パソコン2億台分の節電
ASUSはマザーボードで節電を実現したが、電源ユニット大手のデルタ電子(台達電)は変換効率を向上させることで、世界の2億台に上るパソコンおよびサーバーのエネルギー効率を向上させた。
電源ユニットは、110Vの交流を安定した直流(12V、5V、3.3Vなど)へ変換するものだが、その際に不要な熱などの無駄が発生する。この変換効率を向上できれば、無駄を削減でき、大量の電力を使って放熱する必要もなくなる。
2002年に世界最大の電源ユニットメーカーとなったデルタの製品は、世界のノートパソコンとサーバーの半分、それにデスクトップの4分の1に採用されている。
「当社は毎月約1700万点の電源ユニットを生産していますから、変換効率を1%向上させるだけで、年間合わせると60万キロワットの発電所を1基減らすことができます」とデルタ電子総裁の柯子興は言う。同社の製品はこの5年、毎年0.5〜1%ずつ変換効率をアップさせてきた。
デルタ電子董事長の鄭崇華は、長年にわたって企業界に環境への配慮を呼びかけてきた。新エネルギーの開発にも早くから取り組み始め、2004年には旺能光電を設立して太陽電池の開発製造を開始、近年は風力発電機のインバーターや電気自動車の電力系統部品の開発なども行なっている。
最近はさらに「代々受け継がれる」テレビの設計も考えていると言う。筺体の大部分は長期間使用でき、コントロールパネルなどの消耗財を交換し、新しいソフトウェアを入れればアップグレードし続けることができるというものだ。このような、市場の原則に反する、買い替えを奨励しない設計は「揺りかごから揺りかごへ」という精神に基づくもので、これが消費者に受け入れられれば、省エネ・低炭素化にとっては最高のモデルとなるだろう。
3.サプライチェーン
製品のライフサイクルという角度から見ると、使用期間中の二酸化炭素排出量を削減するには、メーカーに業界を超えた努力を求めなければならない。また、使用期間に次いで排出量の多い部品供給面でもメーカーが統合して努力しなければならない。しかし、この分野には困難が多い。部品は種類が多くて複雑である上、サプライヤーの規模は大小さまざまで統合が難しいのである。
「部品製造段階での二酸化炭素排出量の削減こそ、最も頭の痛い課題です」とAUOの林立偉は言う。液晶パネルの部品にはガラス、プラスチック、金属フレーム、液晶、LED、冷陰極管などがあり、大小さまざまな500を超えるサプライヤーを相手に、炭素の足跡のデータを提供してもらい、さらにその削減を進めていくには大変な気力と労力が必要となる。
その話によると、世界市場を寡占している大手部品メーカーの中には、注文が引きも切らないという強みから、初歩的なカーボンフットプリントの数字さえ出さないところもあるという。例えば、ガラス基板の原価では電力と燃料費が大きな比率を占めているが、ガラス基板メーカーから提供される数字は公開されている原価明細と同じだ。日本のある化学品メーカーも同様だという。
こうした問題に遭遇した場合、現在のカーボンフットプリント準則では、同類製品の数字(他社または他国のガラス基板のデータ)で代替することができるが、こうしたデータを、製品ライフサイクルにおいて二酸化炭素排出量が10%以上を占める部分に用いることはできないのである。
このような国際大手の非協力的な態度とは違い、一般の中小の電子部品メーカーは、供給業者間の競争が激しいため、一つ一つルールに従うことを要求できる。しかし千社を超えるサプライヤーの管理方法こそ、サプライチェーンとその中心に位置するメーカーとが同時に低炭素化できるかどうかのカギを握っている。
「各サプライヤーに1人ずつ担当者を置いてもらっています」とASUS最高品質責任者の林全貴は言う。彼らは、コンピュータ上の発注システムがサプライヤー向けの技術規範サイトへリンクするようにしている。サプライヤーはネットで受注を確認する時に「強制的に」ASUSの最新の省エネ技術規範を読まされることとなり、必ずこの規範に従った製品を供給しなければならない。「知らされていなかった」という言い訳はできないのである。
