スポーツ観戦にはどのような方法があるのだろう。
試合は一つのショーにも喩えられる。勝敗にはこだわらず、それぞれがリラックスしてアスリートの力と美とスポーツマンシップを観賞すればいい。あるいは競技場の付近を探索し、ストリートスポーツの仲間に加わるのもいいだろう。
『台湾光華』編集部は、スポーツ、キュレーション、旅行、音楽、デザイン、マスコットなどの達人を訪ね、それぞれの角度からユニバーシアードの楽しみ方を語っていただいた。ホイッスルが鳴ったら、一緒に素晴らしいショーを楽しもうではないか。

詹鈞智は学校の陸上部出身です。現在は国際体育運動ボランティア交流協会の理事長。アテネとリオの五輪でボランティアを務め、北京とロンドンの五輪にも自費で参加。国民スポーツの推進に力を注ぐ。
勝敗にこだわらず ナイスプレーに喝采を

詹鈞智
学校の陸上部出身。現在は国際体育運動ボランティア交流協会の理事長。アテネとリオの五輪でボランティアを務め、北京とロンドンの五輪にも自費で参加。国民スポーツの推進に力を注ぐ。
国際的な総合競技大会であるユニバーシアードの開催は、台湾にとっては非常に得難い機会と言える。詹鈞智の観察では、主催機関はホームグラウンドの優位性を十分に活かし、特にバドミントンやウエイトリフティング、テコンドーといった台湾が強い種目を実施競技に選んだ。これらの競技には戴資穎(タイ・ツーイン)や許淑浄、郭婞淳といったオリンピックでも活躍する台湾の学生選手が出場する。台湾のスポーツファンにとっても、国内でこうした選手のプレーを見られる機会はそうそうない。
今回のユニバーシアードを機に競技場に足を運び、アーチェリーや飛び込み、体操、水球など、台湾ではあまり馴染みのない種目をこの目で見るのもいいだろう。詹鈞智は、試合観戦の前に、その種目について予習しておけば、もっと楽しめるとアドバイスする。試合の流れや得点方法、順位の決め方などを事前に理解しておけば、状況が理解でき、会場でプレーをもっと楽しむことができるだろう。また、台北市仁愛路で行われるハーフマラソンには、日本の有力選手も参加する。台湾でもマラソンやランニングが盛んになっているので、レースの時間と場所を調べておいて、応援しに行くのもいいだろう。
詹鈞智は、スポーツ観戦は一つのライフスタイルと言えるもので、勝敗にこだわる必要はないと言う。「競技はショーに喩えることができます。選手同士がそれぞれの力と美を競うものなのです」と詹鈞智は言う。敵味方に分けることなく、素晴らしいプレーに喝采を送ろうではないか。

(荘坤儒撮影/photo by Chuang Kung-ju)
大会のレガシーに注目

王耀邦(格子)は格式設計展策と格式多媒の責任者です。デザイン、建築、文化と異業種統合に関心を注ぐ。民間および政府の展覧会企画に参加し、2017年台湾クリエイティブ・エキスポのテーマ館キュレーター。
王耀邦(格子)
格式設計展策と格式多媒の責任者。デザイン、建築、文化と異業種統合に関心を注ぐ。民間および政府の展覧会企画に参加し、2017年台湾クリエイティブ・エキスポのテーマ館キュレーターを務めた。
スポーツは、肉体を極限まで駆使した状態を人々の目の前に示してくれるもので、最も高く、最も遠く、最も速く、そして最も爆発力を具えた瞬間は「私たちのスーパーマンへの幻想を現実のものとしてくれる」と王耀邦は言う。
スポーツに対して台湾の観客の多くは、まだ敵味方が対戦するゲーム形式をイメージしており、政府もスポーツを肉体強化や健康的な気風を生むものととらえている。だが王耀邦は、スポーツは肉体の美学の一表現であり、それは文化の一つととらえるべきだと考えている。スポーツはまた、消費や製造業、医療といった多くの産業とも関わり、大きなスケールでとらえる必要があると考えている。
台北市がユニバーシアードの開催権を勝ち取ったことは、台湾の強い野心を示している。大規模な国際総合スポーツ大会を開催することで、台湾の競技システムの欠点や長所を検証することができ、また大会のために建てられた競技場は、将来的に国民のスポーツを盛んにし、健康促進にも役立つことだろう。これに加え、人々の目をハードの建設から競技するアスリートに向けさせることにもなる。頂点を目指すアスリート一人ひとりの物語を掘り起こし、スポーツに対する人々の認識を高めることも、今回のユニバーシアードが台湾社会にもたらす変化と言えるだろう。
「ユニバーシアード後のレガシーこそ、注目すべき重要な課題です」と王耀邦は言う。これまで、オリンピックを開催した多くの都市では、開催後に大きな影響をおよぼしている。台北が良い意味での「ポスト・ユニバーシアード」シティになれるかどうか、今後に注目しなければならない。

