厳暁翠さんは38歳、精英公関グループ(エリートPRコンサルタント)のCEOだ。上には董事長がいるが、厳さんは「私の方が権限があります。権限を授けられた管理職は完全に独立して責任を負わなければなりません」と言う。
CEOである彼女は、自ら商談する必要はなく、美しく着飾って顧客の主催するイベントに来賓として出席すればよい。そして次から次へと会議をこなす。精英公関の傘下には経典、楷模、精采などPR会社4社があり、社員数は100人を超える。このグループ全体の営業、管理、訓練、研究開発などを彼女は一人で担当している。
たたき上げ
小柄できゃしゃな厳暁翠さんは、大学で経営学を学んだからか、すぐに重点をつかんで簡潔かつ力強く話す。しかし、彼女の成功は決して偶然のものではなく、一歩一歩積み重ねてきたものだ。
88年に入社、2年後には管理職になった。毎年仕事の内容は変ったが、常に課されたのは「営業責任」だ。ある時、社長から不可能と思われる営業ノルマを言い渡されたが、チームを引っ張って懸命に達成した。「疲れましたが、営業力の訓練になりました」と言う。
メディア研究部の管理職だった時は、部下がニュースを見落とすのを心配し、毎日すべての新聞雑誌を持ち帰って隅々まで目を通した。テレビを見ながらラジオを聴くこともあり、時事問題を掌握する力がついた。この「職業病」は今も治らず、家に帰るとすぐにテレビのニュースチャンネルをつける。寝る時もラジオのニュースを聴きながらで、音がないと眠れないという。
96年、仕事で最大の危機に見舞われた。副社長2人が得意先と同僚を連れて独立してしまったのである。彼女は副社長に就任し、混乱の収集を任されたが、毎晩枕を抱えて泣いたという。信じていた仲間に裏切られたと思うと、気持ちが収まらなかったのだ。だが彼女は同僚たちと懸命に努力し、さらに売上のピークをもたらした。
98年には3つめの子会社が設立され、彼女は妊娠中の管理職2人と新人営業マン3人を率い、顧客ゼロのところからスタートした。そして3ヶ月目には利益を出し、2000年にはグループ内で業績トップの会社にしたのである。
「得意先も同僚も、私の営業力の強さは知っています。ただ、部下にはあまり大きなプレッシャーは与えませんし、お客様には無駄なお金は使わせません」と言う。
あえてチャレンジする
すでに頂点に登りつめたように見えるが、厳暁翠さんはまだ満足しておらず、常に新しいものに挑戦している。世新大学のPR学科で講師を務めるほか、政治大学マスコミ大学院の在職コースに通い、週末には木柵まで授業を受けに行く。EMBAを取ればと言う人もいるが「ビジネススクールに行く人の目的は人脈作りですが、私にはもう人脈がありますから」と言う。
PRという分野には深い思い入れがある。最近、台北市のMRTで乗客が怪我をする事故があって批判されているが、かつてMRTは危機管理の模範生だった。「危機管理は完全に重視と訓練の問題です」と語る彼女は方々から講演に招かれるが、政府機関や学校に招かれれば必ず受ける。政府機関や学校は、すべての手本になるからだ。
PRは台湾ではまだ学問として確立していないが、彼女は深い学理があると考え、その理論基礎を整理したいと考えている。そのためPR分野を含むマスコミ大学院を選んだのである。「在職コースの課程は厳しくて大変ですが、楽しいものです。博士課程まで学びたいと思っています」と言う。
では、家庭との両立はどうしているのだろう。
マスコミ関係で働く夫はPRという仕事の辛さを理解している。出世の早い彼女に夫が嫉妬することはなく、彼女も甘えるところは甘える。今は営業を離れたので、顧客を紹介してくれなくても大丈夫だと彼女から言っているそうだ。
自分の実家は南部、夫の実家は台中にあり、台北には親戚がいないので子供を預けられる場所がない。週末には大学に行かなければならず、夫の出張が重なると、子供をどうするかが問題だ。そこで彼女は、ご近所や息子の同級生の母親と親しくするようにした。昨年は、1学期に3回、10歳の息子を同級生の家に一日中預けることができた。
多様な役割、多様な刺激
CEOになって4年、最も難しいのは人の管理だと言う。どんな会社にも、話し合いにくい問題や派閥がある。人との衝突を好まない彼女は高圧的な処理はせず、自分のまじめな取り組みによって解決するしかないと考えている。これが最良かつ唯一の方法だとも言う。
もちろん時には厳しい表情を見せる。だが厳しくするには準備も必要だ。例えば、誰かが報告している時に、まじめに聞いていない人がいると、彼女は先生のように指名して質問攻めにする。そのため、彼女の出席する会議では部下は緊張するが、これは一つの訓練にもなる。
時間は足りるのだろうか。
「疲れるのも睡眠時間が足りないのも、自分で選んだ道です。忙しい上にいろいろやっているので」と笑う厳暁翠さんは、毎晩9時か11時には日本のドラマも見るそうだ。普段は平均4時間しか眠らない。不眠ではないが、あまり良く眠れず、夢の中でも仕事をしている。
こんなに忙しくても「役割が多様だと脳の刺激になります。学校のレポートは夜中に書き、休日には部下からの報告書を見て、必ず専門的な意見を添えます」と言う。
強がりで敏感、そして楽観的な厳暁翠さんのストレス解消法は読書だ。信仰はないが、お経を読むと気持ちが落ち着くという。「もちろんショッピングもストレス解消になりますが、その時間がありません」と笑う彼女の生活は、仕事と家庭と学校でいっぱいなのである。