行動計画1：廃墟の占領

グラフィティはゲリラ的に空間を占領する行動だが、疲れたら休む場所も必要だ。Bbrotherは創作に関わる若者と、廃墟になった公営宿舎を探し始めた。彼らはこれを「進駐」と呼ぶ。忘れ去られた都市の廃墟は、若者が進駐した後、短いながら新しい命を持つ。だが廃墟もグラフィティと同じく、公的権力で消失し、美しくも一瞬の存在となる運命にある。

今年1月、Bbrotherが台湾大学の公館近くのパリ公社という店で酔い、店の外に落書きしようとした時のことだ。怒った店主は彼を近くの荒れ果てた官営宿舎に連れて行き「描きたいならここでやれ」と言った。そこで彼はこの日、宿舎を占領して創作することにし「廃墟占領計画」を始めたのだ。

廃墟は、見捨てられ、まもなく朽ち果てて消失する空間だ。彼らは廃墟を行動の場と位置づけ、占領後は自由に使うことにした。部屋全体に思い切り落書きしたり、古本の交換、映画鑑賞会の開催、喫茶店経営、バンドの練習、さらに芸術祭も行われた。

ここ数年、行政も跡地スペースの再利用を推進しているが、Bbrotherの廃墟計画も捨てられた空間の再利用だ。ただ彼らは自発的な創意を通して、体制外からの力を示すことで、この芸術的な占領行動を行っているのだ。

退廃的な雰囲気のある廃墟は、社会秩序から逃避できる理想郷でもある。

計画参加者の多くは、創作活動をしてきた学生だ。彼らは廃墟をまず簡単に掃除し、生活や創作に必要な発電機、電灯、鍵、コンポなどを持ち込む。そして仕事部屋のような秘密基地に改造していくのだ。

参加者はこの空間を「公社」のような互助的な場にしたいが、みんな自分の家があり、24時間常駐することはできない。実際に廃墟に住むのはホームレスだ。彼らと若者は廃墟の中で別々に過ごし、協力関係はない。「たまに仲良くなって、食事代を貸すことがあるくらいです」とBbrotherは言う。

若者は廃墟の中で日常と違う状況を味わうが、そこで長期間は暮らせない。盗難もよくあるし、巡回に来る警察にも追い出される。そうして廃墟は次第に元の状態に戻っていく。現在占領中の廃墟は2つしか残っておらず、これも荒廃しつつある。

グラフィティが最後は消されるように、Bbrotherは廃墟占領当初からこの行動も結局はユートピアの実現にはならないと考えていた。芸術行動としての廃墟占領は彼らが日常の秩序から逃れる限界を試すことだった。「失敗も貴重な経験です」と彼は言う。

下は車が行き交う大通りだが、陸橋の上では物々交換が盛り上がる。

廃墟占領が都市空間の再考なら、Bbrotherのもう1つの行動「物々交換マーケット」は、資本主義の貨幣経済への挑戦だ。台湾では、若者が手作りの商品を売るフリーマーケットが流行っているが、Bbrotherは別の形で市場の概念を表現した。貨幣で価値は計れないと考えた彼は、金銭の使用を禁止した物々交換のマーケットを開いたのだ。

物々交換マーケットは、参加者が貨幣の存在を忘れ、労働か物品で必要なものを得る場だ。訪れた若者は、腕立て伏せと詩、古いCDと古本、背中のマッサージと火のついたバトンのショーなどを交換した。犬を連れてきた人もいる。これは犬をあげるのではなく、その場を30分散歩させるためだ。

労務と品物を交換することもできる。スケッチと犬の散歩、詩の朗読とマッサージ、写真と歌など、金銭以外なら何でも交換できる。

参加者の多くは理念に賛同した若者で、一般の参加は多くなかった。貨幣という媒介がなくなった瞬間、多くの人は突然どう取引をしていいかわからず、交換相手の物品が等価かどうか意見の食い違いもあった。なので取引の成立は少なく、多くの人は物珍しげに眺めるだけだった。Bbrotherは貨幣の概念に反対ではないが、「人間同士の交流が金銭のやりとり以外の方法でできるかやってみたかった」という。

このマーケットは公館近辺ですでに3回開催した。Bbrotherは公的空間の使用方法に新たな意味を加えるため、１回はわざわざ公館の水源市場の歩道橋の上で行った。この歩道橋は、MRTの地下道が開通し、車道にも横断歩道ができたので、使われなくなってしまったのだ。Bbrotherは、短い時間だが歩道橋を占領することで、忘れられていたこの歩道橋を思い出してもらいたかった。歩道橋は単に道を渡るための道具ではなく、人々が足を止め、参加する公的空間であるべきだと考えたからなのだ。

退廃的な雰囲気のある廃墟は、社会秩序から逃避できる理想郷でもある。

台北市公館の羅斯福路にかかる陸橋に、物々交換の市が立った。