台湾オリジナルのユニバーシアードテーマソング

王方谷
クリック・ミュージックを経営。2017年ユニバーシアード台北大会の主題歌制作という重大な任務を遂行した。
「台湾音楽の実力を世界に見せ、ユニバーシアードへの注目度を高めるために、私たちは敢えて難しい手段を選びました。全国からテーマソングを募ったのです」と王方谷は言う。
応募された200曲余りの中から、台湾の若い世代の活力が伝わり、しかも自由と陽光と喜びと愛を感じさせる楽曲を選ぶため、13人の審査員は議論を重ねてようやく一曲を選び出した。そうして選ばれたのがパイワン族の歌手、舞炯恩が作詞作曲し、I-WANT星勢力が歌う『擁抱世界擁抱你(世界を抱き、君を抱く)』だった。
歌詞に出てくる「イユ・ギユギー・セナセナイー」というのはパイワン族の言葉で「一緒に歌って踊ろう」という意味である。この歌がユニバーシアードの競技とともに放送されれば、台湾から世界へ呼びかける声になることだろう。
エレクトロニクスサウンドの世界的大家であるHowie B.にアレンジを依頼し、パイワン族に伝わる古いメロディーにルンバやラテンのリズムが加えられた。この躍動的なリズムが流れれば、自然に身体が動き出すことだろう。
「音楽家やミュージシャンは、おめでたい行事に参加するつもりで、この活動に参加しました」と語る王方谷は、台湾インディーズの重要な推進者として、台湾の各エスニックの音楽エネルギーを結集し、董事長楽団、絲竹空ジャズバンド、嬉班子、それに九天民俗技芸団や神棍楽団などを招いた。ユニバーシアードという舞台で、台湾のオリジナリティを耳と目で楽しませてくれることだろう。

王方谷はクリック・ミュージックを経営しています。2017年ユニバーシアード台北大会の主題歌制作という重大な任務を遂行した。
任務に就く大会マスコット「熊讃ブラボー」

(クリック ・ ミュージック提供/courtesy of Click Music)
熊讃ブラボー
2017年ユニバーシアード台北大会のマスコット。柯文哲・台北市長をからかっては台湾中を笑わせ、皆が捕まえに来てくれるのを待っている。
胸元に白いVの字が際立つ台湾の固有種、タイワンツキノワグマが、ユニバーシアードのマスコット「熊讃ブラボー」になった。
昨年からユニバーシアード台北大会の宣伝という重大な任務を引き受け、陽明山で多くの人と一緒に百年に一度という雪景色を楽しんだり、パスポートを作ってニューヨークまで行ってユニバーシアード台北大会を宣伝したりした。さらに日本から来た「くまモン」と交流して外交にも貢献するなど、台湾で最も忙しいツキノワグマと言えそうだ。
大会開催が目前に迫り、熊讃ブラボーは、高雄左営にある国立スポーツ訓練センターでユニバーシアードに参加する選手たちを応援した。選手にタオルを手渡すと、ウエイトリフティングの許淑浄選手は恥ずかしがり、卓球の陳思羽選手は自ら卓球の技を教えてくれた。
黒い毛皮に覆われ、常にスマイルをたたえ、笑っても目が小さくならない。ファンに出会うとハグせずにはいられない熊讃ブラボー。実は2万8000人のファンがいて、台湾中を駆け巡りながら、いつもフェイスブックでファンと交流している。
太っているように見えるが、スポーツも大好きだ。日頃からランニングで体を鍛え、ゴルフ、バスケ、クライミング、野球、柔道、鉄棒、それに自転車競技だってできる。
「みんなで競技会場に行って観戦し、台湾代表チームを応援しようよ」と、熊讃ブラボーは身振り手振りで皆に呼びかけている。

