裏通りの隠れ家的ボードゲーム店に入ると、数人がカードを手に、誰が一番速く目の前の謎をとけるかに神経を集中している。別のテーブルを見ると、手中のカードは西洋中世の人物であり、プレイヤーは戦略を立てて勝つための最良の選択を考えている。
「バーチャルゲームとの最大の違いは、テーブルのプレイヤーが互いに悔しがったり大笑いしたりする様子を目にできることです」と、艾克米卓上遊戯世界の李明徳店長は話す。ボードゲームの熱気と面と向き合う臨場感はオンラインゲームでは得られないもので、それが多くのプレイヤーを惹きつける理由なのである。
ドイツを起源とするボードゲームは、2000年頃に少数の愛好家が持ち込み、台湾でもようやくブームとなりつつある。2000年のオープンから15年になる艾克米卓上遊戯世界は、その紹介者でありゲーム業界の長老格である。李店長によると、当初のゲームは輸入ものが多く、業者が導入に熱心ではなく、しかも解説は英語と言うことで、ボードゲームを知る人は少なかった。
それが愛好家の紹介もあって次第に広まり、2010年頃から流行に火が付き、業者の参入が相次いだ。中でも「妙語読書人」は年齢別に簡単に遊べるボードゲームを数多く発売し、さらにブームを後押しした。ゲーム産業の川上にはデザインチームが出現し、ベテランのプレイヤーはゲーム製品を輸入したり、気軽に遊べるゲームの場を提供するようになった。こうしてプレイヤーは80から100元を払えば、ゲーム店で様々なゲームを楽しめるようになった。
台湾ボードゲーム産業の始まり
ボードゲームが人気となると、台湾のゲーム業者も単独あるいは出版社と共同企画で様々なボードゲームを発売するようになった。創業30年で台湾版のモノポリーを生産する亜湾文具社は、2008年に2 Plus卓上遊戯出版社を設立し、台湾のボードゲームブランドを確立した。
2 Plusは設立から7年余りで19種のゲームを発売してきたが、文化歴史をテーマとした「辛亥革命」「中原大戦」「走過台湾」などのシリーズは独自のジャンルを形成している。
2 Plus社の龔義詔編集長によると、歴史をテーマに選択したのは、亜湾文具社の二代目、2 Plus社プロダクトマネージャー王亜湾が台湾大学歴史学科出身の影響からだが、これは2 Plus設計チームの共通理念でもある。ボードゲームは楽しめると共に文化の担い手ともなるのである。
2 Plus社のゲームデザイナー李秉潔は、ボードゲームを第九芸術と定義する。第八芸術と言われる映画は、最初は大量の写真を急速に映写するだけのものであったが、表現方法や撮影方法が発達すると共に深く多様な文化的意義を備えるようになった。ボードゲームの発展も同じ道をたどっているのだという。
2008年に、2 Plus社は国史館と共同で最初のボードゲーム「十大建設」を開発し、歴史文化をテーマとしたゲーム路線に大きく貢献した。当時、設立間もない2 Plus社は、モノポリーシリーズの開発以外に、デザインの方向性を模索していた。一方で大量の史料を擁する国史館は、これまでのマグカップやDVDなどのグッズとは異なるグッズ開発として、楽しく学べるボードゲームを考えていたという。そこで業者選定で2 Plusが打ち勝ち、国史館と協力することになった。デザインの2 Plusと歴史の国士舘がそれぞれの得意ジャンルで開発した「十大建設」ゲームは、堅苦しく分かりにくいという歴史のイメージを変え、ゲームは大きな反響を呼んだ。
2011年には、1911年に起きた辛亥革命の決戦「陽夏戦役」をテーマに「辛亥革命」ゲームを開発した。国父孫文などの重要人物が独自の美術設計としっかりした歴史資料を基に、デザイナーの手によりゲームに再現された。