4.輸送も大きなカギ
「以前は15インチのノートパソコンの梱包材が890グラムだったのを620グラムまで減量しました」と林全貴は言う。梱包材の減量と設計改良(外箱をやめて内箱の強度を高めるなど)を経て、それまでは航空用パレットに54台しか積めなかったところを78台まで積めるようにした。コンテナ用パレットには90台だったのが130台積めるようになり、ひとつのコンテナで840台多く運べるようになった。輸送効率は45%アップ、二酸化炭素排出量だけでなく、輸送費も大幅に削減できたのである。
これ以外に、輸送経路の短縮や合併も有効だ。特に製品のライフサイクルにおいて輸送が大きな排出量を占める場合は一層重要になる。
例えば、農産物は生産過程は単純だが、地球の裏側まで輸送すればカーボンフットプリントは激増し、将来的には販売に不利になる。
5.リサイクル
最後に、部品や製品がリサイクルできるか、回収した部品は何回使用できるか、廃棄物としての処理はどうするか、などもカーボンフットプリントに大きく影響する。この部分が良ければ、前段階のカーボンフットプリントから数字を差し引くことも可能なのである。
「リサイクル利用を可能にするには、川下のリサイクル業界にとって、経済規模があり、十分な誘因がなければ長続きしません」と話すのはTSMCの許芳銘だ。「環境にやさしい」という理念の下、TSMCでは競争ではなく協力を強調しており、近年は新型のリサイクル工場と協力している。
許芳銘は「静電気防止プラスチック袋」のリサイクルを例に挙げる。TSMCは毎月5トンの静電防止袋を製品の包装に使用している。アルミ素材を含有しているため本来はリサイクルできないのだが、国内の半導体および光電産業だけで毎月100トン近くと使用量が膨大で、体積も大きい。台湾ではゴミ埋立処理場を増やし難い現状と、世界の半導体業界では最終埋立量が回収率に取って代わろうとしていることから、TSMCではリサイクル技術の開発を指導することにした。
TSMCの支援の下、リサイクル企業はわずか200万元の投資でアルミとプラスチックを別けることに成功した。アルミはアルミ錠として再利用でき、プラスチック部分はプラスチックシューズの原料として利用できることとなった。TSMCは、同業者やサイエンスパークにもこの技術を紹介し、リサイクルを呼びかけている。
「二酸化炭素排出量を削減するには、一社の努力では足りません。産業界全体や国全体が取り組んでこそ成果が上がるのです」と許芳銘は強調する。
リスクか、チャンスか
台湾経済の屋台骨である電子産業のこうした努力は高く評価できる。しかし、台湾が得ているカーボンフットプリント認証の半数以上はこの業界に集中しており、CDPのアンケート調査を見ると、従来型産業の回答率は低く、金融業に至っては1社しか回答していない。台湾の産業界全体における温室効果ガス排出削減の意識はまだまだ低いことがわかる。
「台湾では炭素税は実施されていませんし、温室効果ガス削減法も立法院で3年も棚上げされているため、EUのように総量規制ができないのです」と話すのは台北科技大学環境工学・管理研究所教授の胡憲倫だ。飴も鞭もなく、誘因も圧力もないまま、台湾の産業界は問題を先送りしているのである。
胡憲倫によると、総量規制が始まったら、産業界ではそれぞれの割当枠を交渉しなければならず、炭素税が課されれば自ずと「排出権取引」のメカニズムが形成されるという。
1997年の京都議定書により、各国は2012年までの削減目標を定めた。イギリスやドイツでは2005年に前倒しで目標を達成した後、新たな目標を定めて努力を続けている。政府が先頭に立って推進することで、新たな技術や代替エネルギーが多数開発され、それらが今では他国にはない強い競争力となっているのである。
低炭素経済が本格化する中、台湾の政府と企業はそのリスクとチャンスを直視し、自社と台湾のさらなるピークを目指して努力しなければならない。