創作は破壊と建設の繰り返し
黄承遠は自身の画業について、農夫が田畑を耕すように、破壊が先にあってから種まきや植付が始まるので、破壊と建設の循環の中で、最終的に作品が完成し、作品は破壊と建設から生まれてくると説明する。黄承遠の作品を観た人の多くは、その作品が瞬く間に完成したのだろうと思うが、実は一枚一枚長い時間がかかっている。「いつから絵を描く状態に入っていくのか、その効果はどうなのかとしばしば聞かれますが、自分でもよく分かりません。それは破壊と建設の過程から出現するものだからです」と黄承遠は説明する。
黄承遠の作品は中国大陸と台湾の両方でしばしば展示されている。そして2015年からは積極的にドイツで開催される美術フェア、アート・ケルンに参加するようになった。「アーティストは自己に目標を設定しなければ、潜在能力を刺激することはできませんし、そうしてこそスケールや視野を広げることができます」と語る。こうした国際展に参加することで、自己の作品をより良く理解できるようになったと言う。
近年、欧米に軸足を移しつつある黄承遠の評価は海外でも高まっている。その鍵となるのは、「私の絵画表現において欧米の人々に理解できるところがありながら、東洋的要素から来る抽象性が、彼らにはまた別の魅力を持つのでしょう」と説明する。
「自身で世界を見つめ、絵画で生命を解析し理解する」と言う黄承遠は、画業を修行と見なすことを原則として生を観照してきた。「シンプルであることが力になる」と言う黄承遠は、はっきりと見通していくことでよりシンプルになり、エネルギーがそこから溢れてくると言う。
王維の詩に言う「行到水窮処、坐看雲起時(行いては到る水の窮まるところ 坐しては看る雲の起きるとき)」が、その創作の道のりから得た悟りである。
「行くべき道が見えない時、出現するのは生の一種の境地であり、その価値と意義は全く異なってくるのです」と黄承遠は語る。日没が近づき、新竹に特有の強い風が屋外に音を立てる。現在の黄承遠は、心の欲するままに山を見れば山を描く。この芸術の長い道に、生命力に満ちた線と清々しく豊かな心と目をもって、立ち止まることなく新しい可能性を開墾していくのである。
「陥落」2009年 192×113㎝ アクリル、チャコール、紙
黄承遠は、重要なのは一本の線を完成できるかどうかではなく、「五分の力と決めたらそれを維持できるかどうかが全体の構図や物語、心境に影響する」と語る。
黄承遠は、ひとつのことに全神経を集中すれば、形而上の、またはスピリチュアルな力が溢れ出てくると考えている。 (林旻萱撮影)
近年は黄承遠の海外での展覧会も増えている。西洋の技法と東洋の水墨画のスタイルを合わせた作品は欧米の人々に新鮮な感覚をもたらしている。