誰もが子供の時に遊んだ玩具だが、最近では子供だけのものではなくなった。多くの大人が玩具に熱中しているのである。玩具のコレクションや遊びを通して、ひと時、現実の世界を忘れるためである。
大人が遊ぶ玩具には「癒し」の意義が込められているという共通点がある。例えば、可愛らしくて一目見ただけで気持ちが明るくなるもの、あるいは会社の上司や嫌な同僚に「勝った」ような気分にさせてくれるもの、または落ち込んだ時に静かに心の声を聞いてくれる相手、といったものだ。
夕暮れ時、台北市のショッピングセンター、微風広場6階にある台隆手創館(東急ハンズ)で、少年のような出で立ちのジャッキーが同級生と一緒に買い物をしていた。彼はお勧め品の棚の商品を一目で気に入り、すぐにかごに入れた。
「子供の頃、荷物を包む緩衝材のプチプチを潰して遊ぶのが大好きでしたが、大人に見つかると叱られました。それが今では玩具として開発され、iFデザイン賞も取っているんです」と言う。
癒し系玩具は通常「手でいじって気持ちを発散させる」というものだ。左の女性が手に持っている「カオマル」は、手で握ることで笑顔や泣き顔、怒った顔などさまざまな表情を作ることができ、楽しみながら憂さ晴らしができる。
ひたすら潰し続ける
ジャッキーが選んだ「∞(無限)プチプチ」は、例のプチプチを永遠に潰し続けられる玩具で、潰すたびにプチっと音がして気分が爽快になり、百回潰すたびに面白い音が出る。
これは2007年に日本の玩具メーカー、バンダイが打ち出した「手慰み」玩具で、価格は500円(約180台湾ドル)、ネット上では「バカげているが、気持ちよすぎて涙が出る」と評され、日本と台湾で大ヒットした商品だ。
「∞プチプチ」が200万個売れた後、バンダイは次世代の「∞エダマメ」を打ち出した。枝豆のさやを押して豆を出し続けられるというもので、豆には12種類の顔が描かれている。おもしろくて、手慰みにもなるこの玩具も大ヒットし、台湾の東急ハンズや雑貨サイトのZakkaなどで次々と品切れになった。
「∞(無限)エダマメ」は枝豆のさやの形をしていて、指先で押すと、いろいろな表情の豆が飛び出す。退屈な時の手慰みとして愛されている。
癒し系は「王道」
ジャッキーのように、日頃はバイトと学校、家族や人間関係などで疲れている消費者にとって、ひと時だけ気分転換できる「癒し系」の玩具は、すでに玩具市場の主流となっている。
「癒し系」玩具の歴史は、日本のバブル経済が崩壊して不況に落ち込んでいた1996年にさかのぼる。当時の世情に合わせて、バンダイが従来の玩具の概念を覆す「たまごっち」を打ち出したのである。卵型の筺体に入った小さな電子ペットに、定期的に餌を与えたり一緒に遊んだりしながら育てていくというもので、世話が行き届かないと機嫌が悪くなる。
「たまごっち」は多くの人の心の拠り所となり、日本の若者やサラリーマンの間だけでなく、外国でも大流行した。
たまごっちのヒットで、日本の玩具メーカーは、心の慰みとなる玩具や生活雑貨の開発に乗り出した。微笑みながら頷き続ける人形や、太陽光で葉っぱを動かし続けるFlip Flap、そして昨今の∞プチプチや∞エダマメなど、いずれも大きな話題となり、大ヒットした。
癒し系玩具は2000年の頃から東急ハンズをはじめとする日系の販売ルートを通して台湾にも輸入されるようになり、20〜35歳のサラリーマンやOLの間に広まっていった。
東急ハンズ販促部の翁振益サブマネージャーによると、世界的な金融危機の影響で購買力の衰えた2008年下半期でも、癒し系玩具の売上は3割近く伸び続けており、不況の影響はほとんど受けていないという。
嫌いな同僚に見立てて仕返しをする「設計小人」シリーズは、ばかばかしいが確かに憂さ晴らしになる。上の写真は「小人」のおしりに鉛筆を刺す鉛筆削りとキーホルダー、右は「小人」をぐるぐる回すセロテープカッター。
インタラクティブな遊び
