台湾美術史に欠けたピース
「私としては、これらの文化財(彩色の門神)を正々堂々と美術館の中に掲げたいのです」と蔡舜任は話す。
蔡舜任は留学から帰国し、初めて伝統的な門神の修復を手掛けた。お香に燻された表層を丁寧に剥がし、絵師の筆の生き生きしたタッチを目にすることとなった。その芸術的表現も廟のものだからと、長い間軽んじられ、芸術的価値を認められることはなかった。
長年にわたり固有の文化への認識が足りず、台湾美術史は今も価値評価の基準があいまいで、芸術的価値評価は専門家の手に握られている。しかし理論的な基礎を欠いているので、寺廟における作品のどれが真の芸術品なのかを判断できないのである。
しかし「芸術品として修復すれば、それが芸術品であると証明する論点の一つとなるかもしれません」と蔡舜任は言う。
文化財の価値を証明するには時間がかかるが、修復家にできることは、危機に瀕している文化財を時間の流れから取り返し、当初の姿に修復することである。蔡舜任とTSJチームは所有者の支持の下に、一点一点修復を続け、今後20年にわたって文化財を保護して、次の世代に優れた絵師の作品を残し、台湾独特の寺廟芸術を認知してほしいと考えている。さもなければ、文化財を劣化に任せて悔いを残すことになる。
「できれば、台湾の子供たちが自信をもって、一番好きな台湾芸術家の名を言えるようになってほしいのです」と、蔡舜任はその願いを語る。ヨーロッパに行けば誰でも答えられる質問なのに、台湾では芸術教育を欠いているため、答えが出てこないのである。
2018年に蔡舜任は台北万華龍山寺の依頼を受けて、三川殿の門神絵画を修復した。万華龍山寺は去年になってようやく「国定史跡」に指定され、台湾を訪れる外国人観光客が必ず訪れる場所となっている。
三川殿の門神は大家・陳寿آUにより1966年に制作され、六柱の門神はすでに60年近く寺を守ってきたことになる。だが、湿気を受け、西日に晒され、お香に燻され、損壊の程度はそれぞれである。今回、政府文化部は一般に修復工事の工程を理解してもらおうと、龍山文創パークに修復センターを設立し、ガラス越しに修復技術士の修復の状況を見学できるようにした。
台北は繁華の地で、人の往来も盛んなのだが、TSJチームが常駐する修復センターでは、静かに頭を下げ、腰を曲げて、ライトの下の手元の作業に集中し、時間との対話を続ける。
時間による洗礼は文化財の価値となる。彼らは青春をもって文化財の寿命と交換し、時間との果て無い綱引きを続けている。彼らは時間を遡る修復家なのである。
作業に神経を集中する。文化財修復が処理するのは時間の流れである。
作業に神経を集中する。文化財修復が処理するのは時間の流れである。
蔡舜任は文化財修復に高い標準を打ち立てた。(荘坤儒撮影)
作業に神経を集中する。文化財修復が処理するのは時間の流れである。
彼らは青春をかけて時の流れと闘い、文物の寿命を延ばす。