結婚のため外国から台湾へとやってきた人の故郷は遠く、娘を嫁がせた母が孫の顔を見たり、何か手助けをするのも容易ではない。
だが、彼らにも一般の台湾人家庭と同じように夫婦それぞれの家族からサポートを得てほしいと、活動する人々がいる。2011年、誠致教育基金会の方新舟・董事長は、当時『四方報』を創刊していた張正さんと、『立報』の副編集長であった廖雲章さんに声をかけ、東南アジアの彼らの故郷と台湾とをつなぐプロジェクト「おばあさんちへの橋」(外婆橋計画)を立ち上げた。東南アジア出身者とその子供が夏休みを利用して実家に滞在し、子供の学校の教師もそれに同行してもらおうというもので、費用を全額支援する。教師の同行は、異文化体験を帰国後、授業や学級運営に生かしてもらおうというねらいがある。
旅に加わるのは、台湾に嫁いだ女性とその子供、そして子供の小学校の先生で、3人それぞれに異なる役割が期待されている。故郷の親族に会うだけでなく、母親は祖国の文化を紹介する「文化大使」を務め、子供は祖母の家の家族とふれあいながら母の祖国の文化を理解し、台湾人教師は母親から現地文化を学びながら、母親が台湾に来たばかりの頃の適応の難しさを身をもって体験する。こうした役割の転換によって、教師は子供の立場から教育を見つめ直せるようになる。
願ってもないプロジェクトのようだが、実現は往々にして困難を伴う。台湾の家族の反対もあれば、夏休みに時間を割いてもいいという教師がいなかったりする。だがそうした困難を乗り越え、2015年にはプロジェクトも第5回を迎えた。エバー航空、富邦慈善基金会といった企業・団体からの支援も得られ、ベトナムやタイ、フィリピン、ミャンマーなどへの旅が実現した。
「おばあさんちへの橋」では帰国後、参加者にドキュメンタリー・ビデオを完成してもらい、教師にも「多文化学習指導案」を作成してもらって、それらの発表会を開いてきた。発表会はこれまで5回とも盛況で、笑いと涙に包まれ、活動への賛同を広く集めた。2013年にベトナムを訪れた蔡恵婷先生は、活動の語り部になろうと決心し、2013TEDxYouth@Taipeiで経験を語った。蔡先生とともにベトナムに帰省した阿然お母さんは、台湾で飲食店を開いているが、店内に東南アジアの書籍を並べ、「東南アジア書店大連盟」の一員に加わった。2014年にタイ北部に赴いた二人の先生のうち、鄭綺瑳先生は帰国後、同プロジェクトの理念に基づいた「嘉義県外婆橋教育関懐協会」を立ち上げ、林錦玲先生は自分の息子を連れてベトナムに赴き、現地で教師生活を始めた。
東南アジアを訪れ、その文化や家庭を深く知る旅によって、台湾の各地にどのような種がまかれ、成長していくことだろう。同行した教師は、かつてない経験によって得たものを今後の教育にどう生かしていくだろう。『光華』では、感動にあふれたこれらの旅がいかに始まり、いかに発展していくかを追ってみた。
2013年、第3回「おばあさんちへの橋」の体験を語る発表会。下の写真はベトナムへの帰省を果たした陳星儒さん。
(左上)2015年の台5回「おばあさんちへの橋」の発表会の様子。
(上)誠致教育基金会の方新舟・董事長は「おばあさんちへの橋」プロジェクトの重要な推進者である。