リサイクル産業バリューチェーン
「海洋廃棄物のリサイクルには3つの難題がある」と張局長は指摘する。牡蠣養殖廃ロープと漁網のリサイクルを例に、まず、漁業者の意識をどのように向上させるか、次に、回収物の仮置き場をどのように確保するか、最後に最も重要な点として、どのように最終処分を行うか、という3つの課題が挙げられた。
2020年には海保署が「海へ敬意を―海岸清潔維持計画」を実施、海洋廃棄物リサイクル産業チェーンを統合し、19の臨海地域の自治体に海洋廃棄物除去のための補助金を交付した。台湾海域の海洋廃棄物除去とリサイクルの外部委託、海洋清掃大連盟を設立したほか、環境保護に取り組む漁民チームや市民ダイバー募集といった海岸清掃参加の呼びかけをするなど、海洋廃棄物や漂流ゴミ除去の支援をしている。
嘉義県政府の取組みはどうか。東石漁港と布袋漁港では廃漁網と牡蠣ロープ回収場が設置され、漁民のリサイクル意欲を高めるため、廃ロープは1キロ15元の高値で買い取られる。また、リサイクル業者に委託して、分類、不純物の除去がおこなわれ、最終的に台化に提供される。
張局長は、海洋廃棄物リサイクルの最終段階として処分の道筋が必要であると指摘し、高品質の製品が創りだせれば、リサイクルのインセンティブが高まるとする。例えば、スウェーデンのブランド「FJALL RAVEN(フェールラーベン)」のバックパックは、原材料のひとつに牡蠣養殖廃ロープをプラスチックに戻した原料を使用している。このように高品質製品に再利用すると、養殖ロープとしてリサイクルした場合の100~200倍の価値が付くという。張局長はスウェーデン訪問の際に、そのバックパックをお土産に持っていった。贈る相手に「廃ロープでできているんですよ」と伝えると、不思議がられたという。
2021年、海保署はリサイクル業者、ブランド企業、デザイン企業、金融機関、研究機関に呼びかけ、海洋廃棄物のリサイクル商品の研究開発を目的とする「海洋廃棄物再生連盟」を設立した。これまでに49の企業が参加している。
昨年、海保署主催の海洋廃棄物再生連盟の年会では、海洋廃棄物商業化の成果が発表された。産業界で採用された廃漁網リサイクルの製品には、メガネフレーム、台湾の繊維製品の安全標準・CNS15290に合格した肌触りの良いベビー用タオル、シャンプーボトル、オフィスチェアのキャスターなどがある。
また、熱で軟化し冷却で固まる熱可塑性樹脂の再利用を手掛ける台捷精密股份有限公司(以下、「TjG」)は、主に廃漁具のブイ、浮き、発泡スチロールPS・HIPSなどをリサイクルし、他の材料と一緒に改質して複合材料とし、工業用パレット、陳列棚、学校用机・椅子、キャビネット、あずまや、小屋、置物カゴ、小型スツール、スマホスタンドなどを生産している。
TjGの劉興朋董事長は、「海外からのお客様の多くは、リサイクル熱可塑性樹脂に木材や板材の質感があるとは想像もつかないようです」と語る。
TjGは、インドネシア政府推進の東南アジア初の主要都市でのネットゼロ・グリーンシティ建設プロジェクトにも招かれ、熱可塑性樹脂の処分、生産拠点の設備計画、技術者育成を主導している。
海保署の黄尚文署長によると、廃漁網に経済的価値が付与されてから、漁業者や企業が率先してリサイクルをするようになったという。東南アジア諸国の多くは廃漁網の処理問題を抱えている。台湾企業には廃漁網処分技術があるため、将来的には国境を越えた協力により、持続可能性と環境保護の問題解決ができると期待されている。
廃棄された牡蠣の殻も循環経済に組み込むことで、建材、サンダル、ファブリックなどにリサイクルできる。(撮影:荘坤儒)