枠の外の世界
「友柏は豪放飄逸な考えをする人です。歩けないなら、飛べばいいじゃないかと」とDEM戦略部長の莫乃健は言う。デザインやイメージ作りでは経験値が重んじられ、何が流行し、何が成功するかなど、ベテランは経験値に頼るが、彼はそれに挑戦する。
そのために壁にぶつかることもあり「友柏が高姿勢過ぎて仕事を取り損ねたこともあります」と莫乃健は言う。創業時からDEMに名を連ねた英国の著名デザイナー、マイケル・ヤングが辞めたのも、蒋友柏と意見が合わなかったからだと言われている。
だが「人は枠を飛び出して思考するべきです」と蒋友柏の考えは変わらない。「台湾も同じです。ODMやOEMにこだわり、他社より3%安くして受注しようとしますが、外国はすでにこうした枠を乗り越えています。ブランドを確立すれば10%の値上げも可能です。枠の中にいるというのは、現状に甘んじるということです」と言う。「私のこの反抗的な性格はアメリカで15年も教育を受けたからだと言う人がいますが、子供の頃からこういう性格でした」
反抗し、枠を打ち破るという性格に加え、何としても手に入れるという意志の強さが、会社に思わぬ収穫をもたらしてきた。去年のルノーF1チームのケースでは、ルノーは世界中のデザイン会社からロゴを募った。これを知った蒋友柏は、何としてもコンペに勝つと全社員に指示した。コンセプトでデザイナーを導く彼は、何日も不眠不休でブレーンストーミングを続け、中国の歴史にモチーフを見出した。
伝説の青龍、白虎、朱雀、玄武の四聖獣は、聖人や皇帝が出現する象徴とされる。こうして彼らが、朱雀をコンセプトに鳳凰をデザインした「ガーディアン・フェニックス」がコンペで選ばれたのである。
これによって会社は大いに名を上げたが、蒋友柏はまだ満足せず、ロゴの使用権獲得を目指した。指示を受けた莫乃健は、世界的大企業が応じてくれるわけはないと思ったが、蒋の強い要求でフランスとスイスを訪れたところ、ルノーもF1本部も使用権を認めてくれたのである。その後、DEMはこのロゴをリーバイスの限定版ジーンズに応用し、一つのデザインを二度使って大きな成果を上げた。