街屋100計画
絵を仕事にする考えはなかったが、鄭開翔がSNSに自分の絵をアップすると、遠流出版社から声がかかり、台湾中を回って町の風景を描く「街屋100計画」を始めることになった。
彼が特に目を注いだのは、看板、トタン小屋、商店、模様タイル、窓の飾り格子など古い街並み特有の風景だった。
「手書きの看板は、字が少々つたなくても味があります」と彼は言う。屏東では、ちょっと想像をたくましくさせるような看板もあった。「きれいな看護師の店」と書かれているのだ。店をのぞくと看護師用の衣類を売る店だった。
その地方特有の光景も彼は特に留意して絵に入れた。例えば、台湾の看板は道路側に突き出して取り付けたものが多いが、澎湖では壁に貼り付けてある。これは澎湖では10月から3月に強い季節風が吹くからだ。また多雨の基隆では、多くのバイクにフロントグラスがつけられている。
古都であることを誇りにする台南よりも、彼はむしろ嘉義の落ち着いたたたずまいが好きだ。町のあちこちに味わい深い古い建物が残る。例えば蘭井街には板張りの壁の建物がまだ多くあり、嘉義が「木の都」である歴史が感じられる。
70年以上の歴史を持ち、阿里山林業の盛衰を見つめてきた玉山旅社は、2022年3月に火災で焼け落ちてしまった。鄭開翔の記憶では、旅社の横には街路樹の美しい通りがあり、その緑が建物を美しく飾っていた。彼は玉山旅社の絵を描き、旅社を借りて経営していた余国信に贈り、苦難に見舞われた経営者を感動させた。
鄭開翔が感激するのは、現場でスケッチをしていると、しばしば店の人が出て来て椅子を貸してくれたり、飲み物をくれたりすることだ。時には建物にまつわる話を聞かせてくれたりもして、台湾人の温かさをここでも感じる。
鄭開翔が描いた、基隆で70年以上の歴史を持つ食堂--珈哩魚丸麺とその料理。(林格立撮影)