「大誌雑誌、一冊百元」と、去年の春から地下鉄の駅で、オレンジのベストに識別証を掛けた販売員が雑誌を販売しているのを見かけるようになった。
この雑誌はイギリスから始まったThe Big Issue(TBI 、ビッグイシュー)の台湾版で、去年4月から中国語名「大誌」で発行された。記事はジャーナリストや作家が書くが、最大の特色は流通で、販売員をホームレスに限るところである。一冊100元で、一冊売ると販売員に50元が入り、50元が雑誌製作に当てられる。
ビジネスとしてホームレスを支援しようというこの雑誌発行事業は社会的企業と定義され、営利目的ではなく社会目的に利益を運用するものである。台湾版ビッグイシューは創刊から1年を迎えたが、運営状況はどうなのだろうか。社会的企業の概念がいまだに曖昧な台湾で、どのような作用を起し、またその課題はどこにあるのだろうか。
晴れた夏の金曜の朝、48歳の李陸柱は毎日お決まりのコースで、華山にある大誌雑誌の発行所で雑誌を仕入れ、ワゴンを押して台北駅前の新光三越デパート前の広場で営業を開始した。月初めの発売日から間もなく、週末を控えて売行きが期待できる。
雲林県出身の李陸柱は、中学卒業前の14歳で働きに出た。20歳で中国大陸出身の妻と結婚してから台北に出て、二人の子供をもうけた。妻は主婦で家におり、彼は万華の既製服工場でアイロンかけの仕事をしていた。
当時は台湾の既製服産業の最盛期で、受注で一杯だった。アイロンかけの賃金は服1点で5元、朝から晩まで10数時間働き、月収5〜6万元を稼ぎ、最高で11万元にもなった。

台湾版「The Big Issue」は楽多ネットの元CEO、李取中が創刊した。同誌は世界各地で発行されており、現在10ヶ国のバージョンがある。
その後、既製服工場は人件費の安い中国大陸に移転し、李陸柱は1999年末に失業した。その後の就職もままならず、皿洗いやセメント工事などの臨時雇いで糊口を凌いでいたが、妻は貧窮に耐え切れず、子供二人を連れて大陸に戻ってしまった。
失業に離婚が加わり、3年前には家賃も払えなくなった。やむなく毎晩地下道で眠り、昼間はあちこち歩いて、ビラ配りや祭りの手伝いなどのアルバイトで稼いだ。また遠くまで歩いて、ホームレス向けの炊き出しに並ぶが、並ぶのが遅れるとそれにもあぶれる。
去年になってビッグイシューの販売員募集を知り、李陸柱はすぐに応募した。雨の日以外はほとんど毎日街角に立ち、暑さ寒さに関らず10時間以上販売した。一日平均して20冊を販売し、必要最低限の収入を得られるようになった。
雑誌販売に参加した翌月に、市内に4000元の部屋を借り、ついに2年あまりのホームレス生活に終止符を打った。今の最大の希望は、雑誌を売り続けてお金を貯め、大陸にいる二人の子供に会いに行くことである。その生活も生きる価値も、すべてがこの雑誌で大きく変わった。
「私たちはホームレスに自立できる機会を与え、自信をとりもどさせたいのです」と、台湾版ビッグイシューの李取中編集長は話す。
現在、世界40ヶ国で112種類の出版物が似たようなモデルで発行されており、ホームレスに自立の機会を与えている。中でも最も知名度が高いのが、イギリスで20年の歴史を有し、発行地域が世界各国に及ぶ「The Big Issue」なのである。

「The Big Issue」はシンプルで洗練されたデザインの総合誌だ。
自然原料と環境保護を特色とするイギリスの化粧品ブランド、ザ・ボディショップの創設者ロディックは、1991年にニューヨークの街角で販売される新聞「Street News」に感銘を受けた。イギリスに戻ってから、かつてホームレスで、しかも出版経験がある友人と共同で「The Big Issue」を創刊した。
「手を伸ばして乞うより、手を上げて売ろう」が雑誌創刊の主旨で、ホームレスを募集し、販売訓練を行ってこれを流通経路とし、雇用を創出しようというものである。ホームレスはこれにより住む場所を確保し、人との触れ合いをもち、自信を持って生きられるようになる。さらには社会とつながり、ホームレスから抜け出して、安定した仕事を見つけるという、良い循環が生れる。
同誌はイギリスで支持を広げて、1995年にはThe Big Issue財団法人が設立され、障害があって働けないホームレスを対象に、医療や住む場所の世話などを始めた。
1996年、イギリス以外では最初にオーストラリアが加わり、現在ではアイルランド、南アフリカ、日本などの10ヶ国で発行され、台湾は9番目の発行地域となった。
各国のバージョンは、イギリスのビッグイシューから名称使用のライセンスを受けるが、編集は独立しており、互いのコンテンツを翻訳して使用できる。
イギリスのビッグイシューは月刊誌から週刊誌になり、発行部数は13万6000部に達する。読者数は64万を超えると見られ、現在では1万人以上のホームレスの運命を変えて、イギリスを代表する社会的企業となった。

