注意力が高まり、芸術の啓蒙にもなる。
最も重要なのは人とのコミュニケーションの学習だ。グループ創作は人間関係の構築に非常に役立つ。例えば、数人1組でそれぞれ自動車の異なる部位を担当し、一緒に前進するのだが、一人一人の動作が違うので教室は笑い声にあふれる。また、母親の故郷の料理を演じる時は、一人一人が異なる食材を担当して油の中で撥ねたりひっくり返ったりする。グループ創作では多様な文化がぶつかりあい、最終的には力を合わせて表現し、メンバーは皆よい友達になる。
多様な文化を通して自分を知る
「家に帰ったら、新聞記者になって、お母さんに故郷について20の質問をしてください」。宿題では、子供たちに母親の故郷の文化に触れさせる。故郷の気候や遊び、歌などを聞いて、次の授業で互いに発表し、多様な文化に触れる。
2年目の中級コースに子供を通わせる新移民の母親によると、昨年子供を初級コースに参加させたところ、子供は明るく活発になったと言う。自分から2泊3日の合宿に参加すると言いだし、家ではベトナムやタイやインドネシアの文化や習慣について家族に話し、異郷で暮らす母親の大変さも理解するようになったという。
ベトナム出身の母親はこう話す。「息子の小源は引っ込み思案で、人付き合いも苦手でしたが、去年演劇コースに参加してからは、学んだことを家族に話すようになりました。学校の先生も、小源は人助けもするようになり、性格も明るくなったと言ってくれました」。このような変化を見て、子供が楽しんでいる限り、演劇コースに参加させるつもりだと言う。
伊甸基金会・新移民家庭成長センターの朱莉英主任は、このカリキュラムは子供たちの国際的視野を開くものでもあるという。特に、東南アジア出身の母親たちは、子供たちに自分の祖国の文化を知ってもらいたいと願っており、このコースが一つの架け橋になる。実際、多くの子供たちが、いつか母親の生まれ故郷へ一緒に行きたいと願うようになっているのだ。
感受性を豊かに、芸術の世界へ
「芸術において重要なのは感受性です。これは一つの情熱でもあり、感受性も情熱もなければ学習もつまらないものになってしまいます」と花花先生は言う。デジタル製品があふれるようになり、多くの親は子供に芸術に興味を持ってほしいと思っているが、どこから手を付けたらいいのか分からない。「長年児童演劇を教えていますが、一番うれしいのは、子供が何かを感じてそれを表現してくれることです。おもしろいとか、うれしいとか、そういうことだけでいいのです」。教師はただ子供の話に耳を傾け、その創意を称賛し、どの子供も進んで発言できるようにすることが何より大切だと花花先生は考える。今は生活のリズムが速すぎ、子供の感覚は見過ごされてしまいがちだ。そこで、まず立ち止まって何かを感じることが大切なのだと言う。
子供が興味を持つことがいかに重要か、花花先生は自らの経験を語る。彼女は高校ではパン作りを専攻したが、卒業後は単純に子供が好きだというので幼稚園の先生になった。ところが外見が非常に幼く見えるので生徒の親たちから信頼されず、解雇されてしまった。だが、いま振り返るとこれがかえって良かったのかも知れない。「これは良い挫折でした。本当に子供が好きだということに気付き、その後、保育科に進学したのです」という。そして卒業後に信誼基金会で実習し、そこで児童演劇に触れることとなる。
その後は幸運にも「如果児童劇団」の徐婉瑩先生や張暁華先生に出会うことができた。さらに、台湾の僻遠地域の学校で教員の流動率が高すぎるという問題を解決するために設立された組織「Teach for Taiwan/TFT」と接触する機会を得た。こうした経緯と自らの信仰の関係で、彼女は僻遠地域の児童の教育に使命を感じるようになり、桃園市の僻遠地域である復興区霞雲小学校の代理教師の試験に合格した。今は自分の学級で教える傍ら、学校の演劇クラブも指導している。
今も外見は幼く見えるが、花花先生は今年33歳。学校を出てから大きく一回りしてようやく好きな道を見出すことができた彼女は、子供たちにも好きなことを見つけてほしいと願っている。「いま私は3年生を見ています。山のタイヤルの子供たちにも母語があり、私は彼らにシンデレラの物語を通して交通安全の劇を指導しています。衣装も道具も自分たちで作り、コンクールにも参加しています」と言う。やはり自信を持てない子供もいるので、新住民の子供と同様、演劇の練習を通して学ぶ喜びを教えている。
しばらく前、新住民の子供を対象とした演劇コースで学んだ子供が、演劇に強い興味を示して将来は演劇学校に進みたいと言い出した。まだ小学5年生なのに、学校の宿舎に入って毎日ストレッチと発声練習に精を出している。「新住民のお母さんたちは、子供の夢を全力でサポートしています。異郷で苦労してきた母親たちは子供たちの大変さもよく理解しているので、子供が興味を持った分野に取り組むことを家族で応援するのです」と花花先生は言う。
児童演劇コースは、まるで魔法のように、子供たちに他のことを忘れさせ、前向きに周囲の物事に目を向けさせる。そして子供たちは自分を知り、自分が好きなことを見出し、豊かな感受性を育てていく。こうして芸術への扉が開かれていくのである。