従来型産業の転身
デザイナーが作った市販のマスキングテープの他に、消費者も自分のオリジナルのテープを注文することもできる。
印傻子(InkFool)というのは艾斯卡国際股份有限公司傘下のブランドで、消費者にオーダーメイドの印刷サービスを提供しており、消費者は自分のイラストなどを印刷したマスキングテープを作ることができる。ブランド名は日本語の「印刷」の当て字で、会社と日本のつながりを表現するほか、消費者の注文を受けて印刷するというサービスもイメージしやすい。
艾斯卡は政府財政部の委託を受けて統一発票(領収証)を印刷しており、偽造防止印刷を得意とする。しかし、政府はデジタル発票を推進しており、従来の発票の需要は減り、会社として新たな事業を開拓する必要に迫られていた。同社デジタル印刷部商品設計ディレクターの陳志豪はこう話す。ある日、社長からmtのマスキングテープを渡され、どうやって作るのか、この小さなテープがなぜ従来のテープの10倍以上の値で売れるのか、研究するように言われた。
陳志豪によると、マスキングテープは粘着性の面で他のテープとはまったく異なる。何度も貼り直しができ、剥がしても糊が残らず、紙の表面を傷つけず、貼り直しても平らでなければならない。しかも、当時台湾の消費者は日本のmtの高品質のテープになれていたので、同じレベルの品質に達しなければ相手にならない。そこで印傻子は紙、印刷、糊など一つ一つを徹底的に研究し、試行錯誤を繰り返しながらノウハウを蓄積していったのである。
印傻子が最初に打ち出したのは、オーロラ、タトゥー、刺繍、版画、油絵、パズルなどを素材とした柄で、1ロット200巻の限定販売にしたところ、またたくまに完売した。注目したいのは統一発票柄のマスキングテープだ。発票印刷は同社の本業なので、これをデザイナーがアレンジしたところ、5日で1500巻が売り切れた。
こうして消費者からの信頼を得た印٦ج子は2014年6月からオーダーメイドサービスを開始した。顧客の多くは高校生や大学生で、多くは自作の漫画やアニメなどを用いたものだ。
印傻子では一ヶ月に300人の顧客から合計2万巻のマスキングテープの注文を受けたこともある。小さなテープの売上が、新規市場開拓中のデジタル印刷部門に利益をもたらし、市場での知名度も高まり、金石堂書店や新光三越、Pinkoiなどでも同社の製品が扱われるようになった。
InkFoolの工場の一角。従来型産業から新たな市場の開発に取り組み、紙材、印刷、糊など絶えず試行錯誤を繰り返してマスキングテープのノウハウを蓄積してきた。