すべての玩具に共通するのは「可愛らしさ」で、癒し系玩具も例外ではない。ただ、癒し系玩具の場合は、可愛らしさよりインタラクティブであることを重視する。玩具と人間とのやりとりによって、心を癒したり、ストレスを発散させたりする役割を果たすのである。
例えば、うなづく人形の場合、赤ん坊のような顔に微笑みを浮かべ、こちらが何かを話すと、「そうだね」「わかるよ」「すごいね」などと言っているかのようにうなづいてくれる。シンプルで丸みを帯びたデザインと相まって、いつも一緒にいてくれ、落ち込んだ時には話を聞いて励ましてくれる友達のような感じがする。
もう一つ、手で握って遊べる「カオマル」シリーズは、ポリウレタン樹脂で作った人間の頭で、笑顔や泣き顔、怒った顔などから選べる。その柔らかい手触りと握り心地がよく、握りつぶしていろいろな表情を作ることができ、一緒に笑ったり泣いたりできる。
「マジック エッグ」は、卵の殻の形の中に豆が入っていて、水をやるだけで殻が割れて芽が伸び、豆に「Thank You」などの文字が浮かび上がるというものだ。
「癒し系」商品を研究している淡江大学マスコミ学科の黄振家準教授によると、「癒し系」玩具はインタラクティブな設計を通して「さりげなく人の心に寄り添い」、心を和ませる役割を果たすという。
彼がイギリスの会議に参加した時、主催者は参加者への贈呈品として「人の脳」と「電球」の形をした、プラスチックの玩具を用意していた。
「疲れて思考やアイディアが枯渇した時に手で握ると『その形のものを補ってくれる』かのように脳を刺激します。おもしろくて良いアイディアです」と黄準教授は言う。
癒し系玩具の大部分は一人で遊ぶものだが、発売から30年以上になる「黒ひげ危機一髪」は大勢で遊べる。ナイフで樽を刺すたびに悲鳴を上げて動くのがおかしく、最後に黒ひげが飛び出した時には皆が興奮する。
「なごみ」と「発散」
気持ちを和ませてくれるものと、不満を発散させてくれるもの、というのが癒し系玩具の特徴だが、台湾のメーカー、多意田(Do More Idea)は、それを代表する文具を開発した。
同社でブランド戦略を担当する穆冠樺さんはこう説明する。どの会社にも、上司におべっかを使ったり、人の噂をまき散らしたりする嫌な同僚がいるものだが、自分ではどうしようもない。そこで、そうした「小人(しょうじん)」に復讐するという気持ちで開発されたのが「設計小人(嫌な奴を懲らしめる)」シリーズだ。
例えば、オフィスで人気があるのは、小人が跪いて名刺を差し出している形の名刺入れや、小人のおしりに鉛筆を刺して削る鉛筆削り、使うたびに小人が360度回転するセロテープカッターなどだ。
しばらく前、フランスのティアー・プロッド社の「呪いのサルコジ人形」が話題になった。サルコジ大統領の似顔絵を描いた人形で、大統領に不満を持つ人々が人形に針を刺して憂さを晴らせるというものだが、「設計小人」は「匿名」の嫌な奴を懲らしめるというアイディアで、各自が嫌いな人に見立てて遊ぶことができる。
消費社会学を研究する東呉大学社会学科の劉維公準教授は、印象的な「癒し系」商品として「彼氏のうでまくら」という安眠グッズを挙げる。男性の肩から腕にかけての形をしていて、彼氏に守られているような感じで眠れるというものだ。
「失恋した女性や独身女性にとって、恋人の腕に抱かれているようで、寂しさを癒す効果があるでしょう」と言う。
学者が指摘するように、こうした「癒し系」玩具が広く受け入れられていることは、現代社会において人間関係が希薄になっていることの証しでもある。現代人の不満や疲れや寂しさを、ほんのひと時忘れさせてくれる小さな世界は、今後どのようなビジネスと影響力をもたらすのか、これからも注目していきたい。
さまざまな表情が楽しめるクリップホルダー。
嫌いな同僚に見立てて仕返しをする「設計小人」シリーズは、ばかばかしいが確かに憂さ晴らしになる。上の写真は「小人」のおしりに鉛筆を刺す鉛筆削りとキーホルダー、右は「小人」をぐるぐる回すセロテープカッター。