経済発展が最優先される現在、台湾海峡両岸は相前後してWTO(世界貿易機関)に加盟し、「大中華経済圏」が企業やビジネスマンの未来を示すようになった。文化の面でも出版市場の開放が促され、交流と投資が盛んになり、しだいに「華文出版圏」が形成されつつある。そうした中で、両岸三地(台湾・香港・中国大陸)の出版業界で全面的な構造転換が始まっている。
中国大陸では、放送媒体が「省レベル」でグループ化したのに続き、出版業界でもグループへの整合と体質の変化が生じている。出版物の内容と発行点数の自由化が進み、販売部数も大幅に成長している。一方の台湾では、ここ2年ほど出版業者が話題づくりなどに熱を入れすぎて各社の在庫負担が大きくなり、市場飽和のために出版社は外に新たな天地を求め始めた。香港はと言うと、台湾と大陸という優位な市場に挟まれて自主性を保つ努力をしているが、大陸の安価な簡体字の出版物が大量に流れ込み、字体の変化という危機にさらされている。
ビジネス面は別としても、台湾・香港・中国大陸の作家や作品の交流が頻繁になり、十数億に達する読者をかかえる市場は、華人社会における文化の交流と融合という素晴らしい未来を示している。
投資家にとっては、出版事業というのはビジネスと文化という相矛盾した魅力を持つものだ。最近の華文出版市場の変化において、市場はどう動いているのだろう。台湾の出版社は、いかにして大陸の扉を開けようとしているのだろうか。これらの動きは、文化面にどのような思考をもたらすのだろう。
2008年のオリンピック開催に向けて、北京市ではすさまじい勢いで道路整備が進められている。強い日差しが照りつける夏、黄砂が舞い上がり、目が開けられないほどだ。だが、西長安大街にある「北京図書大廈」には多くの人が集まっている。書店内の照明はやや暗いが、子供をつれた親たちは誰もが真剣なまなざしで本を選んでいる。夏休み最後の週末に、来学期のための本を選んでいるのである。
1998年に建てられたこの書店ビルには、一日最大のべ5万人が訪れる。開架式の図書が10数万点もあり、地下には郵便局もあるので、地方から来た人はここですぐに本を郵送することも出来る。

蔡志恒、ジミー(幾米)、王文華といった台湾の軽文学作家が大陸でも人気を呼んでいる。大陸で発行されるのは簡体字版だが、表紙デザインは台湾のものとよく似ており、宣伝やマーケティング方法も台北からそのまま「輸入」される。
波頭のしぶき
2階にある文学書のエリアを訪れると、台湾の絵本作家であるジミー(幾米)の作品が一角を占め、「ジミー風」と書かれたカラフルなポスターが柱に貼られている。2年前に華文市場を風靡した紅色出版社のLOVE POSTネット小説シリーズも簡体字バージョンになり、書棚ひとつを独占している。シリーズの漫画風の表紙は台湾で出版されたものとまったく同じで、簡体字のタイトルに気づかなければ、台北の金石堂同じ8月の末、上海の図書市場も大いににぎわっていた。書店チェーンの「思考楽」が、中国大陸で初めての24時間営業の書店を浦東にオープンさせたのである。これは両岸三地の出版業者の間で大きな話題になっている。オープン当日、たそがれの北京市内の喫茶店で、台湾の遠流出版社北京代表の呉興文さんは興奮気味にこの話題を口にし、暇ができたら必ず行くつもりだと語った。数時間後、退社時刻を迎えた浦東のオフィス街には「思考楽」書店の明かりがともった。ここでも台湾作家の作品は一番目立つところに並んでいる。
近年、大陸の出版ブームは現地では「波頭」と形容されている。出版できる書籍の種類や内容の自由化が進み、販売部数は大幅に伸びた。今年の5月からは、川下の販売市場への外国からの投資が少しずつ自由化され、外資の臨機応変な創意によって発行と小売に新しい環境が生まれることが期待されている。
「2002年は、大陸市場に進出する大陸以外の出版社にとって最も重要かつ活発な一年でした」と話すのは、華文出版を研究している仏光人文社会学院文学研究所の陳信元・副教授だ。WTOの圧力の下で大陸の出版市場が遅かれ早かれ開放されることを出版社は知っており、そうした中で少しでも早く大陸の環境に慣れた者にチャンスがめぐってくると考えられるからだ。

