リスクを極小化、チャンスを極大化
台湾の経営者は非常に現実的で、イデオロギーは論じず、臨機応変に動きます。例えば、選挙中に私は彰化にある靴下メーカー華貴牌を訪れましたが、経営者から、韓国はアメリカとFTAが結べるのに、なぜ私たちにはできないのか、と聞かれ、また従来型産業はこのままではダメだと言われました。その当時の経済部は、韓国とアメリカのFTA締結による台湾の損失は21の従来型産業だけだから心配ない、と言っていましたが、華貴牌はその従来型産業です。官僚は、ハイテク産業は影響を受けないと気楽に構えていましたが、従来型産業はどうすればいいのでしょう。私たちの製品に課される関税が他国より高ければ大変なことになります。これこそ政府が解決しなければならない課題です。私たちは企業に良好な貿易環境を提供し、安心して創意と競争力を発揮してもらう責任があります。ですからイデオロギーだけを見るのではなく、現実に則して行動します。大陸との協定調印は主権と国威を失うに等しいと言って何もしなければ、坐して死を待つだけです。
民進党は、台湾経済が過度に大陸に依存することを心配しますが、売買は双方の合意によるのですから、互いが依存し合っているのです。こうした状況で最も重要なのは、双方に有利な基礎を見出し、その上に制度化された関係を築くことです。大陸は台湾のリスクであり、チャンスでもあります。政府が成すべきなのは、リスクを極小化しチャンスを極大化することであって、リスクを恐れるあまりチャンスまで放棄してしまうことではありません。
Q:ECFAは双方に有利でなければならないとのことですが、私たちにとって圧力となる項目は出されるでしょうか。
A:まだ分かりません。こちらが求めるものは分かっていますが、向こうからも当然、違う要求が出るでしょう。ただ、こちらが求める石化産業の関税などについては相手も同意するはずです。なぜでしょうか。大陸に投資している台湾企業は少なくても7万社、10万社を超えるかも知れません。資訊工業策進会の試算では、大陸の情報通信産業の6〜7割は台湾企業です。これらの企業は台湾から原料や半製品を輸入しているので、大陸が私たちを助ければ、大陸の台湾企業を助けることになります。これらの半製品は、通常大陸で加工されてアメリカに輸出されます。将来的には、大陸の内需市場も開いていきたいと考えています。
Q:両岸共同市場は「一つの中国市場」という汚名を着せられたとおっしゃいましたが、今の状況はいかがでしょう。
A:現在大陸と締結したいのは経済貿易枠組協定だけで、まだ共同市場とは程遠いので、批判も早すぎます。
現代において、最も成功している共同市場はもちろんEUですが、EUはもとは6ヶ国による欧州石炭鉄鋼共同体で、1957年のローマ条約締結時にEEC欧州経済共同体が発足しました。EECは関税同盟で、会員国間に関税はなく、それ以外の国に対しては共通の関税政策を採るというもので、対内的、対外的に一致した立場を採るというものです。その後、1993年にマーストリヒト条約によって通貨同盟が展開されました。今は共通の憲法制定による政治同盟へと向かっていますが、これはまだ成功していません。同質性の高い欧州諸国でも半世紀以上かけても完全な統合はできないのですから、これは容易なことではありません。
ですから、民進党は「すぐに」「一つの中国市場」になると言いますが、まったく正しくありません。また、大陸の労働者が台湾に来るなどと言いますが、欧州では1957年に共同市場が発足してから20数年後の1980年代になっても、労働者の流動を認めたのは一部の国に過ぎません。労働問題は最も敏感で、各国ともに開放しない権利を保留しています。この点は二国間協議の精神に従っており、強制はできません。これらはすべて常識であるにも関わらず、台湾ではしばしば事実がゆがめられ、道理が通じません。
国際社会で歓迎される台湾に
Q:5月にWHO総会が開かれます。内外では、台湾がオブザーバーとして参加できるかどうかが、馬政権の外交および両岸政策の成否の指標となると見ていますが、いかがでしょう。
A:WHOは多国間組織ですから、もちろん観察の指標になりますが、唯一の指標ではありません。2008年にペルーで開かれたAPECには、国民党の栄誉主席である連戦・前副総統に、国家政策研究基金会理事長の名義で出席していただきました。これは過去にはできなかったことで、大きな突破です。
もう一つ、6年の努力を経て2008年12月にはWTOの同意を得、GPA(政府調達協定)に加盟しました。これについては一般国民からは特に反響はありませんが、アメリカや欧州の商工会議所は非常に喜び、台湾で比較的公平な待遇が受けられるので、台湾に進出しようと考えています。では、政府の公共建設の受注が外国企業に奪われてしまうのでしょうか。通常こうした建設関係の契約では、外国企業は現地のパートナーを探すので、この機会を借りて国内の公共建設水準を高めることができます。最も重要なのは、GPA締結国は20余りの富裕国で、ここに我々が加入したことで、台湾企業も外国の入札に加われるようになる点です。これも大きな突破と言えます。
さらに昨年10月初旬には、当時のブッシュ大統領が台湾への65億米ドル相当の兵器売却を発表し、台米関係が非常に安定していることを示しました。しかしその同じ日に、野党陣営のある戦略専門家はメディアに投稿し、馬政権の両岸政策は台米の相互信頼に問題を起こし、対台兵器売却はすでに凍結された、と述べました。こうした根拠のない憶測は本当に困ります。ですから、AIT米国在台協会のバッガード理事長は、来訪して私と会談した後、マスコミに5分間残るよう希望し、わざわざ談話を発表されました。米国は両岸関係の改善に温もりと高い敬意を感じており(warm feeling and high regards)、台湾が過度に親中に傾くことを憂慮するなどとは決して言っていない、とマスコミの前で語ったのです。
考えてみてください。現在、朝鮮半島は多くの問題を抱えており、台湾海峡は穏やかです。アメリカや日本はどちらを好むでしょうか。一年前を思い起こすと、総統選挙は「国連復帰」と「国連加盟」の二つの公民投票と一緒に行われ、対岸は手ぐすねをひいて待ち、アメリカは緊張していました。これではいけません。「平和」は国際社会の核心ですから、我々も世界の主流の路線を行かなければなりません。平和と繁栄、すべてはこの核心を掌握することに帰するのです。こうした発展は皆にとって有利なので、現在、国際社会では台湾を批判する人がいないばかりか、遠い北欧の国も私たちを称賛しています。私たちの一連の方法によって、台湾は国際社会から一層歓迎されるようになり、世界は台湾を良い手本と見なしているのです。
Q:多くの実績をお話しいただきましたが、満足のいかない点はありますか。
A:あります。世界的な金融危機に遭い、政見の「633」の実現は困難です。これは誰も予測しなかったことです。ただ「12大建設」は予定通り進めていきます。これらはインフラなので、不況時に建設しておけば景気が回復した時に追い風に乗れます。故蒋経国総統もこれをやりました。当時物価が急騰し、ガソリン価格が1リットル3元だったのが13元に上がる中で「十大建設」を加速させ、国民所得はすぐに何倍にも跳ね上がりました。桃園エアシティ計画なども大きなビジネスチャンスが期待できるので、この時期、目の前のことだけでなく数年後を見なければなりません。
今年は経済振興と失業救済のために約6000億を投じましたが、唯一の心配は実施率です。公務員が実施できる予算は限られているので、しっかり計画する必要があります。この6000億が実施されれば、良い成果が上がると考えています。