天然石材に代わって
幼い頃から石に囲まれ、「石に育ててもらったようなものだから、この技でどこまでやれるか試したかったのです」と2代目の彼は思いを込める。10年余り前に家業を継いだ時から石材販売は続けながらも、人造大理石の施工をいくつか請け負うようになった。人造大理石は職人不足で、往年ほど人気もないのは事実だと彼は認める。それでも、独創的なデザインの注文を希望通りに作れた時には大きなやりがいを感じる。
人造大理石(テラゾー)の技術は台湾がオリジナルではない。文献によれば起源はイタリアのベニスで、それが日本統治時代に日本を通して入ってきたが、正確な時期はわかっていない。中原大学建築学科の葉俊麟・助理教授によれば、人造大理石や各種の洗い出しは、いずれも天然石を模した人造石の施工方法だ。「台湾の石材生産量は豊かではないうえ、天然石は加工も運送もコストが高くつきます。人造大理石には天然石材も使いますが、大量のセメントやモルタルも加えるので、石材使用量を大幅に減らせます。光沢も質感も遠くから見れば天然石材と差はありません」
また使用者から見れば、天然大理石は掃除しやすく、耐用年数もほぼ期限なしと言える。もし割れたり亀裂が入ったりしても全面的に張り替える必要はなく、その箇所だけを補修すればよく、古くなれば再び研磨すれば寿命も延びる。しかもひんやりとした質感が暑い台湾に適するほか、湿気を吸収しないので結露しにくい。こうした数々の利点によって人造大理石は民間で普及した。
日本統治時代建造の総統府、監察院、新竹州庁などの建物には人造大理石が残る。「正峰行」創業史にもあったように、1950~1980年代の台湾は人造大理石の全盛期で、民家や学校、廟、公共機関に普遍的に使用され、床だけでなく壁と床の間の幅木、手すり壁などにもよく見られた。
台湾人にとって馴染み深い人造大理石の床は、黒、灰、白の3色が埋め込まれたものだが、これは台湾産の石材の色だ。黒は、宜蘭の烏石港や屏東の三地門の頁岩で、原住民族伝統の石板家屋に使われる建材と同じ石だ。ほかにも宜蘭や花蓮、台東で採れる黒い大理石もある。白い石と「中白石」という灰色の石もいずれも大理石で、東部海岸で採石される。
陳炳元によれば、台湾では、黒、灰、白のほかにも、新竹産の黄色い「黄木紋石」や、ヨーロッパや日本で人気のある花蓮寿豊産の緑色した「蛇紋石」などがあった。だが、これらの珍しい石は環境保護のために採掘禁止になっている。
人造大理石の施工には時間がかかり、粉塵も出るため、今は採用する人が減っている。