月曜日は好伴駐創の食事会の日である。この日、1階は無料で開放されて仕事や交流の場となり、昼は材料費さえ出せば、ここで一緒に食事をしながら友達を作ることができる。
仕事も食事も一緒に
この日は、第6期実習店長の劉乃華が調理を担当した。関廟麺、タマネギの卵炒め、インゲン豆の炒め物、蒸した臭豆腐、デザートにグアバと、あっさり味のメニューだ。
逢甲大学中文学科に在学中の劉乃華は、ソーシャル・イノベーションや社会的企業に興味があり、大学2年の時から好伴駐創に注目し、イベントに参加してきた。そして大学4年の下半期に好伴駐創の経営モデルをもっと知りたいと思い、実習店長に応募したのだと言う。
食事を共にするのは交流のためだ。
1988年生まれの鄭之皓が好伴駐創へ来たのは4回目、食事会に参加するのは2回目だ。彼は水波デザイン工作室を経営しており、商品開発、パッケージ、グラフィックデザインやサイトデザイン、マーケティングなどを行なっている。「自分の事務所だけにいると交友が限られるので、ここで多くの人と出会って情報交換しないと外部から閉ざされてしまいます」と言う。
妞妞小鋪の母娘3人は長期にわたって好伴駐創を利用している。母親の王国芳は、2014年11月に入居して以来、ここで多くの人に出会い、サポートしてもらってきたという。
もう一人の実習店長、洪佳宜は逢甲大学公共政策学科の学生だ。大学の企業講座で、好伴駐創を創設した張珮綺の講演を聞いたのがきっかけで、店長を務めることになった。
社会+経済=社会的企業
好伴駐創は台中市中区民族路、マカオの聖ポール天主堂跡(大三巴)に対して「台中の大三巴」と呼ばれる70年の歴史を持つ古い建物にある。
かつては弁護士事務所だったが、1999年の台湾大地震で通りに面した壁面以外は倒壊していた。その美しい壁面が気に入って家主と交渉し、壁面と吹き抜けを残して改築したのである。
好伴駐創にある奇妙な形の机にも物語がある。これは「台中テーブル」と呼ばれ、台中市の各区の形をした8つの机をそれぞれ分けて使うこともできれば、つなげると会議用の大きなテーブルになるというものだ。
2フロアにわたる空間の、2階は静かなワーキングスペースとして入居者に提供し、1階には厨房とテーブルがあって交流や会議に使われる。普通のオフィスとは違う空間を創り出していると店長の詹怡嘉は言う。
古い建物を再利用し、台中テーブルを配していることなどから、好伴駐創が「コミュニティ」を意識していることがうかがえる。二人の創設者、邱嘉縁と張珮綺はそれぞれ社会学と財政経済を専攻しており、その二人が組み合わさると、自ずと社会的企業に結びつく。
邱嘉縁と張珮綺は大学4年の時にソーシャル・イノベーションの授業で出会い、二人は一緒に期末レポートを完成させた。そのレポートを机上のままで終わらせたくないと考え、一年半をかけてそれを実践してきたのである。「台北と台中の各地で試みましたが、最終的に故郷の台中を選びました。好伴駐創を通して社会と仕事の理想を実践していきたいのです」と邱嘉縁は言う。
店長の詹怡嘉は邱嘉縁の高校の同級生で、最初は好伴駐創のボランティアだったが、今年初に教員の仕事を辞めて正式にメンバーに加わった。「自由に交流できる雰囲気が気に入っています。友人や、これから友人になる人ばかりで、皆の人生が私の人生観も変えてくれます」と言う。
好伴駐創の料金は月額3500元、6カ月以上の利用を申し込めば割引がある。10日間いつでも利用できる「ノマド」料金は1800元だ。
店長の詹怡嘉によると、月極めでの入居率はまだ3~4割で、入居申し込み期間は3~6カ月。ノマド方式の利用者は30数人である。台中は家賃が比較的安いので、コワーキングスペースの需要は台北ほど高くはない。
入居メンバー
詹怡嘉によると、当初はターゲットをソーシャル・イノベーションに取り組む若い世代に設定したが、台中では革新的な方法で社会問題を解決するという意識がまだ普及しておらず、概念の普及から取り組まなければならない。
利用者が多くはないので来る者は拒まない。カメラマン、イベントプランナー、デザイナー、ライターといった職業の人も利用している。現在の主な入居者は、レストラン用タブレットメニュー注文システムを開発するI CHEFのチームだ。
もう一人、特別なのは地元・緑川里の里長である薛雅文もここを利用していることだ。彼女はもともと音楽と絵画を専門とするアーティストで、ここで創作をするようになって中区の魅力を知り、地元の里長に立候補したのである。芸術を通して地域を変えたいと考えている。
昨年11月、薛雅文は里長に当選して好伴駐創に事務所を置くこととなり、隣の家を借りて音楽空間にした。「地域住民がここへ里長を訪ねてくるので好伴駐創が何をしているのか知られるようになり、コワーキングスペースと地域社会の結びつきが深まりました」と詹怡嘉は言う。
妞妞小鋪
「妞妞小鋪」も好伴駐創と価値をともにする起業チームである。
妞妞小鋪は王国芳が十代の二人の娘とともに好伴駐創に入居して創設した。二人の娘、馨儀と品潔はそれぞれ小学3年と4年の時にホームスクーリング(自宅学習)を申請して今日に至る。2011年に、家庭の事情があって母娘3人で事業を起こすことにした。
「ここは家のような温もりがあり、厨房も使えるので私たちに合っています」と王国芳は言う。毎朝7時半に家を出てバスと鉄道で1時間半かけて出勤し、夜7時まで好伴駐創で過ごす。「調理はできますが、宣伝や販売のことは分からないので、ここでいろいろと勉強できます」と言う。