2002年、北京正源図書公司の王冬さんは反対を押し切ってジミーの絵本を発行したところ、大陸で100万部に達する売上を記録し、両岸の読書の「時差」を縮めることとなった。
市場はどこに?
ハイテク産業などと違って、出版業はもともと生産高の低い産業だが、その市場がブームとなっているので、ドイツのベルテルスマン社などの国際的メディアグループも大挙して大陸市場の開拓に乗り出した。内容重視の台湾出版社も、次々と大陸に駐在員を派遣している。台湾の出版業界人なら良く知っている、遠流出版社の呉興文、大塊社の徐淑卿、天下文化社の孫祥芸、空中英語雑誌の馬励、今週刊の張淑貞、康軒社の張明賜らが、北京や上海に長期駐在し、あるいは頻繁に両岸を行き来しながら情報を集めているのである。そして今年の9月、北京で開かれた国際ブックフェアには台湾・香港・大陸の出版社が勢ぞろいした。台湾の時報出版社の莫昭平・総経理はフェアの1ヶ月前から北京に渡って準備していた。
ここからも分るように、大陸の広大な出版市場は「華文出版市場」という概念を浮彫りにしている。中国大陸の新聞出版総署の統計によると、2002年に大陸全土で出版された図書は17万8000点余り、前年比で12%増加している。そのうち新刊は10万点、総印刷部数は67億5000万部、総額は726億人民元に達する。出版物の種類で見ると、世界中の華文図書の4分の3は大陸で発行されており、残りの4分の1は台湾、香港、東南アジア、北米などで出されている。
華文市場の大幅な成長が見込めることから、近年は台湾・香港・大陸の各大都市が次々と国際ブックフェアを開催し、「華文図書の版権取引センター」としての地位を確立しようとしてきた。しかし、中国大陸市場の発展のスピードは極めて速く、台北、香港、北京、上海の各地の出版関係者は「華文版権取引センター」の地位はすでに北京が手にした、と口をそろえる。
「数年前までは台北の国際ブックフェアも『華文図書の版権取引センター』という位置づけを強調していました。しかし現実を考慮して、来年フェアを主催する城邦出版グループは台北ブックフェアのコンセプトを『出版工芸センター』に変えることに決めました」と話すのは、城邦出版グループの蘇拾平・副董事長だ。大陸市場が急激な成長を見せる一方で、香港市場はかねてから体質が良いとは言えず、台湾の出版市場はすでに成熟している。そこで台湾の強みである出版ノウハウ(編集、イメージ作り、マーケティング、読者との交流)などをもって華文出版市場全体に介入していかなければ、台湾は影響力を発揮できないと蘇氏は考えている。

出版業の発達によって大陸では読書がひとつのファッションになり、書店もインテリアや個性を重視するようになった。この北京の三聯書店は「北京の誠品」と呼ばれている。
GO WEST!
台湾の多くの人は失望するかもしれないが、「版権取引センター」と言えば、取引量は最大、出展出版社数は最多、そして文化の粋が結集するというイメージがあるため、あらゆる都市がこれを目標としてきたのである。だが別の角度から見れば、大陸以外の出版社が大陸市場に入り込み、世界の華文出版の4分の3を占める地域の一角を占めることができるとすれば、それも大きな魅力である。大陸当局は、出版と新聞発行を市場開放の最後の防衛線としているが、そこにどうやって入り込んでいくかが、台湾の出版社の現在の課題である。
「台湾の出版社が大陸市場に進出する方法としては、著作権契約を結ぶか、共同出版するか、新たな会社を創設するかの三つしかありません」と話すのは、両岸の出版業務に通じた呉興文さんだ。著作権売買は簡単だが、共同出版と会社設立は「千変万化」すると言う。
現在注目されている台湾の出版社――例えば遠流社の場合は2000年に北京に会社を設立し、電子ブックの研究開発を進めてきた。今年はさらに遠流博識ネット(北京)文化コンサルティング社を設立し、出版業務を行なっている。紅色出版社はかつて「北京紅色星球文化発展公司」を設立し、出版と著作権売買、マーケティングなどを行なっていたが、昨年、売上回収や人事管理に問題が生じて失敗に終わった。今は北京の孫麗麗氏が業務を処理している。大塊社ではジミー(幾米)の作品に関して遼寧教育出版社と共同出版を試み、知名度向上を目指している。
北京以外の地域では、天下文化グループが上海で「東方企業家雑誌」を発行し、ここを基地として著作権取引を進めている。晨星出版社は、大陸の哈爾浜出版社と合弁で「一鳴知己図書公司」を設立した。聯経出版社は山東出版グループと上海の季風ブックチェーンと共同で「三輝図書公司」を設立して出版業務を進めると同時に、一律69元を売り物にしている「天龍書店」と協力して大陸での取次・販売市場の開拓を試みている。

