最近、インターネットがニューエコノミーの成長を促し、新しいハイテクビジネスを生み出すと共に、従来型の経済発展モデルも揺るがしている。
マイクロソフトの創設者ビル・ゲイツ氏は機械や工場を持たず、土地や黄金にも、石油にも頼らなかった。彼が手にしたのは知識処理の手法である。
起業の資本となるのが資産や土地ではなくなったために、ベンチャービジネスを起すのは容易になったと言えるが、その一方で起業を成功させるのはより難しくなっていることに目を向ける必要がある。
ニューエコノミーの時代に投資家から資金を引き出すには、ポイントを掴んでいなければならない。3分以内に投資家の注意を引きつけられなければ、望みはないと思うべきである。起業家は単刀直入に、最短時間内に投資家の関心を勝ち得なければならない。
ではどうしたらいいのか。以下に列記した13のテーマこそ、投資家が一番関心を持っている事項である。
この13の「インテリジェント・ベンチャービジネス経営戦略」を理解した上で、独創性に満ちた構想を打ち出し、起業計画が基本的な競争力を備えているか徹底的に検証してみれば、成功の第一歩をすでに踏み出していることになるのである。
第一テーマ:会社の位置付け
成功する会社は、取捨選択に長けている。取捨といっても問題となるのは捨、何を捨てるべきかである。
インテルは1980年代の末に、日本の半導体企業とメモリーで競争しても勝てないと判断し、メモリーから撤退して得意とするマイクロプロセッサーに特化する戦略を取った。これにより終りのない競争から脱け出し、急速な成長を遂げたのである。捨てるものがあってこそ、得るものがある。
捨てるには排他性が伴う。会社の位置付けが明確であればあるほど、経営への制約が増大するからである。しかし、成功した会社は、この制約を明確に認識しており、市場の住み分けをはっきりさせて差別化を図り、価格競争に引きこまれるのを避ける。
そこで注意すべきは以下の諸点である。
1. 会社が複雑であろうと、はっきり分りやすいコンセプトを持つ。
2. 会社の位置付けに企業の経営戦略を反映させる。
3. 曖昧な位置付けは曖昧な経営戦略を意味する。
4. 業種毎の価値体系における自社の役割を、製品あるいはサービスで明確に区分し、消費者に明確に知らせる。
5. 差別化により会社の位置付けを優位に置く。
第二テーマ:実行サマリー
実行サマリーは投資あるいは起業計画の前書で、限られた字数の中で計画全体の特徴や価値を忠実に描く必要がある。投資家にとっては、明快な実行サマリーの方が冗長な計画書に勝る。
シリコンバレーのベンチャーキャピタルのあるCEOは、「企業計画は財務契約ではなく一つのストーリーで、血と肉を持った人が参加するシナリオが必要である。私はエクセルを使わないし、財務構成モデルも論じないが、このシナリオがどれほどの構想を持っているか理解するのに時間を費やす」と話す。
以下の点に注意すべきである。
1. 実行サマリーこそ投資家に計画を理解しようと仕向ける唯一のチャンスである。
2. 計画のプロモーションに専念。
3. ポイントを押える。これは作文コンテストではない。
4. 市場、経営陣、財務と技術を順に説明する。
第三テーマ:起業の正当性
日本の経営の神様、松下幸之助は「客が引きつけられるような製品を売るのではなく、客に役立つ製品を売れ」と言ったそうである。
投資家は多くのカードを握っている。そこでその起業計画が実行に値するか、なぜ現在なのか、その会社でなければならないのかを知りたがっている。そこで、起業家が考えるべき諸点を挙げる。
1. 何故そうするのか、その会社でなければならない理由、そして現在である理由。
2. ドル記号こそ資本主義社会の唯一の共通語である。
3. 市場が起業計画の正当性を決める。
第四テーマ:負うべきリスク
起業家が投資家に対して出資による事業への支援を求めるとしたら、投資家は心の中で「私の資金で一緒に冒険しようと言うが、そう言う君はどんなリスクを負っているのか」と聞いていることだろう。
投資家は起業家が共に同じようなリスクを負うことを願う。リスクの程度が同じであれば、利己的にならずに協力できるからである。
そこで起業家はリスクと失敗の可能性を熟知していなければならない。シリコンバレーでの新しい世代の知識志向起業家は、こんな価値観をもっている。まず失敗は、南北戦争で負けた南軍と同じく単なる過去の歴史である。次に、経験のあるほうが未経験よりいい、それが失敗であってもだ。三番目に失敗はMBAに匹敵する。そして最後に失敗は珍しくないのだから、次々にチャレンジしなければ成功しない。
守るべき原則は以下の通りである。
1. 投資家と起業家双方に同程度のリスクがなければ、協力は難しい。
2. 時間と金銭を投下しているか。
3. 安定した仕事や収入を諦める気があるか。