「手を伸ばして乞うより、手を上げて売ろう」――イギリスで創刊された「The Big Issue」誌の販売員はホームレスの人々だ。住む家のない人々に自立の機会をもたらし、生活の主導権を取り戻してほしいのである。
台湾版の「大誌雑誌」の李取中編集長は、もとはネットのデジタルな世界で活躍していた。
1970年生れの彼は、東海大学物理学科を卒業し兵役を終えてから、1997年にネットの黄金時代を経験し、奇摩ネット(現在のヤフー台湾)の最初のメンバーとなり、ユーザーインターフェースをデザインした。
その後、草創期の和信超媒体(ギガメディア)に参加し、さらにネットオークションに目をつけて、友人と当舗網(後の楽多市場)を創設する。2004年に奇摩ネットオークションが売り手から手数料を徴収したことで問題となったとき、機に乗じてシェアを拡大した。
その後、ユーザーのネット利用の変化に応じ、楽多市場はブログを主要サービスに転換していく。2008年には楽多新文創オンライン雑誌を創設し、数十人の海外ライターと協力し、生活文化や藝術などのジャンルを主に、グローバルな視点の評論を掲載した。そのレイアウトや内容が好評となり、中国語ネットで最も権威ある「網路金手指」賞を受賞したのである。
2009年に、ある友人が実体雑誌を出版する気はないかと打診してきた。同じ頃、偶然イギリスのビッグイシューの発行モデルを知り、実体雑誌を発行するならこれだと、印刷媒体の衰退する時代に、ネットから出版に参戦した。
2009年1月に李取中はロンドンに飛び、ビッグイシュー本部で創設者のジョン・バードに面会した。台湾のホームレス分布、交通システム、現行の社会福祉などの資料と、企画する雑誌や創刊号のカバードラフトなどを見せた。
バードは周到に用意されたプロの仕事に感銘を受け、ライセンス費用は要らないから、すぐにやるようにと言ってくれた。但し、経験は教えるが、金銭や人的援助はしないと言われた。
イギリスから帰り、ただちに雑誌の出版準備にかかり、親戚知人から200万元を集めて、創業の資金とした。

台湾版「The Big Issue(大誌)」は昨年の4月1日に創刊され、ホームレスの販売員が街頭で宣伝した。それから1年余り、雑誌の発行部数と販売員の数は少しずつ増えている。
まず、販売員を募集した。李取中は活水泉、恩友、人安などのホームレス支援団体と説明会を開催し、雑誌の主旨と運営方法を説明した。興味がある人は、次の販売技術の説明会と実際のシミュレーションに参加し、街頭での販売実習を受けることとなる。
正式に販売を開始するには、イギリスに倣って販売時の酒やタバコ、雑誌以外の物品販売、チップなどの受取を禁止する行動規範に署名する。行動規範は仕事への尊重を促し、社会的企業と慈善事業の違いを示すところでもある。
最初は無料で10冊を提供し、それが売れたら自分の懐具合や販売状況を見て、どれだけ仕入れるかを決める。一日の販売時間、営業するかどうか、あるいは長期休業するか、すべて自分で決める。
ホームレスは臨時雇いの仕事を抱えていることもあり、また長期的に不安定な状態にいたので、あまり制約を加えると、逆効果になると李取中は言う。
統計によると、台北には500から600名のホームレスを数えるし、さらに潜在的なデータを加えると、総数は1000名を超えると見られる。
大誌雑誌創刊から1年余りで120人のホームレスが参加し、現職の販売員は当初の18人から50人に増えた。ホームレスから抜け出して安定した職につく人、続かない人と、入れ替わりが激しいのも、世界に見られる共通の現象である。
台湾版ビッグイシューの発行部数は3万部で、販売員一人当りの販売部数は600〜700部、月収は3万元以上になる。
李取中によると、販売員の努力と販売実績は正比例し、販売地点の人通りの多さはあまり関係しないと言う。販売員が姿を見せないと、読者は空振りとなるので、自然と必ずその場にいる確率が高い販売員のところに買いにいくからである。

