観光列車:スローな旅の質感
帰国して10年余り、国内外で多くの受賞歴のあった邱柏文は、そのニュースを見て、列車を設計したいと夢見ていた子供時代を思い出した。そして設計士として台鉄のために何かできないかと思いを巡らせた。台鉄の幹部に知り合いはいない。そこでアドレス帳にあるすべての人にメールを送り、「今この時こそ設計業界による手助けが可能だ」と宣言した。すると、台鉄で新たに結成されていたデザイン顧問チームの呉漢中から返事があった。そして2週間後には邱柏文は台鉄に招かれ、新たな台湾一周列車についてプレゼンをしていた。こうして昨年末、再び台湾観光列車は披露され、斬新なデザインが賞賛を浴びた。
外観は黒とオレンジの2色だ。黒は神秘的な気高さをたたえ、オレンジを際立たせる。しかもオレンジは昔からある莒光号を思わせる色だ。車体には日本統治時代に使用されていた古い字体を用い、歴史を象徴させた。
内装も斬新だ。かつての台鉄の列車は、まず堅固で安全なことが重要視された。邱柏文はその基礎の上にデザイン性を加えようと、細部の一つ一つにこだわった。例えば、手すりには人工レザーをかぶせて高級感を出し、照明も白色でなく、温かく居心地の良い光になるよう工夫した。
車内の各表示もデザインし直し、視覚的に統一感を出した。食堂車の電気機器類は高さがばらばらでコードが複雑に伸びていたのを1本のラインになるよう整え、ショーケースも中央に配置して消費を刺激し、テーブルスタンドも置いて温かい雰囲気を出した。「難しいことではありません。細部にまで注意を払えばうまくいきます」
邱柏文がパソコンを開いて見せてくれた原稿にはこうあった。「インスピレーションは、私が阿里山鉄道で感じた台湾の色からきている。秋風がさっと吹き込み、時間が停止したかのようにしばらく車内にとどまるイメージだ。それでデザインのテーマを『秋の風』とした」「これは移動する『プラットフォーム』で、壁はない。外の景色を車内に取り込むように、この『プラットフォーム』を通し、我々は台湾を新たに認識する」
邱柏文のデザインは車窓の風景とも呼応する。カーテンは先住民アーティスト、ユマ‧タルの作品で、山脈の幾何学模様だ。座席はブルーとグレーでアクセントをつけ、台湾の海と原石の色を表す。「何も特別なことはしていません。四季の景観を取り込んだだけです」
すべてを五感でじっくり感じれる。それは旅を新たに捉え直すことでもある。「この仕事はデザインの域を超え、旅というものを見つめ直すことになりました。速度の遅さという列車の欠点を、優美で質のあるものにします」
デザインの力で、台鉄という132年の老舗が転身しようとしている。各列車と各駅に台湾の物語があり、台湾の真の姿と美しさを感じられる。良い仲間が見つかれば行ってみよう。台鉄はまさに変わりつつあるのだから。

コンパクトで美しい富里駅は、富里の新たなランドマークとして地元の人々に愛されている。

張匡逸(左)と張正瑜(右)夫妻が設計した富里駅。花蓮・台東の大自然の中にある、二番目の視線で見るグリーン建築だ。

アーチ型の造形が動きを感じさせる池上駅の天井。ガラス張りの壁面を通して樹木や空の景色が取り入れられている。

列車を設計することが幼い頃からの夢だったと語る邱柏文。

基本的な機能を考慮しつつデザインを加えた。座席のブルーとグレーは、台湾の海と原石をイメージしている。(柏成設計提供/李国民撮影)

ディテールのデザインが全体の質感を高める。(柏成設計提供/李国民撮影)

列車は移動するプラットフォームである。車窓の景色を車内に取り入れて台湾の美を再発見する。(柏成設計提供/李国民撮影)