入漁料は島国の主要収入
1982年に「国連海洋法条約」が成立して各国は200海里の排他的経済水域を持つこととなり、外国漁船がそこで漁業を行なうには入漁料を支払うことになった。台湾には2000隻余りの遠洋漁船があり、毎年沿岸各国に相当額の入漁料を支払っていることになる。
マグロ組合理事長の謝文栄によると、入漁料は沿岸国によって異なるが、合計すると年に数億台湾ドルに達すると言う。
台湾区マグロ組合大西洋運営委員会主任委員を務める皇明漁業公司董事長の陳得財は7隻の漁船を持ち、三大洋で操業している。その話によると、1隻当りの平均入漁料は太平洋では年間120万台湾ドル、大西洋では110万、インド洋では80万ということだ。
陳得財によると、漁船は通常は公海で漁をしているが、近海での漁のシーズンは限られており、その時期に2~3ヶ月だけ排他的経済水域に入るが、それでも一年分の入漁料を支払わなければならない。
マグロ組合理事長の謝文栄によると、年間の入漁料を支払ったのに入漁しないこともあるという。アフリカ沖セイシェル諸島の入漁料は年100余万だが、漁獲が悪かったり、海賊が出没したりすれば入漁しない。
「フィジーやナウルなどの太平洋の島国は、私たちからの入漁料で国を維持しているようなものです」と言う。
人口が10万人に満たないインド洋のセイシェル諸島では、国民所得100ドルのうち3ドルは台湾の入漁料から来ている。
遠洋漁業で国際舞台へ
台湾の巨大なマグロ延縄船団は、漁業資源を持つ沿岸国に大きな経済的利益をもたらしている。国際的な漁業組織も台湾の存在を無視することはできなくなり、国連は1995年に台湾の「漁業主体」としての地位を認めた。これによって台湾は国際的なマグロ保存機関のメンバーとなり、漁業外交を通して世界と対話することとなった。
2004年、台湾はWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の創設メンバーとなり、国連脱退以来、初めて国際組織に設立から参画することとなった。
台湾区マグロ組合理事長の謝文栄は、我が国は世界の海洋漁業において重要な役割を演じており、台湾が加わらなければ国際組織の存在意義も失われると考えている。
「世界のマグロ産業は台湾抜きで語ることはできません。これが中国大陸にとっては頭の痛いところでもあるのです」と謝文栄は言う。
2007年、国連管轄下のIOTC(インド洋まぐろ類委員会)の総会が開催された時、我が国の参加資格が争点となり、一部の加盟国からは、IOTCを国連から分離し、台湾が加盟できるようにするという提案が出た。
当時の台湾の報道によると、IOTCのある官僚は匿名で「インド洋のマグロ保存を推進するのに、巨大な船団を持つ国を参加させないというのでは話にならない」とメディアに語った。
謝文栄の理解によると、中国大陸はもともと総会の提案に賛成していたが、メディアの報道が、大陸の外交が許容する一線を越えてしまい、提案を認めないという立場に変わったということである
武装して海賊と戦う
漁況の変化の他に、遠洋漁業の最大の不安は燃料の高騰と海賊である。
皇明漁業公司の董事長で台湾区マグロ組合大西洋運営委員会主任委員を務める陳得財によると、2年前の燃料は1トン700米ドルだったが、今は1トン1200米ドルまで値上がりしている。作業船には1日3トンの燃料が必要なので、1日当り4万5000台湾ドルの支出になる。
「幸い円高なので、漁獲の日本での売上を燃料購入に充てることで少し助かっています」と陳得財は言う。
陳得財の7隻のマグロ延縄漁船は三大洋で操業している。今年の漁況は大西洋が最も悪く、1隻当り1週間で通常なら4~5トンのところ、1~2トンしか獲れず、インド洋は好調で1隻で週7トン獲れると言う。
陳得財の450トンの漁船「虹盛号」は以前はインド洋で操業していたが、ソマリアの海賊の活動が活発になり、昨年から漁業署の規制に従って今は太平洋に移って漁をしている。
漁業署によると、2005年から現在までの間に、ソマリアの海賊による台湾漁船襲撃事件が5回起きている。最も被害が大きかったのは2010年、「春日財68号」が海賊に乗っ取られ、人質となった船長は射殺され、船も撃沈された事件だ。
マグロ組合理事長の謝文栄は、遠洋漁船に武装した警備員を乗せられるよう、法令の改正を求めている。これについては漁業署の沙志一署長も法改正を目指したいと述べている。沙志一署長はまた、外交および経済関係の省庁が台湾の遠洋漁業の発展により関心を寄せることを願っている。
50~60年にわたって発展してきた台湾の遠洋漁業は、今は多くの国の目標となっている。
中国大陸もここ10年ほど積極的に遠洋漁業を発展させており、政府による燃料費補助や造船奨励策も実施している。これについて謝文栄は、「本当の狙いは遠洋漁業で台湾を追い抜くことにある」と見ている。外交面や戦略面、経済面における遠洋漁業の意義の大きさを感じているからだと言う。
台湾は四方を海に囲まれているが、海に対する意識や態度は消極的だ。遠洋漁業者は、中国大陸が問題の核心を見ているのに対し、私たちの政府にはそれが見えているのか、と問いかけている。