「The Big Issue」は25〜35歳をターゲットとした雑誌で、「ハングリーであれ、愚かであれ」という精神を伝えている。
台湾版ビッグイシューは総合的な文化雑誌と位置づけられ、芸術文化やグリーン思想、グローバルな課題を総合的に論じ、また対象を25〜35歳のY世代にフォーカスしている。
去年4月1日のエイプリル・フールに発売された創刊号の表紙に愚かな世代と書かれている。これはアップル創設者ジョブスが2005年にスタンフォード大学で行なったスピーチの最後の言葉「ハングリーであれ、愚かであれ」から来ている。
X世代の李取中にとって、ネット時代に成長したY世代は人口比率が一番多く、独自の価値観を持っている。Y世代は知恵ある愚か者で、その創造力と理想が前進のエネルギーになる。
また豊かな時代に情報があふれる中で育ったY世代には、「ハングリーであれ、愚かであれ」の理念、世間の喧騒に惑わされずに物事の本質に帰り、単純な気持ちで世界を見る愚者の精神が重要なのである。
またイギリスでビッグイシューを創刊した時に、バードは社会的企業が販売するのは憐れみや同情ではなく商品であって、雑誌も市場の一般誌と肩を並べる面白さや競争力がなければならないと語っていた。
各国で発行されるホームレス関係のその他の出版物と比較して、ビッグイシューの商業的な編集方針が時に英米で議論を引き起こしてきた。美しい印刷で大衆に迎合するような内容、時にハリウッドの有名人やロック歌手が紙面を飾るのは商業的に過ぎて、ホームレスを語ることが少ないというのである。その一方、賛同者はこの編集こそがホームレスに実質的な収入を確保し、雑誌の長期的経営を可能にすると言う。
李取中に言わせると、フェアトレードのコーヒーが高くてまずければ、最初は慈善を理由に我慢して買ってくれても長期的な顧客にはならない。ホームレスの収入確保が目的なら、内容は当然読者が買ってくれることを優先しなければならない。
各国のビッグイシューを比較すると、時事、社会問題と文化芸能情報が主軸である。台湾版も時事、文化、ビジネスなどを主軸に、張恵妹などの有名人が表紙を飾り、広告収入もある。

「手を伸ばして乞うより、手を上げて売ろう」――イギリスで創刊された「The Big Issue」誌の販売員はホームレスの人々だ。住む家のない人々に自立の機会をもたらし、生活の主導権を取り戻してほしいのである。
台湾版ビッグイシューは経験と人手の不足から、ホームレスによる流通がなかなか確立できず、大胆に10万部を刷った創刊号の在庫が残っている。そこで台北以外の地域ではセブン-イレブンでの販売を決めた。
台北以外の読者に雑誌を提供するためもあって、ホームレスの販売と重ならない地域のセブン-イレブンに置いてもらうことにしたのである。販売員の収入となる50元は、店での販売経費を控除した金額を、セブン-イレブンからホームレス支援団体へと用途を指定して寄付するということにした。
ところが、これがネットで議論を呼び、ホームレスによる販売という雑誌の理念と異なるという批判の声が上がった。その結果、この実験はわずか2号分で中止され、台湾中南部の販売は現地のホームレス支援団体と連絡して流通経路を広げることにした。今年5月になって、ようやく台中に販売員を置くことになったが、販路拡張の努力はまだまだ続く。

「The Big Issue」はシンプルで洗練されたデザインの総合誌だ。
ビッグイシューは社会的企業ではあるがメディア経営の採算問題は変わらない。世界各地でも創刊当初は、編集とホームレス販売員の確立に苦労する。経営が安定してから財団法人を立ち上げ、NPOとして販売員の訓練や募金を担当し、ホームレスに、より全面的なサービスを提供する例が多い。
台湾版ビッグイシューはようやく収支均衡したところで、財団法人設立はまだ夢である。まず月刊を2ヶ月3号発刊に増やして、販売員の収入を底上げするのが短期目標である。
創刊当初のあれこれを思うと、決して世のためという高い理想からではないと李取中は笑う。当初は台湾版ビッグイシューの発行に挑戦しようという情熱だけだったのが、その難しさから全力を注ぎ込まざるを得なかったのである。
「大誌雑誌のおかげです」と人生の辛酸を味わってきた李陸柱は言う。「大誌雑誌売りほど温かい仕事はありません。買ってくれるお客は、にこにこと励ましてくれます」と話しながら再び雑誌売りに戻った。炎天下に、その声がまた響く。「大誌雑誌、一冊百元」と。

「手を伸ばして乞うより、手を上げて売ろう」――イギリスで創刊された「The Big Issue」誌の販売員はホームレスの人々だ。住む家のない人々に自立の機会をもたらし、生活の主導権を取り戻してほしいのである。

「The Big Issue」はシンプルで洗練されたデザインの総合誌だ。

「The Big Issue」はシンプルで洗練されたデザインの総合誌だ。

「The Big Issue」はシンプルで洗練されたデザインの総合誌だ。

台湾版「The Big Issue」は楽多ネットの元CEO、李取中が創刊した。同誌は世界各地で発行されており、現在10ヶ国のバージョンがある。

台湾版「The Big Issue」は楽多ネットの元CEO、李取中が創刊した。同誌は世界各地で発行されており、現在10ヶ国のバージョンがある。

「手を伸ばして乞うより、手を上げて売ろう」――イギリスで創刊された「The Big Issue」誌の販売員はホームレスの人々だ。住む家のない人々に自立の機会をもたらし、生活の主導権を取り戻してほしいのである。