ゲームの臨場感を高め、本物らしくというのがデザインのポイントとなった。ゲームアイテムの兵の駒には、当時の軍備を研究して歩兵、騎兵と装甲車を用意し、プレイヤーは軍を指揮する楽しみを味わえる。その後2010年発売の「中原大戦」も、売上は好調だった。
国史館と共同で開発したボードゲーム4種で、2 Plus社は知名度を高め、開発チームもゲームにストーリー性を付与できることを知った。2014年には台湾科技大学の侯恵澤准教授が率いるミニゲームチームと共に、歴史の場を台湾に移して「走過台湾」のボードゲームを開発した。
ゲームは1624年にオランダ人が台湾に上陸してから400年間の台湾の歴史を背景に、オランダ・スペイン抗争時代、鄭氏時代など7期の歴史時代に分けて、遊びながら台湾の歴史を知ることができる。去年12月にこのゲームが発売されると、3カ月足らずで初版6000セットを売切り、再版に至った。この好調な販売について、龔義詔は近年の台湾における台湾意識高揚と、台湾の文化歴史への関心が関係すると考えている。これも2 Plusがゲーム設計に設定した目標の一つである。
ゲームを通して歴史文化を紹介するという理念は盛り込まれているが、ボードゲームは楽しく面白くなければならない。そこで2 Plusでは歴史を取り入れたボードゲームだけではなく、誰でも簡単に遊べて、大人も子供も楽しめる製品を開発してきた。2013年に発売された「実話実説」も同社の人気ゲームである。
シンプルで分かり易いルールのこのゲームは、「自信」「機敏」や「ベテラン」などと書かれたカードからプレイヤーが相手の特質を表す記述を選ぶ。互いに何を選んだか知らない中で、自分のカードを誰が選んだのかを当てる。
カードの記述にも工夫が凝らされ、カードによる自身への評価に笑ったり、弁解に走ったり、友人の誰がそんな評価を下したのかと疑心暗鬼で探りながら楽しめる心理ゲームである。
単なるゲーム以上のゲーム
友だち同士で遊んでいたこのゲームを人事管理や心理カウンセリングに持ち込むと、別の機能を発揮する。一部の会社経営者はこのゲームを利用して社員の長所短所の理解に役立てているし、カウンセラーはゲームを使って、気楽な雰囲気で相談者の気持ちをほぐし、相談者が自己を知り問題を認識するのに役立てるという。
ベテラン・プレイヤーの龔義詔にとって、ボードゲームは単なる娯楽以上に教育や探求の意義を備えている。1997年にボードゲームを始めた時は人とのやり取りに惹きつけられたが、その後、多くのゲームを開発するようになった。
「実話実説」については、ゲーム開発者の個性が強く出たものではないが、現実社会での関係性が深く、問題解決に役立つと彼は話す。その考え方は、アメリカのゲーム開発者のジェーン・マクゴニガルが、非営利団体TEDで行った「ゲームで築くよりよい世界」の講演の理念と期せずして一致する。
台湾のボードゲーム産業は、10数年前からの萌芽期を過ぎて、発展の進度や市場規模は欧米諸国の成熟には及ばないものの、ボードゲームの出版社やショップが相次いで出現し、川上から川下までの産業チェーンが繋がり、ボードゲーム講師といった専門職まで生まれている。
世界最大のボードゲームのデータベースBGGの統計によると、世界では毎年1000種近いボードゲームが発売されている。そこでボードゲーム講師の役割と言うと、プレイヤーに向いたゲームを探し出して、ボードゲームの新しい市場を開拓するところにある。2 Plus社の実話実説ゲームは、ゲームボード講師劉力君の紹介があって、カウンセリングに運用されるようになった。
ゲームは、バーチャルなネット世界で見知らぬ人とコミュニケーションをとる遊びではなくなった。お互いに大喜びしたり悔しがったりするリアルな表情を見ながら、笑い声が響くボードゲームなら、人々は孤独ではなくなる。