今年4月、彼女たちは「六一膳房」というブランドを打ち立てて煮込みや煮豆など、ヘルシーな料理を販売し始めた。
「娘たちは最初は手伝いだけでしたが、今では私より上手に作れます」と王国芳は言う。豆腐の醤油煮は娘たちの得意料理だ。
営業を担当する姉の馨儀は、1階の厨房で調理しながら人々と交流している。「調理中に、作家の劉克襄先生が会議のためにいらしたので豆腐の煮物を食べていただいたら、おいしいと言ってくださり、私たちの物語をお話ししたら、妞妞小鋪のことを新聞や本の中でも紹介してくださったんです」と嬉しそうに話す。
旧市街地の再生
好伴駐創はコワーキングスペースであるだけでなく、地域、特に台中中区の旧市街地の再生とソーシャル・イノベーションに力を注いでいる。
詹怡嘉によると、中区は台中市で最も早くから発展した地域だが、近年は市政の中心が西屯区に移るとともにビジネスエリアも移り、旧市街地は衰退し始めた。人口は流出し、商店もシャッターを下ろしている。古い建築物「宮原眼科」の再利用は話題になったが、注目されているのはその一カ所だけで、地域全体の繁栄にはつながっていない。例えば、向かいにある20階建ての雑居ビル、千越ビルには4世帯しか入居していない。
では、どのように古い市街地を再生させるのか。好伴駐創では、社会学の知識と行動を活かして社会問題を解決するソーシャル・イノベーションを通して街を活性化させようとしている。
詹怡嘉はカンボジアの「鉄の魚」を例に説明する。貧しいカンボジアでは女性や子供の鉄欠乏性貧血が深刻なので、カナダの医師が調理の時に鍋に鉄の塊を入れるよう指導した。ところが、それを嫌がる人が多かったので、鉄の塊を地元で縁起が良いとされる魚の形にしてみたところ、多くの人がこれを使うようになり、住民の貧血が改善されたのである。
設立から一年、好伴駐創ではさまざまなイベントを企画して人々に旧市街地を紹介してきた。
「この地域には工芸職人が大勢いて、古い建築物も多く、台湾で初めて都市計画が実施されたエリアなのです」と詹怡嘉は言う。台中の当初の都市計画は日本の京都に倣ったもので、多くの川が流れていて、たくさんの橋があった。だが、こうした歴史や物語を台中市民の多くは知らない。
緑川マーケット
「旧市街地で30日暮らす」というイベントは、植栽や舞踊、映画館、フォーラム、写真展、読書会、緑川マーケットなど、旧市街地の独特の文化と価値を総合したものだ。中でも、旧市街地の老舗が出店する緑川マーケットはこれまでに3回行なっている。昨年の夏に初めて行った時は、出店数は8軒だけだったが、この春のマーケットには50店も出て大好評だった。
このほかに好伴駐創では不定期に「旧市街地小旅行」も行っている。旧市街地の「第一広場」には外国人移住労働者が多く暮らすエリアがあり、東南アジア出身の人々が経営する商店や食堂が集まっているが、一般の住民はなかなかそこへ行こうとしなかった。
「実はこの一帯は生命力に満ちたエリアなんです」と詹怡嘉は言う。そこで好伴駐創はフィールドワークを行なって商店を訪ね歩き、一本の散策コースを決めた。そして4月に「旧市街地小旅行――第一広場」というイベントを行ない、多くの人をここへ案内した。
起業への道のパートナー
コワーキングスペースには、それぞれに異なる雰囲気があり、好伴駐創の特色は地域社会とのつながりと、ソーシャル・イノベーションによるコミュニティワークである。
好伴駐創の入居者の中には、ソーシャル・イノベーションと関わる仕事をしている人は多くはないが、ここで働くことによって中区を深く知ることになり、中区のために何かしようという気持ちになる。以前に入居していたカメラマンは、中区の老職人を訪ね歩いて写真を撮影した。
以前入居していたニュージーランド出身のライターが提案した「素人舞台」という構想も実現した。5月から、毎週土曜日に「夢を語る」という舞台を設定している。テーマは自由で、マレーシアの民族の多様性を語ったり、若者のデザインチームが高雄の年越市のためにデザインしたブランドやパッケージを紹介したり、インドネシアの熱帯雨林保護のボランティアの経験を語ったりと、素人が自ら自分の夢を語り、多くの人が交流するというイベントだ。
台中市が青年のための起業プラットフォームを設けることになり、好伴駐創がこれを担当することになった。これからは急ピッチで準備を進め、ソフトとハードの資源を提供するとともに産業界とも連携していかなければならない。将来の好伴駐創は、暖かく自由なコワーキングスペースであるだけでなく、さまざまな分野のプロフェッショナルと資源が集まる場となり、多くの人の起業への道のパートナーとなることだろう。
毎週月曜日は好伴駐創の食事会の日。この日はスペースを開放し、誰でも参加して交流することができる。
台中市中区の古い建物に入居した好伴駐創は、旧市街地の再生とソーシャル・イノベーションを目指して地域に根を張っている。
好きな場所を選んで座り、自分の飲み物を入れる。このコワーキングスペースでは静か仕事ができ、互いに交流することもできる。
台中各区の形状をした「台中テーブル」は地域の特色を備えており、利用者は自由に組み合わせて使うことができる。
王国芳は二人の娘、薫儀(中央)と品潔(右)を連れて好伴駐創に入居し、妞妞小鋪を設立した。多くの人に支えられてやってこられたことに感謝している。