周育如都市酵母プロジェクトを運営する縄跳びの名手。都市景観改造のアイディアを次々と打ち出している。
都市の各所にスポーツの場を

今年、都市酵母は「台北人は運動が好き」というスローガンを掲げ、台北アリーナや南港、天母、台湾大学周辺の街灯に小さなイラスト看板をつけている。
周育如
都市酵母プロジェクトを運営する縄跳びの名手。都市景観改造のアイディアを次々と打ち出している。
「ひとつの都市の年齢は、どのように計算すればいいのでしょう。スポーツ人口の割合で出せるのではないでしょうか」と周育如は言う。
台北市が開催権を獲得した2017年の夏季ユニバーシアードは、台北がこれまで開催した国際総合スポーツ大会の中でも最も重要なものである。長年にわたり、都市の環境美学を研究してきた「都市酵母」代表の周育如は、ユニバーシアードを機にスポーツ環境を整え、都市全体の活力を高めていければと考えている。
「私たちの暮らす環境において、都市の片隅に、もっと体を動かそうと呼びかけるものを設置したかったのです」と言う。
今年、都市酵母は「台北人は運動が好き」というスローガンを掲げ、台北アリーナや南港、天母、台湾大学周辺の街灯に小さなイラスト看板をつけている。少し太り気味のお年寄りと子供が、ストレッチなどをしているイラストで、身体を動かすことを忘れないよう、市民に呼び掛けている。なぜ太り気味のイラストなのかと言うと、「都会に暮らす人は、身体を動かさなければ太ってしまからです」と言う。
ユニバーシアードの期間中に限って、台北市政府前の広場にはボクシングの練習に使うパンチングボールが設置される。パンチングボールを叩いて汗を流し、ストレスを解消することができる。さまざまな競技会場でユニバーシアードのゲームを観賞すると同時に、街頭のイラスト看板にも目を向け、その指示に従って身体を動かし、街灯を使ってポールダンスをしてみてもいい。都市全体が私たちの運動場なのだから。

今年、都市酵母は「台北人は運動が好き」というスローガンを掲げ、台北アリーナや南港、天母、台湾大学周辺の街灯に小さなイラスト看板をつけている。
ユニバーシアードで都市外交を

「943」は発音が似ている「節約」の意味。ベテランのバックパッカーで百国玩家美食旅行倶楽部の会長。40万元で百ヶ国以上を旅し、少ない資金での海外旅行を推奨している。
943
「943」は発音が似ている「節約」の意味。ベテランのバックパッカーで百国玩家美食旅行倶楽部の会長。40万元で百ヶ国以上を旅し、少ない資金での海外旅行を推奨している。
これまで100ヶ国以上を旅してきた「943」は、台湾は世界と比べても観光地としてのポテンシャルが非常に高いと考えている。
台北の場合、西門町の紅楼や台北賓館といった文化遺産もある。彼女は、観光客には路地や裏通りを積極的に散策し、地域に根を張った小さな店を訪ねることを勧める。裏通りは家賃も安いため、実験的な店舗経営が可能で、多くのクリエイティブな商品が売られているからである。また、ユニバーシアードの競技場の多くは台北各地に分散しており、観光客にとってこれは台北各地を探索するよい機会になると言う。
943は特に、台北市街の中心に位置する台北アリーナを推薦する。「節約の旅」をモットーとする彼女は、観光客のために特にお勧めの散策ルートを提案してくれた。まず台北アリーナを中心として、近くの路地にある萬芳氷室(かき氷店)や大老二美食店に行ってみたい。香港風の焼臘料理(肉類のロースト)がおいしいという。海外からの観光客なら、金山客家小館で本格的な台湾の味を楽しむのもいいだろう。
台北アリーナの近くにはIKEAや京華城、家楽福(カルフール)といった大型商業施設も揃っていて、必要な買い物を一度に済ませることができる。さらに京華城では、台北MRTの市政府駅との間に無料のシャトルバスを出している。これを利用して市政府駅に出て、そこからMRTに乗り換れば、観光客の宿泊施設が集まっている西門駅まで一本で行くことができるのである。また台北アリーナのある南京東路には、焼き菓子の名店が集まる通りもある。佳徳パイナップルケーキ、雪花斎、裕珍馨などがあり、外国人観光客はここでお土産を買うのもいいだろう。
「この機会に、都市外交をしましょう」と943は言う。盛夏の台北が、私たちの探索を待っている。


(荘坤儒撮影/photo by Chuang Kung-ju)



熊讃ブラボー2017年ユニバーシアード台北大会のマスコット。柯文哲・台北市長をからかっては台湾中を笑わせ、皆が捕まえに来てくれるのを待っている。




(金宏澔撮影/photo by Chin Hung-hao)