4. 自分だけ救助ボートを用意し、逃げる準備をしていないか。
5. 起業の失敗は、個人の人間としての失敗ではない。
第五テーマ:会社のビジョンと経営モデル
台湾セミコンダクターの張忠謀社長は、企業経営の核心は志と道を一つにすることだと言っている。志とはビジョン、道は企業文化である。企業ビジョンは単なる夢ではなく、株主と社員の求心力をまとめなければならないので、それには一定の実現可能性が必要とされる。
ビジョンと共に、経営モデルが必要となる。ビジョンを実現するのが経営モデルであり、それがあればどんなビジョンも実現できる。
アメリカのネットによる航空券直販のプライスライン・ドットコム社は設立2年余りで、時価総額がアメリカの三大航空会社(ユナイテッド、アメリカン、デルタ)の合計を上回ったことがある。この三社の所有航空機総数は1400機を越えていたが、プライスライン・ドットコム社にはコンピュータとサーバーしかなかった。何が優れていたのかと言えば、その経営モデルなのである。
そこで以下の点を考えよう。
1. 数年後の会社をどう構想するか、それが会社のビジョンである。
2. そのビジョンを実現させるのが、経営モデルである。
3. ビジョンは期待であるが、実現可能でなければならない。
4. ビジョンが定まったら軽々しく変更してはならないが、経営モデルは適宜に変更する必要がある。
第六テーマ:技術とサービスの紹介
投資家に技術を紹介するのは、起業家にとって一番手馴れた仕事であるが、反面一番矛盾するチャレンジでもある。起業家は巧みにその技術を説明して投資家に理解させなければならないが、細部まで説明しすぎて苦境に立たされることもある。
そこで望ましい方法は、知っていることは説明すると言うことである。但し、知識をひけらかしてはならない。
次の点に注意しよう。
1. アイディアを説明しつつ、知的財産権は守る。
2. 秘密保持の約定を強く主張するのは素人である。
3. 投資家は通常起業家の知識を掠め取ろうとは考えていないが、その知識の出所が正当かどうかを気にしている。
第七テーマ:問題解決
起業計画についてどんな問題を解決すべきなのだろうか。これに明確に答えられないのなら、起業の夢は不安で一杯だろう。
台湾の会社が直面している最大の問題は、不完全な価値連鎖である。委託加工産業では、附加価値の高い部分を顧客が握っている。
しかしこれは結果に過ぎない。本当の原因は、台湾企業が問題解決の定義を曖昧にし、あるいは単に製造という面だけから問題を解決しようとしているからである。問題解決能力を高めるには、次の点が必要となる。
1. 解決策とは、収益力と市場の開拓である。
2. 問題を認識が解決の一歩。
3. 今日の問題解決に全力を上げる。
4. 提起される問題が解決された問題より多くなってはならない。
第八テーマ:チームは完成されているか。どんな人材が必要か。
起業家は自分の経営陣を確立するが、自分を中心に同心円を描くことから始め、次第に外に人脈を広げていくために、構造的に同種の人間が集ると言う欠点が生じる。
投資家は起業家が自分の経営陣の人材不足を見とめることを好む。これは起業家が着実な態度で、自分の弱点を知り対応策を取ろうとしていると見られるからである。
優秀な取締役会と経営陣との間には相互補完の関係が必要で、敵対しているわけではないが、一方が他方の認印になってはならない。
起業家は自分が知識と青春を差し出す代りに、投資家が資金を出していることを忘れてはならない。
投資家には起業家を牽制する理由はない。取締役会と経営陣とは共通の利害関係にあるのであって、お互いに疑心暗鬼となるものではない。
起業家に言いたいのは、自分に足りない点を認めて誠実に協力を求めなさいと言うことである。
第九テーマ:顧客はどこにいるのか、どうやって引きとめるのか。
この問題に答えるには、対象となる市場を細分化し集中すべきと言うしかない。次いで、区分した市場の中の顧客が、なぜ自分の会社と取引したくなるのかを分析することである。
さらに、競争者が同じ市場内で顧客を奪うのをいかに防ぐかも考えなければならないだろうか。また効率的に参入障壁を確立し、競争の優位保持を考えるべきなのかもしれない。
価格競争は一番簡単な戦略だが、効果も限られている。いかに価格戦争の渦に巻き込まれないかを考えるべきで、安値で競争を引起そうとしてはならない。
また、業種の大きな変動は、普通は顧客以外から来ることを覚えておこう。顧客にならなかったのは、その製品が必要なかったからか、それともよりよい答えがあったからである。
このテーマについて、次の点に注意しよう。
1. 一つの市場に集中せよ。
2. よい製品やサービスは市場を差別化し、存在していなかった顧客を創出する。
3. どんな会社も顧客にとって価値があるが、その価値が顧客の期待を決める。
