昨年（2021年）、イギリスで行なわれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議（COP26）で、「情報通信産業気候アクション」という記者会見とフォーラムが大きく注目された。台湾気候連盟の彭啓明‧秘書長とイギリスのAldersgate GroupのNick Molho事務局長による対談で、台湾気候連盟の発足や台湾の情報通信（ICT）産業のイノベーションが気候変動問題において果たす重要な役割について論じられた。また、オンラインで連盟の創設メンバーである台湾の情報通信大手8社とつなぎ、ネットゼロに向けた行動の成果と目標を発表した。

台湾積体電路製造（TSMC）は「TSMCサプライヤー･サステナビリティ･アカデミー」を開設し、ネットゼロに向けた行動の経験を無償でシェアするとともに多くの人の参加を呼びかけている。（写真：TSMCサプライヤー･サステナビリティ･アカデミー公式サイト）

ゴルフから気候変動へ

現在、多くの国が将来的なネットゼロを目標に掲げている。EUは2026年に「炭素国境調整メカニズム（CBAM）」（国境炭素税）を実施するとしており、アップルなどの企業は2030年までにグローバルオペレーション、サプライチェーン、製品のライフサイクルにおいてカーボンニュートラルを実現すると発表。アップルの重要なサプライチェーンである台湾企業も、再生可能エネルギーと脱炭素化の重要性を感じている。

十数年前にWeatherRisk Explore社を設立した彭啓明は気象専門家で、台湾のテクノロジー企業の9割が所属する台北市電脳公会（コンピュータ協会）のメンバーでもあるため、企業経営者との交流が多い。以前は経営者から天気のことを聞かれるのはゴルフのためだったが、ここ数年は産業界の雰囲気も変わり、気候変動に関する話をすることが増えたと言う。そして多くの企業が国際競争のために、カーボン‧ディスクロージャー‧プロジェクト（CDP）や再生可能エネルギー100％を目指すRE100、電気自動車への移行を促進するEV100イニシアチブなどに次々と加盟している。ここからも、脱炭素化が競争力のカギを握ると企業が認識していることがわかる。

しかし、台湾社会では気候変動の深刻な影響がまだ十分に理解されていないと気付いた企業経営者たちは、8社で集まって「台湾気候連盟」を結成したのである。

台湾気候連盟の彭啓明‧秘書長（左）はCOP26の会場で、イギリスのAldersgate GroupのNick Molho事務局長と対談し、ネットゼロに向けた台湾ICT産業の決意を伝えた。（台湾気候連盟提供）

団結してネットゼロを目指す

だが、連盟の結成には後押しする力が必要だった。そうした中、イギリス在台弁公処のキャサリン‧ネトルトン前代表が、台湾気候連盟とイギリスの団体Aldersgate Groupを引き合わせてくれ、これによってイギリスのNGOの運営方法を理解することができた。彭啓明によると、Aldersgate Groupは複数の産業をまたいだ団体で、気候変動問題に対する意見を提出し、産業と政府と民間との対話の懸け橋となっている。「気候変動は一部の人の問題ではなく、すべての人が一緒に取り組むべきものです。Aldersgate Groupに大いに啓発されました」と言う。

彭啓明によると、連盟のメンバー間では互いを刺激し合うことで、良好な循環が生まれているという。例えば、TSMCは2025年には温室効果ガス排出量ゼロ成長を達成し、2050年にはネットゼロを目指すとしている。Deltaは2030年までに100％再生可能エネルギーを使用し、カーボンニュートラルを達成すると宣言、AcerとASUSは2035年までに100％クリーンエネルギー使用にすると発表、AUOは同目標を2050年までに達成し、2025年には2018年比で二酸化炭素排出量を25％削減すると宣言した。連盟のメンバーは相次いでRE100に加盟し、世界のエレクトロニクス産業のベンチマーク企業となっている。

グリーン‧マジック学校と称えられる成功大学の孫運璿グリーンビル研究棟は、竣工から10年余りで電力削減効果は86％に達しており、世界的にも脱炭素化技術の手本とされている。（Delta提供）

ネットゼロまでの遠い道のり

今年3月、台湾気候連盟は「台湾ICT産業サプライチェーンとともにネットゼロの未来へ邁進」と題する国際シンポジウムを開催した。サプライチェーンの代表300人余りとともに温暖化対策の緊急性と、連盟メンバーの脱炭素化の経験をシェアした。

その中で、TSMCのシニア‧ヴァイス‧プレジデント兼ESG（環境‧社会‧ガバナンス）委員会主席の何麗梅は次のように語った。TSMCは2016年に省エネ‧脱炭素委員会を設立、2017年には再生可能エネルギープロジェクト、2019年にはカーボン‧クレジット開発プロジェクトを立ち上げ、昨年はネットゼロへのロードマップを作成した。TSMCはネットゼロの目標を宣言する前に、5～6年をかけて全体像を整理してきたのである。

