解決方法:北海や他国の経験に学ぶ
各界が関心を注ぐ東シナ海の資源に関し、馬英九総統はフォーラムの祝辞において、欧州の「北海の判例」に学ぶことができると建言した。
1960~70年代、欧州北部の北海でも原油の埋蔵が確認され、隣国間で論争が生じた。意見の衝突を避けるため、当時の西ドイツとイギリスとノルウェーは海域境界線の論争をオランダのハーグにある国際司法裁判所に提出し、1969年に判決によって明確な境界画定原則が示されたのである。
これ以降、北海沿岸各国はそれぞれの経済水域に関する主張をやめ、共同開発と資源共有の道を歩むこととなった。現在、北海は世界的に重要な油田の一つとなり、ブレント原油というブランドで取引され、原油価格の重要な指標とされている。
「欧州で平和的に解決できたのだから、アジアもこれに学ぶべきである」と馬総統は語った。
フォーラムに出席したニュージーランド・オークランド大学政治学科のジョン・ホードレイ准教授は馬総統の考えに賛同し、さらに次のように指摘した。上述の北海の判例の他に、ベトナムとマレーシアの間でも原油資源を巡る論争があり、両国はその交渉を国営石油会社に託した。双方とも政治的色彩が薄いため、複雑な主権に関する主張には触れず、実質的な開発利益と資源分配について議論することができ、わずか4年で合意に達したのである。「政府が表に立たず、企業同士の交渉で論争を解決する方法は参考になる」とホードレイ准教授は言う。
平和の精神
石油や天然ガスの他に東シナ海は漁業資源も豊富で、この海域は昔から我が国の漁業者にとって重要な漁場である。これについては台湾大学などの研究機関が完全な資料を整理している。
だが、排他的経済水域が重複しているため、漁船の越境操業がしばしば問題となり、漁業者も安心して操業できなかった。この漁業権を明確にするため、我が国は日本との間で16回にわたる漁業協議を行なってきたが、具体的な成果は出ていなかった。
それが昨年11月、台湾と日本は領土や海域に関する主張を棚上げして第17回漁業協議を行ない、今年の4月に「漁業協定」が交わされ、40年に渡る争議が解決したのである。
これにより、両国の漁船は台湾の約2倍の面積の海域で相手国の法の拘束を受けることなく操業できることとなった。その一方で双方の「国連海洋法条約」における主張が損なわれることはない。協定には免責条項が盛り込まれ、双方の主権および海域の主張を損なうものではないとしている。これは東シナ海の漁業秩序の確立に有効であり、台湾と日本との関係に歴史的一歩を記すものとなった。
また、我が国とフィリピンとの間で進められている漁業協議について、馬総統は次のように説明した。今年6月、我が国はフィリピンと第一回事前協議を行ない、「法執行において武力と暴力を行使しないこと」「漁船と公船の間で争議が生じた時には直ちに相手側に通知すること」などで合意に達した。将来的に、台比海域において漁船が銃撃されるような不幸は二度と生じないであろう。
ピースメーカーとして
馬総統は日本と漁業協定が締結できたことを基礎に、東シナ海諸国は「三組の二者間対話」から始めるべきだと述べた。つまり、台湾と日本、台湾と中国大陸、中国大陸と日本がそれぞれ対話を通して信頼関係を築き、それから「一組の三者協議」へ進むということで、多くの学者がこれに賛同した。
リチャード・ブッシュ元米国在台協会(AIT)理事長(現在はブルッキングス研究所北東アジア政策研究所長)は、馬総統の「東シナ海平和イニシアチブ」は平和的に意見の相違を解決する決意を示すものであり、しかも釣魚台列島における我が国の領土主張も堅持しており、地域の緊張を緩和する良好な対話のプラットフォームとなると述べた。
ブッシュ元理事長は、米国は東シナ海問題には立場を表明しておらず、イニシアチブに対して具体的な評論もしないとしつつ、米国は地域の緊張を緩和させる手段は歓迎すると述べた。台湾と日本が漁業協定を締結できたことも、地域の安定に大きな手本を示すものである。
馬総統は、東シナ海平和イニシアチブは「東シナ海」と銘打っているが、他の地域にも適用できると述べた。実際、南シナ海情勢は東シナ海より複雑であり、我が国は今後、平和イニシアチブの精神と方法を南シナ海へも展開していく可能性がある。
国際法は19世紀にアジアに伝わり、少しずつ受け入れられてきた。両岸関係の緩和に続き、台湾は隣国との資源共有や海域の安全、海難救助、海賊対策などの協力関係を強化し、東シナ海と南シナ海を「平和と協力の海域」にしていく。