4. 非顧客を忘れるな。専門性の罠に陥ってはならない。
第十テーマ:競争者はどこにいるのか。
競争者がいないはずはない。今はまだいないかもしれないが、明日になれば出現するのである。万一、本当に互角の競争者がいない場合は、自分自身が競争者と言える。
「参入障壁」と「撤退障壁」は矛盾した命題で、前者は競争者の数を決め(参入障壁が低いと、誰もが参入する)、後者は競争が悪性化するか(撤退障壁が高いと、撤退は巨額の損失となる)を決定する。
主要な競争力維持のためにまずすべきことは、主要でない競争業務を排除し、重点を核心と戦略的管理に置くことである。
以下の点を繰り返し考慮しよう。
1. 参入障壁と撤退障壁をよく分析する。
2. 主要な競争力に焦点を合せる。
3. 主要なメンバーを用い、核心技術を開発し、主要な目標を達成。
第十一テーマ:シェアとは何か
アメリカでは電話は50年かかって90%の普及率に到達したが、ビデオ・デッキは18年であった。新しいハイテク製品やサービスには、これほど長い製品のサイクルは期待できないだろう。
ハイテク企業は進化しなければ淘汰される。成長(急速な成長)が必須の道であり、シェアは急速な成長の指標である。
決め手となる戦略は、すべてゲームのルールを急激に変えられる戦略であり、これにマッチする経営方針は「リスクを冒す」、「既成のルールを守らない」、そして「標準となろうとする強烈な野心」である。
企業家の野心が全てを決定するので、次の点をチェックしてみよう。
1. 会社はどうやって急速に成長しようと考えているのか。
2. ハイテク企業は進化しなければ淘汰され、急速な成長が必須の道である。
3. 積極的な進取の態度と、一方的思い込みは僅かの差しかない。
4. 論理的に結果を推論する事がより重要となる。
第十二テーマ:損益分岐点をいかに推測し、会社を変えていくか。
ネット経済においては上位に食い込まなければ淘汰されるので、合併が経営の継続には重要となる。
合併したり、されるためには、財務担当者は会社が最大の商品であるという考え方に慣れる必要がある。
これまでの財務担当者は原価管理やキャッシュフロー、資金の調達やリスクヘッジに重点を置いていたが、これからは合併と資金調達に重心を変える必要がある。
資金調達には用途を説明しなければならず、合併には資産の評価が問題となる。
これまで資金調達と言うと業務の拡大が主であったが、ネット会社の資金調達は合併したり、されたりと言う時の価値増大のためである。
ネット経済の価値は経営モデルにあり、会社には評価すべき有形資産があまりないので、経営モデルの価値分析がこれまでの在来型監査業務に取って代るだろう。
経営モデルの価値は現在ではなく未来に着目するために、合併を計画するときは株式交換が主で、現金を会社に留保する。株式交換の利点を実現させるためには、会社の株式を急いで公開しなければならない。
こういった混沌とした局面では、損益分岐点が最終的に意味を持つ財務指標となる。
こう言った一連の変化の中で、財務担当者は大きな衝撃に直面するだろう。起業家が注意すべきことは以下の諸点である。
1. 現金とキャッシュフローに注意する。
2. 経営の継続ではなく、随時現金化できる会社が最大の利益である。
第十三テーマ:コミュニケーションとマスメディア
コミュニケーションとマスメディアの重要性は、ハイテクに引けを取らない。上場企業の経営陣が、しばしば一般向にマスメディアを通して発言しているのがその一例である。
コミュニケーションとマスメディアのポイントは簡単明瞭に、相手の言葉で話すと言うことだろう。
コミュニケーション能力を磨くには、まず聞くことであり、次いで論理的思考と学習能力となろう。
客観的でオープンな態度で、相手の質問の背後を理解し、それに応じて回答する。自分の専門知識で相手をきりきり舞いさせてはならない。
相手の専門的知識に期待してはならないが、一般常識を軽く見ても行けないのである。
起業家は次のような習慣をつける必要がある。
1. 表現力を養い、一般の人がポイントを掴めるよう専門知識を紹介できなければならない。
2. コミュニケーションのためには、適切な例を挙げるのが最もよい。
ガレージ・ドットコム社はアメリカ最大のベンチャー・キャピタル仲介のホームページだが、その創設者の川崎氏は、今年5月の講演において新しい世紀のベンチャーをこう述べた。
19世紀の製氷業者は結氷した川や湖から氷を切り出して顧客に売りっていたが、その後製氷工場に取って代られ、さらに製氷工場は電気冷蔵庫に取って代られた。彼らがそれぞれに変化に抵抗せず、変化を受け入れていたら新しい技術のジャンルに参入でき、自分たちが心血を注いだ事業を奪われることもなかったであろう。
変化こそ、永久に勝ちつづける道なのである。