北京三聯書店の元総経理である沈昌文氏は、台湾や香港の出版界に広い人脈を持ち、両岸交流の推進者となっている。退職した今も三聯書店の喫茶室に毎日「出勤」している。
霧に覆われた森
臨機応変で機転が利く台湾の出版社は、それぞれに業績を上げているが、彼らは大陸での境遇を「内憂外患」という言葉で表現する。出版者としての大きな動きは政治的に危険だが、単純な著作権取引だけでは出版社としての野心を満足させられないのである。
中共当局の立場は明確で、現在出版業界については限度を定めて川下の取次や販売市場を部分的に開放しているに過ぎない。したがって域外の会社が川上の出版業務に携わることは法に触れるのである。そこで台湾の出版社は、さまざまな迂回手段を用いて大陸市場に入ろうとしている。現地の会社と合弁会社を設立するにしても、かなり大きな政治的リスクを負うことになり、低調かつ慎重であることが求められる。
近年、台湾海峡両岸の出版社の交流を積極的に推進してきた北京三聯書局の元総経理である沈昌文氏は、台湾の友人によくこう言う。「足を踏み入れるだけでいいのです。騒ぎ立ててはいけません」と。
沈昌文氏によると、大陸での経営に失敗した外国企業の多くは、大きな期待を寄せすぎたために失敗していると言う。例えば、香港の明報グループの責任者だった于品海氏は、スイスでの株式上場を成し遂げるために、同社は中国大陸の世論と文化に影響力を持っていると大々的に宣伝したことが中共の情報機関に注目され、長年の努力が水の泡と化したのである。逆にドイツのベルテルスマンは、川下の図書販売から大陸市場に入ろうとしており、すでに「高層指導者」の同意を得ているが、それでも極めて慎重に行動している。彼らは言論面で少しでも「敏感」な内容に触れる書籍やポルノなどは、決して扱わないのである。今日ベルテルスマンのネット会員はすでに150万人を超え、少しずつ影響力を拡大している。

アイドルグループ「F4」の魅力によってスターの写真集が両岸三地で同時発売されるようになった。ビジネスが文化交流を前進させている。
エージェントかブランドか
あまり大きな「野心」を持たず、書籍の内容だけを輸出するとすれば、大陸における台湾出版物の市場潜在力は極めて大きいのだが、単純な著作権売買にも実は危険が潜んでいる。売上回収、会計業務、編集監督、マーケティング指導などが本の売上に大きく関ってくるのである。
現在、台湾の出版物を大陸で発行する場合、台湾の出版社は作家との間で「出版契約」と「仲介契約」を結び、大陸で作品の著作権が売れた時には折半する方法を採っている。台湾の出版社は大陸のエージェントや民間の出版社、自社の大陸駐在員や「文化公司」と呼ばれるエージェンシーなどを通して大陸の出版社から「書号」を買い取る。そしてエージェントは宣伝を、大陸の出版社は発行を担当するのである。
「大陸の出版業務は複雑です。出版社はすべて公営で、書籍発行には書号を取得しなければなりません。どの出版社も100から200しか書号の割り当てが得られないので、出版に当っては、その本の商業的、政治的効果を十分に考慮する必要があります」と陳信元さんは言う。近年は民間の出版社(第二チャネル)の設立が認められたが、彼らも「第一チャネル」から書号を買わなければならないのである。
台湾の出版社の同一のシリーズや同じ作家の本が、大陸では幾つかの出版社から別々に発行されている理由もここにある。例えば紅色出版社のLOVE POSTシリーズも、知識、現代、新世界、中国戯劇の四社から出ているが、LOVE POSTのブランドは大陸で登録した同一の商標が使われ、本のサイズやデザインも統一している。
「DMやキャッチコピー、表紙、宣伝やマーケティングなどは台湾のものを少し修正すればそのまま使えます」と紅色出版社の周怡君・副編集長は言う。

