外国人の案内は故宮博物院と夜市の屋台体験ばかりでうんざりしていないだろうか。外国人の目に興味深く、魅力的な台湾とは、どんなイメージなのだろう。
台湾での中国語学習に外国人学生を呼び込もうと教育部が推進する「街歩き華語学習」プログラムでは、一連のアクティビティで世界各地の学生が「歩き」ながら「学ぶ」。いつもの路地やレストランで、台湾社会の生活を感じ取る。
1月中旬から、2ヵ月間の「街歩き華語学習」プログラムが始まった。毎週1時間から4時間のカリキュラムである。目的地は従来と異なる。かつては台湾初の米国スタイル模範ニュータウンで、今は個性的なショップが林立する文芸ムードで人気の民生社区である。

教育部による「街歩き華語学習」プログラムでは、クリエイティブな雰囲気のある台北市民生社区をエリアとして、台湾に中国語を学びに来た外国人学生たちに、台湾の一味違う一面を体験してもらう。
漫歩、体験、共感、台湾を感じて
「街が教室」「第三空間」「有名人と仲良し」を三大テーマにしたカリキュラムでは、街ガイドに取り組み、パーソナルショップ「funfuntown」を営む蕭光を招き、学生を連れて富錦街一帯の路地を訪ねる。「第三空間」のテーマでは「3,co」「邀月酒坊」「節瓜(ズッキーニ)」「Café Ballet(カフェ‧バレエ)」の4店でDIYを体験し、学生は実践の中で中国語を学ぶ。「有名人と仲良し」では、来台十数年、人形劇文化を推進してきた「台原亜洲偶戯博物館(台原アジア人形劇博物館)」の羅斌館長と、双方芸廊創設者の胡朝聖氏をゲストに迎え、学生と交流する。
民生社区の三十を超える業者が結集して共同参加し、講座のテーマもスタイルも異なるが、共通の要素がある。「台湾の味」である。地元食材を洋食に活かす「ズッキーニ」は、シェフが案内役になって西湖市場で食材を仕入れる。邀月酒坊は「ワインには洋食」という固定観念を打破して、鍋料理に合うワインを選び、学生に鍋とワインを味わうサプライズの旅を楽しんでもらう。
教育部国際及両岸交流司の廖高賢副参事は、従来の文化体験ツアーから脱却し、台湾で興隆しつつある文化クリエイティブ産業との融合を狙う。クリエイティブで独自のスタイルをもつプログラムで、若い学生にこれまでとは違う台湾を感じてもらい、華語教育市場の看板にしたいという。
新たな道を切り開くことを選んだのは、近年中国大陸が国のリソースを傾注し、世界中で孔子学院を設立し、大々的に華語教育に乗り込んできたのに対抗するためだ。
台湾は華語教育を長年推進してきた。師範大学、成功大学などの華語センターが培ってきた評判もあり、国際的には漢学の大家や、オーストラリアのケビン・ラッド元首相も台湾で中国語を学んだ著名人である。
そして今、中国大陸の台頭で華語教育市場が拡大している。教育部は台湾全土四十数大学の華語センターで生徒募集を強化するほか、海外教育見本市等での露出の機会も逃さない。生徒募集政策の転換は、学生数に如実に表れた。教育部統計では2012年度に台湾で華語を学ぶ学生数は1万3千人強だったが、2015年度は1万8千人を超えた。