何麗梅によると、TSMCは大量の電力を使用するが、同社が生産する半導体によって世界のユーザーはその4倍の電力使用を節減することができる。さらにTSMCは2年前に社内でESG賞をスタートさせ、持続可能な発展のためのアイディア提出を社員に奨励し、社員の積極的な活動を表彰している。例えば、2021年に卓越影響賞を受賞したスマート氷水システムは、毎年1.85億の電力使用料と9万7000トンの二酸化炭素排出量を削減できるというものだ。

台達電子（Delta）は蓄電分野の研究開発に力を注いでいる。台湾電力と協力する彰浜太陽光発電プラントの蓄電および送電系統のプロジェクトでは安定した発電出力を実現している。

低炭素化がビジネスに

会社設立から間もない時に第一次オイルショックを経験したDelta（デルタ電子）の創業者‧鄭崇華は、早くから地球の資源が有限であることを意識していた。同社の現在の董事長で台湾気候連盟の理事長も務める海英俊は、パワーサプライとエネルギー管理のリーディングカンパニーとして、電源の効率アップに尽力することで、世界のエネルギー消費の抑制に貢献したいと考えている。「以前の電源変換効率は60％でしたが、今は90％以上、一部の製品は98％、99％に達しています」と海英俊は言い、次のように注意を促した。多くの人は、脱炭素化は炭素税や設備投資のかかる費用だと考えているが、Deltaの実績からわかる通り、実はビジネスチャンスであり、高効率の製品は顧客にも会社にも利益をもたらすのである。2010年から2021年にかけて、Deltaの高効率‧省エネ製品は、世界中の顧客のために359億キロワット/時の節電を実現し、約1901万トンの二酸化炭素排出量を削減したのである。

Deltaの最高サステナビリティ責任者（CSO）である周志宏は、同社の営業目標と持続可能な発展は緊密に連動していると語る。「電力‧電子のコアテクノロジーを基礎に、近年は『電気自動車』『エネルギー‧ストレージ』『マイクログリッド』『インテリジェント‧グリーンビル』などの分野に焦点を当ててネットゼロの趨勢に応えています」と言う。

例えば、成功大学の孫運璿グリーンビル研究棟は、高温多湿の亜熱帯の環境にふさわしい設計になっており、大型のグリーンルーフや深い庇、多数の通風孔、浮力通風などの効果で室温を下げており、一年のうち5～6ヶ月は冷房をつける必要がない。また、大量の自然光に太陽光パネルを組み合わせ、竣工時には同類の建築物に比べて消費電力量を65％削減できると見込んだ。それから10年の良好な維持‧運営を通して、現在、電力削減効果は86％に達している。

この研究棟はグリーン‧マジック学校と呼ばれ、米国グリーンビルディング協会が運営するグリーンビルディング認証（LEED）のプラチナ認証を取得、さらに国連気候変動政府間パネル（IPCC）の第6次評価報告書において、世界の脱炭素化建築物の手本とされたのである。

台湾気候連盟の創設メンバーは、2022年のスマートシティ‧サミット&EXPOにネットゼロをテーマに出展し、企業としてのアクションを紹介するとともに最新の低炭素化技術を用いた製品を展示した。

大が小を率いる

台湾気候連盟結成の目標の一つは、メンバーが手本を示し、数万社のサプライチェーンとともにアクションを起こすことである。

例えば、Deltaは協力会社に省エネを奨励し、気候変動に関する行為準則を定めて専門的な教育訓練のリソースを提供している。

TSMCは、オープンなTSMCサプライヤー‧サステナビリティ‧アカデミー‧プラットフォームを設け、経営やガバナンスの経験などのリソースを協力会社や一般市民に提供している。その内容は労働者の人権、環境保全、情報セキュリティ、サプライチェーン‧サステナビリティ戦略など多岐にわたり、中国語と英語で提供している。

また、台湾気候連盟は台湾の清華大学と協力して台湾気候アカデミーを開設、産業の第一線でサステナビリティに関わってきた講師を招き、またアメリカ、イギリス、ドイツ、シンガポールなどからも講師を招いて世界とのつながりを深め、世界情勢を理解することもできる。彭啓明は、さらにカーボン‧アセット‧マネジメントの概念も導入したいと考えている。気候変動を一つの産業ととらえれば、若い世代が新たなテクノロジーを生み出し、ネットゼロの促進につながるだろう。

ネットゼロの達成には新たな発想や思考が求められる。蔡英文‧総統が、4月22日のアース‧デイに開催されたソーシャル‧デザイン‧アクション‧フォーラムにおいて次のように述べた通りである。「長期にわたる脱炭素化には新たな技術による突破が必要で、台湾のテクノロジーの優位性は世界的な競争力を持っています」。ネットゼロの実現はもともと容易なことではない。産業界が結成した台湾気候連盟は、力を合わせてその実現を加速させていくことだろう。

台湾気候連盟は情報通信産業のサプライチェーンと手を組んでともに世界的な気候変動問題に取り組み、テクノロジー産業の力による低炭素化からネットゼロの実現を目指している。（台湾気候連盟提供）