ここ2年ほど、大陸での版権業務を整合するために台湾の多くの出版社が北京や上海に駐在員を派遣している。遠流出版の呉興文代表は長年大陸市場に関ってきた経験から、両岸のメディアに出版関係のコラムを書いている。
「都市文学」ブーム
やや難解な台湾の純文学や文化的作品は、大陸市場ではじっくり時間をかけて売っていく必要があるが、大きな売上が見込めないため、こうした本が大陸で発行される機会は少ない。このような現実から、ここ2年ほど大陸でブームとなっている台湾作家の本は主に自己啓発のものや都市文学と呼ばれるものだ。中でも蔡智恒、王文華、幾米などを中心とする「都市文学」に人気が集まっており、1点あたり20万部の売上が基準とされている。
蔡智恒の『初めての親密な接触』は2000年にネット文学ブームに乗って大陸で大ヒットし、紅色出版社と城邦グループはこれをきっかけに大陸市場に参入することとなった。ここ数年、大陸ではネットを使ったキャンペーン、サイン会、マスメディア動員、作品の演劇化といった手法がネット文学や都市文学の宣伝方法として定着している。
ジミーと王文華の作品は、大陸の都市の消費習慣と台湾のそれとの近さを象徴している。
ジミーの絵本は2000年に『世界絵本大作家シリーズ』という形で大陸で発行されたが、初版の5000部も完売できず、大陸の出版社は躊躇した。精緻なイラストを主体とした本が売れるほど大陸市場はまだ成熟していないのではないか、と考えたのである。しかし民間の出版社である北京正源図書公司の王冬プロデューサーの考えは違った。彼女は、本の印刷と質感を台湾のものと同じレベルにすれば必ず売れると考え、実際にそうしたところ、大ヒットしたのである。
「画風は現代的で、物語は中国風に婉曲で繊細というジミーの本は、大陸で新興の『プチブル階級』の感性にマッチし、大ヒットしたのです」と王冬さんは言う。今や大陸の若者の間では「恋愛したいなら、まずジミーを読め」と言われているそうだ。ジミーの本は台湾海峡を越えて、意外にも恋愛の教祖になったようである。
何かが流行するには一定の偶然性があるが、本の場合は内容がおもしろく、市場のテイストと読者の趣味にマッチしていなければならないと王冬さんは言う。例えば、台湾の呉若権の『光のある所に立って』などの3冊は、ちょうどSARSの時期にぶつかって何も宣伝をしなかったが、かなりの売上を記録した。呉若権は今年の11月に北京、上海、広州などでサイン会を開くことにしており、大陸では注目され始めたばかりの新スターである。
この他に、作家にふさわしい出版社を選ぶことも重要だ。
夕刊紙「北京晩報」の記者・孫小寧さんによると、大陸の出版の中心地は北京で、北京のマスメディアによる書評は全国的に影響力を持つため、理屈から言えば初版の発行は北京から始めるべきだという。しかし王文華の『蛋白質ガール』は、いわゆる青春文学ブームを巻き起こした上海の世紀出版グループに舵取りを任せた。上海人は流行やブームを生み出すのに特に長けており、それが『蛋白質ガール』のスタイルとマッチし、同書は発売から1ヶ月で15万部を記録し、作家も出版社も大きな利益を上げることができた。

大陸の巨大な市場では、出版業界紙の「中国図書商報」だけでも6万部余り発行されている。写真は同社のメンバーだ。
ブームの裏側
台湾の都市文学が大陸でブームとなっているのは、都市から都市への流行の伝染が要因だが、台湾の出版業界におけるテーマ選定や編集、マーケティングコンセプトの前衛性などは大陸の出版業界を導く作用を持っている。大陸当局は、映像や放送などの領域では極めて保守的だが、出版に関する態度はやや異なる。今年の北京国際ブックフェアのプレスリリースでも、台湾と香港の出版業の高度な発達を賞賛していた。
プレスリリースは、大陸資本の色彩が濃厚な香港聯合出版グループの陳万雄・副董事長の次のような話を引用していた。2年前に世界的に大きな話題となった映画「グリーン・デスティニー」は、両岸三地の優れた人材の力を結集して出来たヒット作で、これは両岸三地の出版面での交流の手本になるだろうと。
しかし出版は映画とは異なる。出版の背後にはより深い文化交流の意義があり、大きな期待を寄せることができる。しかし、台湾の出版物の中国大陸市場における実際の影響力を考えると、それは表面から見るほど大きなものではない。都市文学ブームによる両岸の文化的交流も非常に限られたものだ。
北京開巻図書市場研究所の常務副総経理である孫慶国さんによると、中国大陸以外の地域から入ってきた出版物は大陸の出版総量の2割しか占めておらず、台湾のものはこれらの海外図書の4パーセントを占めるに過ぎないという。話題性の大きさに比べると、実際の出版量は少ないのである。
「流行のファッショナブルな本というのは文化的な影響力を示すものではなく、ファッションがリードする期間は数日に過ぎません。両岸の出版業者は都市文学などの商業的価値のある書籍で協力経験を蓄積した後、より広く深い交流を展開していくべきです」と話すのは、中国図書商報の程三国・編集長だ。出版に対する期待は、本の売上だけに留まるものではないのである。