華語センターで学ぶ外国人学生。スタイラスペンは中国語学習に役に立つと言う。(荘坤儒撮影)
中国語を学び観光大使に
1月中旬、民生社区の3,coのカフェスペースで第一週の講座が行われた。小ぬか雨でも学生のやる気は損なわれない。時間になると、日本やカナダから来た学生8、9人が腰かけて、茶文化のレクチャーを受けた。教室で一字一句を復誦するのと違い、東呉、師範大、文化大の華語センターに散らばる外国人学生が店に足を踏み入れた瞬間から、台湾本場の雰囲気の体験が始まる。
スペースを提供する3,coは1993年の創業、台湾でデザインされた家具を海外で販売していた。数年後、3,coは国内に戻って店舗をオープンした。現代的デザインを伝統食器に注入し、生活美学の創意を謳い、身近な存在となった。講座で使う器は、すべて3,coと台湾のデザイナーとの協力の結晶である。高雅貞店長によると、3,coは台湾精神あふれるオリジナルデザインと茶の文化との融合を試みた類似の講座を行い、好評を博してきた。「これを機に台湾文化を外国人学生に紹介したい」という。講師が「包種」「東宝美人」……と台湾四大茶系を紹介する。続いて淹れたお茶と色を丁寧に観察し、最後にじっくり味わう。「中国語が上手でも下手でも、台湾茶芸を感じることはできます」
アルメニアから来たVarditer Harutyunyanさんはポーランド帽をかぶり、おしゃれなワンピース姿が学生の中でもひときわ目立つ。文化大学華語センターで学ぶ彼女は三度目の訪台である。3年前、旅行会社の仕事でアルメニアのプロモーションのために初めて台湾へ来た。
たった3、4日の多忙なスケジュールで、台湾の温かみが深く心を打った。仕事柄、彼女は世界中を回るが、ヨーロッパに比べ台湾社会は温かいという。中国語が全く分からないのに道に迷い、どう道を聞いたものかと悩んでいると、台湾の人々が話しかけてきて、スマホで調べ、身振り手振り行き方を教えてくれた。ヨーロッパなら聞いても肩をすくめるか、相手にする暇はないと手を振るかである。
Varditerさんは新しいものに触れることが好きだ。台湾の人・物・事をよく知るには中国語を学ぶのが唯一の道だと知っていた。2014年11月、仕事のオフシーズンに台湾で華語を3カ月学び、中国語の上達を目指して、今年再び訪台した。
台湾の話になると彼女は目を輝かせる。ヨーロッパ人には印象の薄い台湾を、彼女は前からかなり知っていた。大学で国際関係を専攻し、卒論は米・中・日・台の国際関係の考察だった。遠く国交もなく、互いに親しみがない二つの国を行き来する彼女は、最高の観光大使になった。アルメニアから遠いアジアの台湾を売り込み、台湾にはよく知られていないアルメニアを紹介する。今年3月、台湾で「アルメニア祭」を計画している。しっかり紹介するつもりである。
お茶講座でVarditerさんは、テイスティングや台湾茶に興味津々である。2014年の講座が終わった時には、台湾高山茶をお土産に買い込んだ。友人も彼女の「洗脳」で台湾ファンになり、今年は団体で「台湾茶芸の旅」に来た。
もう一つ、著名なカフェ・バレエでは、ロシアやスペイン、シリア、ドイツなど世界各地の学生が講座の開始を待っている。文化大学華語センターで勉強する鈴木澄子さんと玉城妃加里さんも席についている。68歳の鈴木澄子さんは若い時に台湾に惚れ込み、台湾で生活したいと思ったが、仕事や家の都合で実現できずにいた。2、3年前、退職してようやく台湾に来ることが出来た。一人で台湾で学び、一回りも二回りも若い世代と華語センターのクラスメートになった。
同じクラスの玉城妃加里さんはアイドルを追って台湾までやってきて、中国語を学んでいる。数年前、台湾のタレントが一挙に日本に進出し、人気グループF4のドラマ「流星花園(花より男子)」が日本に登場した。アイドルが現れると興奮して叫んでしまうが、言葉が通じず思いが伝わらない無念さから、中国語の勉強を思い立った。
沖縄のホテルで働いていた時、台湾人の口ぶりや様子が沖縄の人とどこか似ていて親しみを感じ、台湾を知りたいと思うようになった。玉城さんは台湾に来る前から、台湾で長年仕事をしていたお茶の先生から台湾茶に触れてきた。世界に知られる日本茶より、台湾茶の清々しい香りや、喉から広がる爽やかな甘みが好きだという。
2015年9月、玉城さんは仕事を辞めて台湾で中国語を学ぶことにした。たった5ヶ月だが中国語は流暢だ。勉強の合間には猫空ロープウェイで、先生やクラスメートと山へ行ってお茶を楽しむ。中国語を学び、猫空へ行く——彼女の願いは一つひとつ実現していく。あとは専用の茶道具が見つかれば、好きなだけ台湾高山茶を味わえる。