文学、生活、ハイテク、言語から児童書まで、大陸都市部の購買力は高まりつつある。どの都市の出版社にも無限のチャンスが広がっている。
巨大な出版エネルギーの反作用
世界中の出版社が大陸市場に参入しようと努力しているが、台湾と香港の出版社がここ数年直面している体質的な問題は変らない。自身の問題が解決できないまま大陸市場にばかり目を向けていると、地元での問題が生じてくる。中でも顕著なのは簡体字の図書が安く大量に入ってくるという問題だ。
香港は台湾と同様に繁体字を使用しており、金庸や梁雨生といったベテラン作家が築いてきた武侠小説という支柱があったため、優勢な台湾の出版物が入ってきても、華文出版市場の一角を占めてきた。しかし、97年の中国返還以降、香港では安価な大陸の簡体字の本を読む人が増えてきた。一方、香港の繁体字の本は価格が高く、図書輸入検査などもあるため、大陸に販売することができない。聯合出版グループの陳万雄・副董事長は、香港の出版業界の最大の任務は、他が取って代わることのできない特色を生み出すことだと指摘する。
価格の安い簡体字図書の流入という問題は台湾でも生じている。
人口2300万人の台湾市場では、ここ2年ほど年間4万点余りの新刊が出されており、新刊は書店に並べられた直後に返品されるといった状況で、出版社の在庫は増え続けている。一方、大陸からほぼ半額の書籍が入ってきて問題はさらに深刻化してきた。特に『ハリー・ポッター』などの翻訳物は繁体字版と簡体字版の販売市場を分けるべきかどうかが議論された。出版社は政府新聞局に対して、大陸書籍の輸入に関する厳しいルールを定めてダンピングを防止すべきだと要求している。
「読者が、読み慣れた繁体字ではなく簡体字の本を選ぶとしたら、台湾の出版業者は反省する必要があるかも知れません。台湾の書籍の価格は高すぎるのではないか、台湾の翻訳のスピードと質は高いとは言えないのではないか、あるいは原価を抑えるために、検閲を受けて修正された大陸版をそのまま繁体字に変えて出しているだけではないのか、などの課題があります」と語るのは桂冠図書公司の元学術編集長・呉宗昇氏だ。出版業は、生産原価を抑えるために海外移転せざるを得ない他の産業とは違うのだから、大陸ばかりに目を向けるのではなく、地元の問題の解決に力を注ぎ、よい本が生まれる深い文化を育てていくべきだと呉宗昇さんは言う。
台湾の出版業者は、長年をかけて培ってきた成熟した経験をもって大華文市場に進出し、新しいコンセプトや多元的な思考によって、形成されたばかりの華文出版物の世界に活力をもたらしている。だが、台湾の軽い文学が大陸でブームになっている時、大陸で翻訳された大英百科全書を繁体字に変更したものが台湾でも発行された。大衆文化と知的論述が両岸の出版取引において正面から矛を交えている。中国大陸は文化面で政治的な保護を厳しく行なっており、出版産業の生産能力をもって辞書や百科事典などを生産させ、市場志向によってバランスが失われないようにしているのである。一方、自由経済を信奉する台湾や香港の出版社は、大陸市場がなかなか開放されないと嘆くだけでなく、出版社としての文化的使命感をより深く考える必要があるのではないだろうか。書店で本を選ぶ読者が期待しているのは、決して本の金銭的価値だけではないのだから。
市場の雛形が形成され、華文出版市場の再構築が期待される中、より深い文化的関心が寄せられることを期待しようではないか。

本を愛する人は無数の本の中から良い一冊を探そうとする。地域間の商業的交流が、公共財である知識と読者との架け橋となっている。

香港の出版業者は両岸交流において仲介の役割を果たしてきたが、今は二つの強い流れの中で自己の道を見出そうとしている。香港天地図書公司の顔純鉤・副編集長は、進歩の力は出版社が理想を持つことから生まれると言う。

近年、両岸の出版物は政治の壁を乗り越えつつある。台湾と香港と大陸の各地で頻繁に国際ブックフェアが開かれ、さらなる整合に向っている。