アルメニア人のVarditer Harutyunyanさんは仕事で台湾に来て以来、台湾が大好きになり、茶芸も夜市も気に入っているという。(台湾創意経済促進会提供)
台湾で漢字の美しさを知る
「第三空間」シリーズの最後の講座には大勢の学生が出席した。いつものメンバーに加え6、7名の淡江大学華語センターの東南アジアの学生がいる。ベトナムの梁氏征さん、武氏紅さん、范氏青蘭さんとインドネシアの高維蓮さんは全員華人である。青春真っ盛りの彼女たちはテーブルに集まり、中国語でおしゃべりしながら、故郷にはない水餃子を作っている。
キュートな口紅を塗った高維蓮さんは包んだばかりの水餃子を手に記念写真を撮った。台湾は1年に満たないが、台湾との縁は深い。兄は台湾南部の大学に在学し、姉は台湾に嫁いでいる。高校卒業後、彼女はインドネシアで推薦で大学に進む道を選ばず、将来の中国語の重要性を見込んで台湾で華語を学ぶ決心をしてきた。
華人でも、インドネシアで華語に触れる機会は少なかった。台湾に来た頃は、中国語が一言も話せなかった。大好きな士林夜市で食べ歩きをしても、全部身振り手振りだった。今では台湾各地を旅するのに流暢な中国語を操る。この一年、台湾での生活と勉強で築いた基礎のおかげである。活気ある授業や、校外での台湾の人々との対話は、インドネシアにいた時にはなかった。故郷の友達には台湾の良さを積極的に伝え、彼女の売り込みで、同級生3、4人も淡江華語センターに来て一期下の後輩になった。
梁氏征さんが台湾を選んだのは、台湾の繁体字の美に憧れたからである。彼女もクラスメートのベトナム人も、中国語は台湾に来てゼロから始めた。台湾でのわずか一年で、梁氏征さんの中国語は飛躍的に上達した。華語ブームの中、多くの友人が中国大陸に行って華語を勉強しているが、彼女は大陸に行こうとは思わなかった。台湾にだけ残っている繁体字が美しいからである。「簡体字の愛の字には、愛はあっても心がありません」

醤油少々とコーンを加える。レストラン「節瓜」のシェフの指導を受け、ベトナム出身の学生が市場で買ってきた食材で餃子のたねを作る。
悠遊漫歩・台湾に惚れ込んで
文化体験といっても、体験講座には必ず華語教師がついて指導する。
華語のテキストではよく、学生が台湾の海や山や各地を巡り、夜市のB級グルメを頬張ったり、故宮博物院を見学したりといったコースが「台湾基本セット」になっている。台湾の茶文化や夜市の食などのトピックも収録されている。
しかし「教材がどんなに語っても、自分で体験した強い印象にはかないません」華語教育に従事して10年以上、経験豊かな東呉大学華語センター張惠敏先生は、教室以外での体験は、中国語レベルに関わらず、誰もが台湾の街を感じ取ることができ、実践の中で学ぶ過程で喜びが得られるという。言語学習に最も重要なのは夢中になることである。「夢中になってしまえば、継続する力が生まれます」
これでも海外の学生に台湾に来るよう説得する理由がない、と心配に思うだろうか。富錦街の路地をそぞろ歩き、民生社区に点在する個性的なショップをエンジョイし、店主と雑談して庶民の暮らしを楽しむ。台湾の日常の風景こそ、学生たちを中国語学習のために台湾に呼び込む最高のプロモーションなのである。

伝統の陶芸に現代的デザインを取り入れる「3,co」で、オーナーの諭幼眉さんが学生たちに陶器を紹介する。


淡江大学華語センターに学ぶインドネシア人の高維蓮さん(右から2人目)とベトナム人のクラスメートたちが料理体験プログラムで水餃子を作る。

「街歩き華語学習」プログラムの「第三空間」カリキュラムを終えた学生たち。手に持っているのは春節に欠かせない春聯である。

68歳の鈴木澄子さんは、退職後に台湾への語学留学を決意し、若い頃からの夢をかなえた。(台湾創意経済促進会提供)

日本、ロシア、スペインなど、世界各地から来た学生が、Café BalletのテイスターTimからコーヒー豆の説明を受け、台湾のコーヒー文化に触れる。

日本、ロシア、スペインなど、世界各地から来た学生が、Café BalletのテイスターTimからコーヒー豆の説明を受け、台湾のコーヒー文化に触れる。